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ヨシタケシンスケ 絵本作家デビュー10周年 大切にしていることは「人の意見を聞かない」

2023年7月6日 6:15
ヨシタケシンスケ 絵本作家デビュー10周年 大切にしていることは「人の意見を聞かない」
絵本作家・ヨシタケシンスケさん
子どもだけでなく大人も考えさせられる“発想えほん”シリーズなどを手がけてきたヨシタケシンスケさん(50)が、今年絵本作家デビュー10周年を迎えました。そんなヨシタケさんにインタビュー取材を行い、10周年を迎えた心境や今後作っていきたい作品を聞きました。

ヨシタケさんは、2013年に絵本作家としてデビュー。『りんごかもしれない』(2013年)や『ぼくのニセモノをつくるには』(2014年)などの“発想えほん”シリーズをはじめ、作家としても活躍するお笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんとの共著『その本は』を発表するなど、様々な作品を手がけています。

その年に最も支持された新刊絵本30冊を決定する『MOE絵本屋さん大賞』では、2015年から2018年まで4年連続で1位を獲得しました。

■絵本作家デビュー10周年「ジーンとしちゃいました」

――10周年を迎えられた心境はいかがですか?

10年前に初めて絵本を描かせていただいた時は「絵本を描いてみませんか」って言われて、自分に絵本は描けるとも思っていなかったし、描きたいとも思っていなかったですけど、最初に作ったのをすごく楽しく作ることができて、そしたら「2冊目もやっていいよ」って言われて、気がつくと10年やらせていただいていて、正直本当にこんなに長いことで「次もやっていい」って言ってもらえると思っていなかったので、本当にもう運がいいなとうれしい、ありがたい。

――10年を振り返って、印象に残っている体験はありますか?

この間仕事でお会いしてお話しした人が、社会人に成り立ての方で、「私、中学生のときにヨシタケさんの本を見たんです」って言っていて、僕の絵本を読んで育った子が今社会人になっているっていう。大人になると10年ってあっという間なんですけど、子供にとっての10年は世界が変わる長さなので、その間ずっと僕の本を覚えていてくれたというのはすごくうれしいし、どこで誰が読んでくれているか分からないというのは、改めてすごく感じて、何かちょっとジーンとしちゃいました。

――幼い頃にヨシタケさんの本を読んだ方が、子どもに読んであげるという未来があったら…

絵本に携わる人たちの1つのゴールというか、次の世代まで残るというのが1つの夢になっているんですけど、そういうところに可能性を残せたら、子供の本に携わる身としてはうれしいですね。

■作品はテーマから「どういうお話が一番ふに落ちてくれるだろう」

これまで視覚障害をテーマにした『みえるとか みえないとか』や、地図をテーマにした『ぼくはいったい どこにいるんだ』など、子どもだけでなく、大人も“気づかされる”、“考えさせられる”絵本を数多く発表してきたヨシタケさん。どのように作品を制作しているのでしょうか?

――作品の作り方を教えてください。

僕の場合はテーマが先にあって、『ぼくのニセモノをつくるには』(2014年)という絵本を描いたんですけれども、“アイデンティティー”、「自分とは何か」をテーマにする本を描いてくれっていうお題があったんですね。でも自分が子供の頃を考えた時に、自分とは何かなんて考えていなかったんですよ。だから読んでくれないだろうと思ったんです。では、どういうお話だったら「それだったら考えなきゃしょうがないよね」ってなるのかなというのを考えたすえに、(絵本に登場する)男の子が宿題とか家の手伝いとかするのが嫌で、自分の偽物を作って自分が楽がしたいとロボットを買ってきて、「全部そいつにやらせてしまおう」と計画をするんだけれども、ロボットから「あなたのことを知らないとあなたのニセモノになれないから、あなたの詳しい情報を教えてくれ」と言われたら、言うしかないですよね(笑)そういうことで「自分とは何か」「他の人と何が違ってどこが一緒なのか」っていうことを考え始める。僕の場合はお話を伝えたいというよりは、そのテーマについて読んでくれた人が自分のこととして考えるためには「どういうお話が一番ふに落ちてくれるだろう」「納得してくれるだろうか」っていうそういう順番でものを考えます。

――絵本を制作する上で大切にしていることはなんですか?

僕の場合は人の意見を聞かないことです(笑)色々な意見を聞いて、反映させる作家さんもいらっしゃるんですけど、僕は子供の頃の自分が喜んでくれるかどうか、5年後、10年後の僕がちゃんと喜ぶかどうかということを第一に作っているので、「自分だったらこういうふうに言ってほしいんだけどな」という思いで作っているんです。もちろん編集者の人の意見は聞くんですけど、なるべく最初に作ったテーマとか、「だって僕はこう思ったんだもの」っていう形にきれいにまとめたいなと思っています。

■「元気があるうちになにか」今後作っていきたい作品

今年5月、“生きるとは?”をテーマにした自身初の長編絵本『メメンとモリ』を発表したヨシタケさん。節目の年を迎え、今後どのようなテーマの作品を作っていきたいかを聞いてみました。

――今後はどのような作品を作っていきたいですか?

この10年、自分がその時、その時、自分の中で盛り上がっているテーマを本にしてきたんです。今回の「どうやって生きていけばいいんだろう」みたいなテーマは、自分が年を取ったというのが一つの大きな理由なんです。今後例えば年をとる、老化していくとおじいちゃんおばあちゃんになっていくとか、自分の体が思い通りいかなくなってきた時に、どうやって物事を考えていくのかとか、そういうことにどんどん興味がわくだろうし、子供たちが大きくなって、今度独り立ちする時に若者が社会に出ていって、自分がうまく受け入れられない時にどうやって生きていけばいいのかとか、その時その時の自分にとってのニュースというものを、なにがしかの普遍性を持った形で本にまとめていければ、僕はうれしいのかなと思うので、元気があるうちに何かやっていけたらいいなと思っています。

――最新作『メメンとモリ』を読む方にメッセージをお願いします。

読んだ人が「自分の価値観って何だったっけ?」というのを思い出すきっかけみたいになってくれたら一番いいなって思うんですよね。「自分にとって何の変化のきっかけになるんだろうか」みたいな、それも非常におこがましい考えではあるんですけど。この本に書いてあることがすべてじゃないということ、この本を通じて何かイメージしてくれたら一番僕はうれしいですね。この本に書いてないことに俺は気付いているみたいなことに、この本を読むことで気付いてもらえたら、僕にとってはご褒美かなと思いますね。