魚で求婚、砂利で子育て!絶滅危惧種のユニークな生態を“クッキー”で発信
砂利が無ければ子育てできない、絶滅危惧種の鳥「コアジサシ」。そんなコアジサシの生態と魅力を、クッキーを通して伝えることを決めた女性がいました。試作中には「私、もう大分迷走してます…」と、弱音がこぼれるなど一筋縄ではいかなかったコアジサシのクッキー作り。観察からクッキー完成まで、中京テレビ「キャッチ!」が密着しました。
新作のターゲットは「コアジサシ」
2024年5月24日、名古屋市港区。小魚が泳ぐ、藤前干潟。三重県から訪れた栗田こずえさんは、双眼鏡で何かを探していました。「コアジサシが来ているので見に来ました。今年は絶対会いたいですね」とお目当ての鳥・コアジサシについて話します。
去年、そのコアジサシの存在を知ってから、観察シーズンが来るのをずっと待っていたという栗田さん。実は生き物の世界では、ちょっとした有名人なのです。
三重県桑名市で、“いきものクッキー”の専門店『kurimaro collection』を営む栗田さん。それぞれの動物の生態を踏まえた上で、可愛くポップに仕上げたデザインが注目されています。レパートリーはなんと約1,000種!
そんな栗田さんが、新作のターゲットに決めたのが、“繁殖方法が面白い”というコアジサシでした。
「逃げられてますね…」ユニークな求婚現場に遭遇
コアジサシを探しますが、なかなか見つけられない栗田さん。まずは実物を見てみないことには始まりません。頼ったのは、『名古屋市野鳥観察館』の職員さん。「あ、いるいるいる!いますね!」と、職員さんに望遠鏡でコアジサシにピントを合わせてもらい、実物の姿を確認します。しかし、まだまだ遠いコアジサシの姿。
より近くで見るため、『名古屋市野鳥観察館』の職員・岸さんと一緒に、干潟の対岸まで周ります。「いま目の前に飛んでくる!」と岸さんが差す方角には、複数のコアジサシ。「あ、いっぱいいる!」と栗田さんも嬉しさを滲ませます。
真っ黒の頭に、白い体。黄色の細いくちばしが鮮やかなコアジサシ。狩りの際は海に急降下、アジなどの魚をつき刺すように捕ることからその“コアジサシ”と名付けられたそう。今の時期は、オスが捕った魚をメスにプレゼントして求愛する様子が見られます。
観察を続けていると、メスの周りをクルクルとまわるオスの姿を発見。「逃げられてるのかな?クルクル回ってる」と話す栗田さん。その様子を見て、「(オスがメスに)逃げられてますね。もっと大きな魚持ってきなさいよって言ってるのかもしれない」と、岸さんが冗談交じりに解説します。
諦めず、けなげに頑張るコアジサシの様子も観察することができた栗田さん。たくさん知識を仕入れて、どんなクッキーを作るのでしょうか。
砂利のクッキーで“伝えたいこと”とは?
「“砂利”はいきたいですよね~」と、栗田さんがこだわりをみせたのは“砂利”。コアジサシと砂利をセットで作り、伝えたいことがあるのだそう。
“伝えたいこと”のヒントは、25年前の映像にありました。超望遠レンズで撮影した、名古屋港の埋め立て地の様子。カップルとなったコアジサシが巣を構えていたのは、木の上ではなく「地面」です。
草木が少ない、砂利地に巣を作る習性があるコアジサシ。卵の殻は天敵に狙われないよう、砂利とそっくりの模様です。生まれたヒナも砂利と似たまだら模様。
しかし、そんな繁殖地は現在まったく砂利のない空間に。河川敷など自然の砂利地が少なくなっている今、コアジサシの頼みは工事予定地などの更地ですが、開発が進めば繁殖は続けられません。
「(砂利地で繁殖するように)進化してきたんですもんね。“砂利がないから子育てできない”ということにはできないですもんね」と、コアジサシを取り巻く環境を栗田さんは気にかけます。
“どうにか卵を育てたい”と、コアジサシは思わぬ場所に巣を作ることもあるそう。写真は、工事を待つ更地に実際に出来たコアジサシの巣。
白丸の部分に、コアジサシの巣があります。砂利に擬態しているからこそ、人が気付かずに踏み荒らしてしまう可能性もあるのです。『名古屋市野鳥観察館』の岸さんは、「普通の人は地面に卵とか巣があるって、考えないじゃないですか」と、上手く擬態するからこそ生じるリスクを心配します。
どんどんと数が減り、今は“絶滅危惧種”となってしまったコアジサシ。守っていくためには“砂利地を見かけたらコアジサシの巣があるかも”と知ってもらうことが必要です。
コアジサシの卵のレプリカを、参考資料として写真におさめる栗田さん。コアジサシと砂利の関係をクッキーで広めたい。栗田さんのコアジサシのクッキー作りが始まりました。
会話をキッカケに“いきもの”への理解を深める
まずは型を作って、『名古屋市野鳥観察館』の職員さんのチェックを受けます。その後、店に店に戻って、コアジサシ本体をどんどん型抜き。翼をたたむと、尾羽はほぼ見えなくなるなど、コアジサシの細かい特徴もクッキーで再現します。
砂利をクッキーでどのように表現するのか悩んでいた栗田さん。包丁を取り出し、生地を格子状にカットし、ひとつずつ潰していきます。「私、もう大分迷走してます。とりあえず、石を目指して作ってます。(普段は)石を目指して作ることはないんですけどね」と、潰した生地をトレイにのせ、オーブンに入れます。
40分後、生地が焼き上がりました。「なんか石ころっぽくなりましたね」と嬉しそうに焼き上がりをみつめる栗田さん。トレイを左右にゆっくり揺らすと、“砂利クッキー”がコロコロと転がります。
砂利クッキーを敷き詰めたトレイ。「こういく感じだよね」とお店のスタッフと相談しながら、砂利クッキーにコアジサシのクッキーを立てていきます。
ついに完成したコアジサシのクッキー。砂利のクッキーとセットで販売する「子育てセット」です。
「見た目から楽しく入ってもらってご家族とかご友人とか、皆さんで食べていただくのが嬉しい。“なんでこのクッキー、砂利とセットなんだろう?”って、疑問が生まれるじゃないですか。“コアジサシっていうらしい“、“砂利で子育てするらしい”みたいな会話も、そこから意味があるものになるんじゃないかな」と、栗田さんはクッキーに込めた思いを語りました。
砂利の敷かれた場所で“白い鳥“を見かけたら、その地面にはコアジサシの巣があるかもしれません。繁殖地の減少などにより、“絶滅危惧種”となってしまったコアジサシ。巣がありそうな場所を見かけたら、繁殖シーズンの夏の間は近づかないことを心がけましょう。