停戦交渉「ウクライナ抜き」で……圧力かける米と“険悪”に 「みんなに死んでほしくない」揺れる人々【#みんなのギモン】
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そこで今回の#みんなのギモンでは、「侵攻3年 米ウクライナ“険悪”なぜ?」をテーマに解説します。
小野高弘・日本テレビ解説委員
「アメリカは本来、ウクライナに寄り添ってきました。しかし大統領が代わった途端に、ウクライナと険悪にもなっています。何より翻弄されるのは、ウクライナの市民です。今どんな思いで毎日を送っているのかお伝えします」
18日、ウクライナの首都キーウ。ロシアによる攻撃があった場所を訪ねました。建物の外壁が吹き飛ばされていました。
独立広場では、侵攻の犠牲者を象徴する旗が並び、はためいていました。ゼレンスキー大統領によると、3年間の戦死者は約4万6000人に上ります。犠牲を払ってきたウクライナ抜きで停戦交渉を進めようとするアメリカ。ウクライナの人々の心も揺れています。
追悼集会の参加者
「外交の道は拒否できませんし、そういうものでしょう。でも私たちの国益を考慮すべきです」
別の参加者
「『完全なウクライナ』を望みますが、もうみんなに死んでほしくない。これが一番大事なことです」
キーウに住む、ナタリヤさんを17日に訪ねました。戦争で大切な家族を失いました。「私のひとり息子です。戦争が始まったとき、39歳でした」
息子のドミトロさん。正義感が強く、軍に志願して東部の前線へと向かいました。わずかな休暇を利用し、ナタリヤさん夫婦だけが立ち会って、ささやかな結婚式を挙げました。
挙式からひと月後、妻の妊娠が明らかになった直後の2022年11月。ナタリヤさんは、ドミトロさんとの最後の電話をよく覚えています。
ナタリヤさん
「息子に『最も大切な存在で愛している』と伝えられてよかったです。その翌日、電話で彼が死んだと聞かされた瞬間…。何も理解できず、空っぽになったようでした」
「そのすぐあとに、息子の妻から電話が来ました。『赤ちゃんの心拍が確認できた』って伝えたいけど電話に出ない』って…。そこで『死んだ』と伝えました」
娘に会うことなく亡くなったドミトロさん。娘は1歳になりました。ナタリヤさんは「孫は息子の生き写しのように、とてもよく似ています。とても…。孫が私たちの一番の生きがいです」と声を震わせました。
侵攻で、命が失われ続けています。
兵士不足を補うため、ウクライナ軍は若者の入隊を促す新たな制度を導入しました。18~24歳の入隊者を対象に、高額な報酬や将来の学費免除などの優遇措置を設けるというものです。
20日、ドローンの整備や操縦方法を教える講座が開かれました。参加したのは10歳前後の子供たち。将来、戦地に行くことを考える子も少なくないといいます。
10歳の参加者
「大きくなって、もし戦争がまだ続いていたら(ドローンの知識で)役に立てるかもしれません」
15歳の参加者
「もし軍に行かなければならないなら、迷わず行きます。ドローンを手に国を守る覚悟があります」
未来の世代と、戦場との距離が縮まるウクライナ。ナタリヤさんに心境を聞きました。
「息子の友人たち、もうだれもいません。一緒だった友人はみな亡くなりました。恐ろしい。多くの若者が戦死しました。結婚も子供もまだなのに。悲劇です。悲劇です」
鈴江奈々アナウンサー
「この3年で多くの命が失われていて、ご家族の悲しみは本当に深いですね」
小野解説委員
「今後息子が徴兵されて戦場に行くという親には『戦争が早く終わってくれないかなと、実は心の中で思っているんですよ』という方もいらっしゃいます」
「ウクライナ国民の心が揺れていることは、キーウ国際社会学研究所(KIIS)の世論調査にも表れています」
「『戦争をあとどのくらい耐える用意があるか』と聞いて、『必要な限り耐える用意がある』と答えた人は、侵攻開始から2年間は71~73%と7割をキープしました。ところが去年は減り始めて63%になり、去年12月の最新の調査ではさらに減って57%でした」
「『ウクライナ情勢は正しい方向に進んでいるか、間違った方向に進んでいるか』とも聞きました。徹底的に戦ってロシアを追い返すという方針は『正しい方向だ』と答えた人は、戦闘が始まった当初の2022年5月は7割近い68%いました」
「しかし今年2月になると38%になり、『間違った方向に進んでいる』と答えた人(46%)が上回っています。このままでは出口が見えない、と悲観的になっている人が増えていると言えそうです」
忽滑谷こころアナウンサー
「まさか戦闘が始まって3年たった今も続くとは思っていなかったというウクライナ市民の方も多いでしょうし、この(世論調査の)数字からは、今のロシアが有利な状況に疲れというのも見えているのかなと思います」
小野解説委員
「(ウクライナにとって)戦況がどうしてもよくなりません。ロシア側が侵攻前から支配していたり、侵攻で掌握したりしたとされている地域を見ると、部分的にはウクライナが押し戻すことはあっても、(全体的には)膠着しています」
「それでいて、こうしている間にも戦闘の犠牲者が出続けています。ゼレンスキー大統領の発表では、戦死者はウクライナ側が約4万6000人、ロシア側が約35万人になっています」
森圭介アナウンサー
「ロシアの力による現状変更で、亡くなった方(の命)もそうですし、暮らしとかふるさとまで失われているというのは本当に心が苦しいですよね」
小野解説委員
「こうした状況を終わらせると意欲を見せているのが、アメリカのトランプ大統領です。それがゆえに、ウクライナとの間で険悪な状況にもなっています。その張り詰めた状況を象徴するような出来事がありました」
「ゼレンスキー大統領が20日向き合ったのは、トランプ政権から送られた特使のケロッグ氏。何を話したのかとても注目されました。そのため共同記者会見も予定されていましたが、アメリカ側の要請で中止されたとウクライナメディアは伝えています」
「並んで記者会見できないということは、両者の間に隙間風が吹いているからだと考えられます。なぜなら、トップ同士が批判し合っているからです」
小野解説委員
「トランプ大統領はゼレンスキー大統領のことを『選挙をやっていない独裁者』と言い、ゼレンスキー大統領はトランプ大統領のことを『ロシアによる偽情報にとらわれている』と批判しています」
「そもそもアメリカが、ウクライナ抜きでロシア側と協議したので、ゼレンスキー大統領としても不信感でいっぱいです」
刈川くるみキャスター
「戦争の終結というのは一番望まれることですが、それがウクライナに寄り添っていない形で行われると、戦争が終わった後にもわだかまりが残りそうですよね」
小野解説委員
「トランプ大統領がゼレンスキー大統領を批判するのは、どうやらトランプ大統領にとって面白くないことがあったからのようです」
「(アメリカの)ウォルツ大統領補佐官によると、アメリカがウクライナの支援をする見返りにウクライナの鉱物資源をアメリカに供給してほしいと打診し、それをゼレンスキー大統領が拒否したからだといいます」
「トランプ大統領は、否定されると牙をむくということなのでしょうか。そのためウォルツ補佐官は『鉱物資源をめぐる交渉に戻るべきだ』と圧力をかけています」
「ゼレンスキー大統領はやはり、気を遣わざるを得ないということになるのでしょうか。トランプ政権のケロッグ特使との会談は『実り多い会談だった』と、決裂していないことをSNSで強調していました」
鈴江アナウンサー
「この戦争が早く終わってほしいという思いはみんなが持っているでしょうが、(問題は)その終わらせ方、さらに終わった後にアメリカに有利になるようにという形で(進み)、大きな国が大きな声で伝わってきています」
「それによってウクライナの人たちの声がかき消されないといいですね」
小野解説委員
「ウクライナの国民の思いが置き去りにされないようにと願いたいです。ただしばらくは、緊張感が続きそうです」
(2025年2月21日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)
【みんなのギモン】
身の回りの「怒り」や「ギモン」「不正」や「不祥事」。寄せられた情報などをもとに、
日本テレビ報道局が「みんなのギモン」に応えるべく調査・取材してお伝えします。(日テレ調査報道プロジェクト)