テーマは“生きるとは?” 絵本作家・ヨシタケシンスケ「小さい子にきょとんとしてほしい」
■ヨシタケシンスケが提案する“生き方の1つの選択肢”
『メメンとモリ』は、冷静な姉のメメンと情熱家な弟のモリが登場する作品です。メメンが作ったおさらを割ってしまい、クヨクヨしているモリに対して、メメンが「大丈夫よ。またつくればいいんだから」と励ますところから始まる『メメンとモリと ちいさいおさら』など、3つのおはなしで構成。作品を通して「人は何のために生きてるの?」かについて考えるきっかけとなる絵本となっています。
――“生きるとは?”をテーマにした作品を作ったきっかけはなんですか?
“メメントモリ”はラテン語の「いつか死ぬことを忘れるな」という言葉なんですけど、ある時にその言葉を思い出して、「メメントモリ」の“ト”の部分をひらがなにしたら二人組みたいになるなと面白いなと思って。そういうタイトルの本があったらどんな話だろうというタイトルから実は始まったんです。最近僕が思っていること、「人って何のために生きているのかな」とか「どうすればもうちょっと楽に日々過ごしているんだろう」みたいなことを、ついつい考える癖があるんですけど、そのタイトルの中で“メメン”と“モリ”と二人に語らせることで、生き方の1つの選択肢というか、こういうふうに考えてみてもおもしろいんじゃないのかなみたいなことが提案できればいいんじゃないかと思って作りました。
―― キャラクターを“メメン“と“モリ”という姉弟にした理由を教えてください。
どんな二人に生と死の話をさせようかとなった時に一番大事だったのは、この本に書いてあることがあくまで考え方の一つでしかないと、「こうやって考えることもできるよね」「これもただの一意見だよね」というような立ち位置にしたかったんです。例えば、姉のメメンの方がおじいちゃんやおばあちゃんだったり、すごく人生経験の豊かな人がそのことをしゃべってしまうと押しつけがましくなっちゃうんじゃないかなと思って。二人とも子供で、子供同士が自分の経験から気付いたことだけをやりとりするという方が本の中で出てくる言葉の信ぴょう性が下がるというか、「そういうふうに思う時もあるだろうね」というふうに読んでもらえるんじゃないかなと思って。小さいながらもある程度お互いのことが知れていて、ちゃんと物が言える間柄で、そういう話をするっていうのがいいかなと思って姉と弟にしました。
■作品で「小さい子にきょとんとしてほしい」
2つ目のおはなし『メメンとモリと きたないゆきだるま』。メメンとモリが作ったゆきだるまが、晴れて溶けかかってしまい、2人は複雑な顔をしてゆきだるまを見つめます。しかし、ゆきだるまには意識があり、2人の顔を冷静に見ているところから始まる物語です。
――実際に周りに起きた出来事や誰かから掛けられた言葉など、今回の作品に反映されているものはありますか?
雪だるまの話は、はっきりとした元ネタがあって、テレビを見ていたらニュース映像の端に汚い雪だるまがちらっと映ったんですね。イメージでは真っ白な真ん丸な、絵本みたいな雪だるまができると思ってみんな作るけど「泥だらけになっちゃうんだよな」というのを見て思ったんですけれど。でもよく考えたら「あの雪だるまはがっかりされているんだな」って思ったんです。生まれた瞬間にみんなからがっかりされて生まれてくるって「かわいそうだな」と思って。本の中に『だれもわるくない。だけど、だれも、しあわせじゃない。』というセリフが出てくるんですけど、誰も悪気があるわけじゃないんだけど、いろいろな事情で誰も望まない結果になっているという状況がたくさん世の中にもある。救いのない中でその人が何を考えることができるんだろうかっていう、世界をどういうものとして受け入れるということができるんだろうかという、それもやっぱり一つの選択肢みたいなものをあの話で出せたら、将来僕が汚い雪だるまみたいになっちゃった時に「ちょっと参考になるかな」みたいなそういう思いはありました。
――今回の作品はお子さんよりも大人の方に読んでほしい気持ちが強いですか?
いろいろな方からご意見を聞いていても「うちの子はきょとんとしていましたよ」っていう「ですよね!」という感じで、お子さんにとってはなかなか難しい内容ですけど。僕は子供のころ好きだった本ってよくわかんなかったけど、でも何か気になる本っていうのは間違いなくあったんです。だから同じような現象が、自分が作る本で起きてくれたらうれしいなと思いがあるので、特に大人向けの本ではあるんですけれども、ちっちゃい子がぜひきょとんとしてほしいというか、何を言わんとしていたんだろうというふうに、ずっと疑問として残ってくれたらそれに越したことはないかなって思います。
■“生きるとは?”=びっくりすること
――ヨシタケさんにとって「生きるとは?」はなんですか?
僕の一番はやっている結論としては、人間はびっくりするために生きているんだというのがあって。幸せになるために、いろいろ努力しても思いが届かなかったり、誰も悪くないのにがっかりされちゃったり、そういうことが世の中にいっぱいあるわけで。「幸せになりたかったけど幸せになれなかった人は失敗」とか言われると全然そんなことはないはずだし、そんなふうに言われたくないはずだし。「びっくりするために生きてくるんだよ」というふうに言われると、いいことが起きた人も悪いことが起きた人もどっちにも当てはまるんですよ。「うまくいかなかった、でもこうなると思わなかったよね」、ゲラゲラゲラみたいな一つの苦笑いの仕方みたいなのは面白いんじゃないのかなと。“思い通りにいかない現実”みたいなものの受け取り方の一方法みたいなものが本を通じて提案できればいいなというのはいつも思っていることなんですけど、今回わりとダイレクトにお話の形として1冊になった感じです。