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【独自解説】世界中から拉致・誘拐…『逃げられない』ミャンマーの“詐欺拠点”で日本人ら1万人監禁か 国の支配が及ばない『黄金の三角地帯』は犯罪組織の隠れ家に 世界の“法と国境のすき間”とは―?

2025年2月22日 9:00
【独自解説】世界中から拉致・誘拐…『逃げられない』ミャンマーの“詐欺拠点”で日本人ら1万人監禁か 国の支配が及ばない『黄金の三角地帯』は犯罪組織の隠れ家に 世界の“法と国境のすき間”とは―?
世界の“法と国境のすき間”

 SNSの闇バイトに応募した日本人が誘拐され、ミャンマーで特殊詐欺に加担させられた事件。今回の事件の舞台となった『黄金の三角地帯』は、麻薬密造地帯としても知られ、犯罪組織が活動しています。世界の“法と国境のすき間”について『読売テレビ』高岡達之特別解説委員の解説です。

■監禁されていた日本人の中には16歳の少年も…何でもあるが『逃げられない』特殊詐欺グループの拠点場所とは―?

 東南アジアのある国で、日本人も数人監禁をされていて、その中で16歳の子どもも保護されましたが、当然、犯罪に加担させられていました。これはミャンマーだけの問題なのでしょうか。その国の名前がついている所でも、国の力が及ばず犯罪組織が活躍できる場所があります。

 今回の特殊詐欺グループの拠点場所の確認をしておくと、東南アジアの『タイ』『ミャンマー』『ラオス』という3つの国が集まっているところの、画像の黄色い部分の辺りだと言われています。今回はタイの政府が積極的に動き、軍隊も動員して260人超の人間を保護したと言われています。その中に日本人の少年2人がいて、彼らの証言では、「他にもまだいる」とのことから、事件は広がりを見せています。

 その特殊詐欺グループが作った街と言っていいほどの大都市がありますが、ここには団地もあり、映画館・ナイトクラブ・レストランまであると言われています。しかし我々の国と違うのが、ただ1点『逃げられない』ということです。ここから逃げようと思っても“銃を構えた人がいる”というのが、今回の特殊詐欺グループの特徴です。

■幼い子どもが実弾入りの拳銃を振り回すような無法地帯 世界には国の支配が及ばない場所が何か所も―

 国なのに国の支配が及ばないというエリアが、世界には何か所もあります。では“国の支配”とは何かとなると、行政権や、治安を維持する警察、そして法律など、国の色んな権利を全く行使できない場所が、その国の領土内にもあるということです。

 私もそのうちのいくつかを体験したことがあります。画像の赤い部分はアフガニスタンとパキスタンの国境で、ここは世界的に有名なところです。アメリカの9.11事件のテロの首謀者だと言われたウサマ・ビンラディン容疑者が、ずっと逃げ回ることができた理由がこの国境地帯だとされています。

 地図の上ではパキスタン領になります。しかしアメリカのテロ事件の後、米軍が突入したときに、私も一緒にパキスタンからアフガニスタンへの国境を越えたんですが、他の国境とは違う手続きをやりました。

 日本では空港で手続きすればそれで終わりですが、パキスタンの国境近くの街へ行くと、パキスタン政府の役所があり、出入国管理みたいなところで、パスポートを見せます。ただ、その先でもう一枚『申請書』を書きます。「ここから先はパキスタン政府の力が及ばないけど、いいんだな?何をやってもアンタの責任ですよ」というものです。

 ここは色々な少数の部族の王様みたいな人がいるんですが、その一族の人たちで分割して統治をしています。「パキスタン領だけどパキスタン政府は知らない、何かあっても助けられない」という申請書にサインをして出します。ではそれで行っていいのかというと、次は「部族の受付窓口があるからそこへ行け」と言われます。そこへ行って、もう一度「何があっても文句は言いません」という申請書にサインして入ります。

 入って何度も確認される理由が分かりました。道端に、おむつが外れたくらいの年齢の可愛いお子さんがいるんですが、おもちゃ代わりに実弾入りの拳銃を振り回している。当然治安なんて何もないので、まさか撃つ気はないだろうと思いましたが、一緒に行ったガイドさんに「気を許して頭を撫でたりすると『外国人に撫でられた』と言われて、引き金を引かれたら終わりだから近付かないとように」と言われるほどの場所でした。

 この場所は今、パキスタン政府が「自分の州の中にちゃんと入れました」と宣言をしていますが、本当にパキスタン政府の支配が及んでいるかは、何とも断言できません。

 海の上も、日本の周りは海上保安庁がちゃんと管理していますが、同じアジアでも、私が行ったフィリピンのボルネオという場所で、画像の赤い点線あたりの海というのは、色んな国の争いがあり、昔からフィリピンの反政府ゲリラがいたところなんです。

 ここは日本ほど国境管理が出来ていないので、海を利用して、事実上、国境がないんです。だから政府の軍に追われたら、簡単に船に乗ってボルネオ島の方へ行き、夕方になったらすぐ帰ってくるというような海の上の無法地帯であるため、結局テロリストの隠れ家になってしまっている。

 今回の事件の場所は、かつて『黄金の三角地帯』と呼ばれていて、ここは麻薬の無法地帯だったんです。アメリカをはじめ世界中に輸出をして、麻薬王みたいな人がいて、軍隊や工場や団地まで持っていた。しかしその麻薬王はもう亡くなりましたし、事実上周りの国からは「そういうことはやらないように」と干渉されています。

 ただ、川だけで隔てられている所が多く、一番狭い川の幅で1mほどでした。小さな木の橋を数歩渡ったら隣国に入れてしまうような場所もあるぐらいです。ですからそれぞれの政府が責任を持ちたがらないということがあるわけです。

■世界ではまだ電話が主流?今の特殊詐欺ではネイティブな発音の人間を使って行っている

 日本人はよく騙されるから、詐欺グループは日本語で電話をかけてくるということですが、今回の保護された人たちは、ありとあらゆる国籍でした。アフリカや中国、ヨーロッパの人などもいます。今や特殊詐欺は世界中で通用する携帯電話を使います。日本人はわりと通話をせず『LINE』などを使う人も増えましたが、世界中の人は『携帯』といえば 『話す』ことなんです。

 『話す』ということから、詐欺に引きずり込むことができるとなると、ネイティブ(生まれながら)の発音をするというのがとても大事で、アメリカですら、州によって訛りがあり、日本でも東北の訛りや九州の訛りがあります。どんなにモノマネをしても、地方の人からすると「違う」となるため、生まれながらのネイティブな人などを拉致・誘拐して手先に使うというのが今の組織なんです。

 そして今回、タイが力を集めて本気になりました。タイは観光立国なので、タイから沢山連れていかれた人たちが被害に遭っているというのもあり、イメージが悪かったんですね。そこでタイ政府は、送電線の電気を止めたと言われています。携帯は充電出来なければただのオモチャになるので、犯罪組織の活動が止まった所で、軍隊を集結させて誘拐された人を連れて帰ってきました。

 タイは微笑みの国と言われ、安全で人も優しいですが、その国の隣にはまだまだ犯罪組織がいる国があるんです。国が悪いわけではありません。しかしそういった国境エリアがあるということを我々も知っておくべきではないでしょうか。

(「かんさい情報ネットten.」2025年2月18日放送)

最終更新日:2025年2月22日 9:00
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