「恋愛しないとダメですか?」 ~当事者に聞く 知ってほしい“アセクシュアル”のこと~
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ある研究では、人口の0.8%との結果が出ている性的マイノリティ「アセクシュアル」。恋愛至上主義的な社会に対する当事者の苦悩とは…? 当事者が思いを語る。当事者でも当事者でなくても知ってほしい、“アセクシュアル”のこと。(デジタルグループ 坂本千春)
■知っていますか?「アセクシュアル」
昨今、多様性がうたわれ、“性的マイノリティ”や“LGBT”などの言葉・呼称への認知度は高まり、身近になってきている。とはいえ、その性的マイノリティの一つである、「アセクシュアル」という言葉を知る人はどれだけいるだろうか。
アセクシュアルとはなにか――
セクシュアリティの一つであり、英語では「Asexual」と書く。“A”は否定や打ち消しを意味するので、“Sexual”を否定し、「他者に性的に惹かれない」指向のことを意味している。エイセクシュアルともいう。
アセクシュアルと関係性が強いのが、英語で「Aromantic」と書く「アロマンティック」。こちらは、恋愛を意味する“Romantic”をアセクシュアルと同様に“A”で否定するので、「他者に恋愛感情を抱かない」指向のことである。
そして、以上の2つの指向を合わせた「他者に恋愛感情を抱かず、性的にも惹かれない」セクシュアリティを、「アロマンティック・アセクシュアル」という。
以降、この記事内では、アロマンティック・アセクシュアルについても、便宜上「アセクシュアル」と表現する。
国立社会保障・人口問題研究所などが行った「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」(2019年)によると、アセクシュアルの割合は、回答者の0.8%ほどだったということだ。この結果からアセクシュアルは、マイノリティの中のマイノリティであることがわかるが、そんなアセクシュアルを公表して活動をしている人がいる。
■「名称がついていたことに安心した」 アセクシュアルを公表した町田市議の東さん
東京都の町田市議会議員の東友美(ひがしともみ)さん。東さんは、2018年、町田市議会議員選挙に初当選、現在2期目を務めている。
市議として、議会に出席することはもちろん、市民からの相談への対応、女性のためのハラスメント相談窓口を手伝ったり、性的マイノリティ関連の啓蒙活動をしたりしている。
現在はアセクシュアルを公表して活動しているが、立候補したときは、この言葉も、ましてや自身が当事者であることも気づいていなかったという。
市議会議員当選後に出席したGID(性同一性障害)学会の講演会で、アセクシュアルという言葉と出会う。
それまでは、恋愛感情がない自分は変だ、“欠落がある”と思いながら生きてきた。ところが、名称がついていることを知ったことで、「腑に落ちた。私だけかと思っていたけど、名称がついていることで仲間がいることを知って安心した」と当時を思い返す。
その後、2018年9月の町田市議会定例会の一般質問冒頭で、性的マイノリティ向けの相談窓口の設置を強く促すためにも、自分も当事者であることを公表した。
■自分の個性が相手を傷つけることに“傷ついた”
名称を知ったことで、自分はおかしくないと思えたものの、知る前は悩みもあったという。
東さんも過去には人と交際してみたことがあったそうだ。ところが、“相手がしたがっていることと、自分の気持ちが大きく違い”、結果的に相手を傷つけるようなことがあったと振り返る。
「自分の個性が相手を傷つけているということが、また自分の傷つきになる」と苦しい過去を語った。
生きていく中で、「なんで自分はこうなんだ」と自分を追い詰めることもあったという。
■生きづらい恋愛至上主義な社会 対するアセクシュアルのメリット
恋愛することは当たり前だという社会的風潮は非常に根強い。
男女が仲良くしていたり、例えばどこかにでかけたりするだけでも、付き合っているのかと詮索されることが往々にしてある。たとえそれが友人関係であったとしても、だ。
東さんはこうした捉え方に対して、恋愛至上主義的な価値判断だと感じ、生きづらさを覚える。それは、人との付き合い方にも同じことが言え、一人の人間対一人の人間として交友したいのに、相手はそういう感覚ではないことがほとんどのため、戸惑いになるという。
それは、「あくまでも“恋愛すること”が前提にあって、そのフィルターを通して相手を見ている」からであり、かつその捉え方は、「相手をそのまま受け入れるというよりは、性別というカテゴリを見たり、自分にプラスになるのかを見たりして、この人はいいとか悪いとか(商品のように)ジャッジしているよう」だと指摘し、そんな見方をされるのは嫌だと、東さんははっきりとした口調で話した。
一方で、アセクシュアルの対人関係への捉え方にはメリットがある、と続ける。
「相手を自分の恋愛対象になるかならないかという視点で見ることはなく、この人はどんな人なのか? と、あくまで一人の人間として見ることができる」と述べた。
■結婚をしないことは“もったいない”? 結婚すれば幸せになる……?
結婚や出産、子育てについてどう考えるか尋ねると、この取材の数日前、結婚をしていないことについて「もったいない、もったいない」と言われたことを打ち明けてくれた。
これに対して、東さんは「誰にとって、何がもったいないのか」と疑問を持ったという。
一人の人間としてしっかり生活していて、結婚しないことでその人に迷惑をかけているわけでもないのに、結婚していないこと、出産・子育てしていないことをマイナスのポイントと捉えることは違うのではないか、と述べる。
結婚したことで幸せな人がいることも理解した上で、離婚者が増えていると聞く現実を踏まえると、「結婚=幸せ」は“決めつけ”ではないかと言及し、「子どもを産んで一人前」という、社会に根付いている風潮についても、反論したい気持ちがあると語った。
■名称が、悩んでいる人たちの居場所になるように…
アセクシュアルの認知度は、徐々に広がっていると実感してきているものの、ただ社会一般に誰もが知っているかというと、それとはほど遠い、と東さんは言う。
この取材を通して東さんがたびたび口にしていたのは、「まずは知ってほしい」という言葉だった。
「“名称が居場所”って言ったらおかしいですけど、名称があることで、目に見えないけど、仲間がいるんだと」
自身の過去の経験を通して、名称が誰かの居場所になるためにも、また当事者でない人たちにも、まずはアセクシュアルや、アロマンティックという言葉と存在を知ってもらうことだ、と力を込めた。