国内最大級の被爆建物が重要文化財へ…! 指定後の活用方法や課題を徹底解説!【長島カイセツ・テレビ派】
広島テレビの長島清隆解説委員が、注目のニュースを分かりやすく分析・説明する「長島カイセツ」です。今回は、旧陸軍被服支廠に関してです。
「旧陸軍被服支廠」とは…?
11月24日、国の文化審議会は、広島にある「旧陸軍被服支廠」について、国の重要文化財に指定するよう、文部科学大臣に答申を出しました。理由として、旧陸軍の歴史を知る上で重要な遺構であることや、被爆建物としても歴史的価値が高いことなどを挙げています。早ければ2024年1月にも、正式に指定される見通しです。
戦時中、被服支廠で働き、保存を訴えてきた、被爆者の切明千枝子さんに話を聞きました。
■切明千枝子さん
「(被服支廠は)被爆者のケガ人の収容所にもなったり、たくさんの人があの中で死んでいった。それを引きずり出しては、前の広場で焼いた。穴掘って埋めた。そういう歴史も一緒に、これからの若い人たちに学んでほしい。勉強してほしいと思いますね。戦争への核兵器へのブレーキにもなる。そういう施設になってくれたらなということを思いますね。」
そもそも何のための施設だった?
旧陸軍被服支廠は、広島市南区出汐にあり、平和公園から直線距離で3キロ弱、広島港にも近い建物です。
1914年に建てられ、全部で4棟あり、3棟を県が、1棟を国が保管しています。国内最大級の被爆建物でもあります。
「被服支廠」の「被服」は、軍隊で使う軍服や帽子、靴を含めた、身にまとう服全体を指す言葉です。「支廠」の「廠」は「工場」という意味です。東京の本廠に対する支廠なので、工場の広島支店という意味になります。被爆直後は、被爆者の臨時救護所として使用され、ここで多くの人が亡くなりました。
保存するための費用面が大きな課題
広島県は、2021年に4棟全てを耐震化して、保存する方針を決めました。ただ、県の試算で、工事費が1棟あたり少なくとも5億8000万円がかかる見通しとなり、費用負担がネックになっていました。国の被爆建物の保存に関する枠組みでは、補助の上限は2460万円だったので、財源をどう確保するかが問題でした。そこで、県が国に働きかけたのが、重要文化財の指定です。重要文化財に指定されると、耐震化などの費用の半分を、国が負担することになり、費用面では非常に大きな意味があります。
重要文化財指定後の活用方法は?
現段階では、平和に関する博物館や歴史館として、または、宿泊施設やアトリエなど様々なアイデアが出ていますが、具体化はこれからです。
石川県にある「旧金沢陸軍兵器支廠兵器庫」も、陸軍の施設で、レンガ造りで広島に似た建物です。1990年に国の重要文化財に指定されています。現在は博物館として、石川県の歴史や文化を伝える展示などを開いています。また、ユニークなのは、奈良県にある「旧奈良監獄」です。今から100年以上前に、明治政府によって建てられた刑務所で、2017年に重要文化財に指定されています。こちらは、「星野リゾート」が、施設をリノベーションして、2026年春を目標に、ホテルとして開業する予定ということです。
意義のある施設になるのか、内容も大事ですが、「アクセス」がもう一つ大事な要素になります。先述のように、旧陸軍被服支廠は、平和公園などの市内中心部から3キロ弱あります。しかも、周りは建物で囲まれ、道路が非常に狭く、広い駐車場のスペースも今のところありません。広島市民も、公共交通機関でのアクセスは、なかなか説明しづらいところです。
重要文化財に指定されて、どういう風に使うのかも大事ですが、併せてアクセスも、一緒に考えていく必要があります。
【テレビ派 2023年11月24日放送】