【特集】住み慣れた自宅で暮らしたい高齢者 「地域と共にその人らしく生きる」 在宅支援の現場に密着 広島・福山市
介護が必要になっても、住み慣れた自宅で暮したい高齢者の願いに応えようという事業所が、広島県福山市内にあります。新しいスタッフも加わった、高齢者の「在宅」を支える介護の現場を取材しました。
福山市鞆町に住む91歳の女性を訪ねたのは、介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」のスタッフ・佐藤弥生さんです。
女性は年々足腰が弱り、最近は認知症の症状もあるといいます。それでも希望するのは、自宅での暮らしだったため、「さくらホーム」を頼りました。
■利用者の女性
「娘が「施設に入る?」って言うけど、ここの家がいいから、ここへ1人で住みたい。」
77歳になる男性は、2023年の末に身体を動かすのが不自由になりました。毎日スタッフが訪問し、部屋のかたづけやゴミ出しといった、日常生活をサポートしています。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 佐藤弥生さん
「(訪問は)朝と夕方の2回で、夕方は排泄支援と明日の朝食の準備とかしています。」
利用者の男性にとって、スタッフとの何気ない会話は、心の支えとなっています。
■利用者の男性
「心が通じる人がいるということが助かってます。家族と過ごしてる時は、他の人は挨拶はするけど、心は通じてなかった。」
2004年に開設した「鞆の浦・さくらホーム」は、施設での介護支援とあわせ、自宅を訪問してサービスをおこなうことにも力を入れてきました。
介護事業としての拠点は3か所あり、利用者からの急な求めにも応えることができる体制を目指してます。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」会長 羽田冨美江さん
「そこの家の経済状況もいろいろあって、ご夫婦で認知症の方もいますよね。2人とも(夫婦で)施設に入ればいいのではないかと、地域の人は簡単に言うけど、2人(夫婦で)施設に入ったら、どれだけお金がかかるのかということなんですよね。」
費用の面でも、気持ちの面でも、在宅介護を希望する声が多いといいます。在宅と施設での介護を併用し、利用者のひとり暮らしを支援する「小規模多機能型居宅介護」は、2006年の介護保険法改正でサービスが始まり、施設への「通い」や「泊まり」、自宅への「訪問」を組み合わせて利用できるようになりました。この介護は、24時間365日利用でき、利用料は月々定額制です。
■福山平成大学福祉学科 中司登志美教授
「(施設への)通いと、泊まりと、訪問のケアをするスタッフが同じスタッフなので、認知症の方が戸惑わない。なじみの人だということで、落ち着ちつかれる、そういうサービスなんです。」
この日はスタッフが集まり、月に1回の会議が開かれていました。利用者の状態や家族との関係など、互いに共有します。
この会議に初めて参加した居城柚那(いじろ・ゆうな)さん・24歳です。2023年4月に「さくらホーム」に就職しました。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「(利用者が)汗をいっぱいかいていて、たぶん飲んでいる量が、それに対して少ないから(足を)つりやすいのかもしれない。」
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「皆さんが集まるからこそ出てくる「あ、そういえば、こういうのもあったよね」という、広がりとかが集まるからこそ、カンファレンス(会議)に出ないとないのかなと思って、今日出れてよかったなと率直に思っています。」
入社2年目。総務での勤務を経て、この夏から訪問介護の研修が始まりました。先輩スタッフのフォローを受けながら、利用者の介護にあたります。
この日は、週に2度ある施設でのデイサービスに連れて行く日です。鞆の浦は、道が狭く、急こう配の坂も多い地域のため、車いすで移動させるのもひと苦労です。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「前輪が浮かないようにしようとすると、ブレーキが利きすぎる。塩梅が(難しい)。」
新潟出身の居城さんが、縁もゆかりもない地に就職したのは、「さくらホーム」の介護への考え方に惹かれたからでした。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「地域の中で人とのつながりを保ちながら、その人らしく生きるっていう地域福祉の考え方がすごく好きで、そういうのを実践している人、プレイヤーに私もなってみたい気持ちがあって。」
大学は教育学部で、周りに介護職を目指す人はいませんでしたが、母親が福祉の仕事に就いていたこともあり、身近に感じていました。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「一般企業に最初は就職しようと就職活動をしていたけど、やっぱり自分の中で違うなと思って。近くに住んでいる1人1人が、幸せになるためのものって何かできないかなっていう気持ちがあったので。」
家族からも背中を押され、遠く離れた鞆の浦を就職場所に選んだ居城さん。そしてはじまった訪問介護の研修。利用者と直接ふれあう日々を送っています。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「最初はめちゃめちゃ大変でした。家によって何がどこにあるかとか場所も違えば、やる内容も違うので。」
介護職のなり手不足は深刻です。広島県の有効求人倍率が3.66倍の中、居城さんへは大きな期待が寄せられています。
研修期間、先輩から多くのことを学びました。独り立ちも、もう間もなくです。
■介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」スタッフ 居城柚那さん
「(先輩の)ちょっとした声掛けとかでその方が笑顔になられたりとか、ちょこっと本音で話されている姿を見て、私もいつかそういう風に、お互い私も楽しみながらいれて、利用者もそういうのが伝わって、楽しくいられるような時間が増えたらいいなと思っています。」
超高齢化社会で、より必要とされる介護の担い手。住み慣れた場所で暮らしたいという利用者の願いに応えるため、鍛錬の日々が続きます。一方、専門家はスタッフの仕事量に対して、事業者に支払われる「介護報酬」は十分でないと指摘しています。スタッフに求められるスキルも幅広いため、今後普及するためには「介護報酬」の引き上げなど求められます。
【テレビ派 2024年12月4日放送】