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スタンドから「おかえり」骨肉腫のランナー 高校生活最初で最後の"記録会"

2023年11月18日 12:00
スタンドから「おかえり」骨肉腫のランナー 高校生活最初で最後の"記録会"

3年前に選手生命を脅かす病気が判明した高校3年の陸上選手がいます。手術を乗り越え、リハビリを続けながらも走ることをやめない強い思いを取材しました。

熊本市中央区の慶誠高校。男子陸上部は県高校駅伝で去年4位、今年は5位と、熊本県内トップクラスのチームです。入念にストレッチをしていたのが、3年生の阪田昂希選手。実は、ある病気と闘っています。

■阪田昴希選手
「右大腿骨の傍骨性骨肉腫という病気になった。骨と筋肉の隙間に悪性の腫瘍ができたんですけど…」

骨にできる「がん」の一種、骨肉腫。異変に気づいたのは、南阿蘇中学校で中距離走者として活躍していた3年前のことでした。

「陸上できないなら死んだほうがいい」絶望に差し伸べられた手

■阪田昴希選手
「膝の上にタンコブができて、最初はどこか打ったのかなと様子を見ていたけど、全然治る気がしなくて。検査手術をして取った組織を調べたら骨肉腫だった」

痛みや腫れを伴い、走りすぎると血や水がたまる膝の骨肉腫。高校でも陸上を頑張ろうと思っていた阪田選手にとって、思いもよらぬ病でした。その努力を支えてきた両親も、突然の事態に言葉を失いました。

■父 健一さん
「結構いい走りをしていたんですよね。それなりに阿蘇郡の大会でもそこそこの成績を出してたので。楽しみの中こういう病気が発症したので、えっという言葉も出ないような…」

■母 祥子さん
「陸上できないなら死んだほうがいいと言って。その時は何と声をかけたらいいか分からなくて、声のかけようもなかったし、親として無力さを感じた」

走ることができなくなるかもしれない。絶望の中で選んだのは、筋肉ごと腫瘍を摘出する手術でした。

■阪田昴希選手
「最初は怖かったですね。歩くこともできない状態だったので、足の筋肉が落ちてくる焦りもあったので、怖かったですね」

手術後は立つことさえもできない状態。それでも、まずは歩くことを目標にリハビリを始めた阪田選手。

陸上への思いが断ちきれず、慶誠高校に進学すると、「走れなくても携わっていたい」と迷わず陸上部に入りました。

その姿を見守ってきたのが、顧問の中村先生です。

■慶誠高校陸上部 中村大樹顧問
「普通は走れるところからスタートするけど、走れないところからスタートして。歩くところからゆっくりジョグできるところを見ていて、孤独の中で闘っていたと思うけど、負けない気持ちを持ってストイックにやっているイメージです」

プレートが入ったまま、うまく曲がらない右足。また大会に出場したい…その思いでリハビリや練習を重ね、走ることができるまでになりました。強い思いを支えたのが、チームメイトの存在です。

■阪田昴希選手
「陸上部に入って、本当にこのまま走れるのかなと思ったが、リハビリや自主練を続けていくことで、みんなと一緒に走ることができるので」

■清水雄翔主将
「1・2年生の時は骨肉腫の影響で中々走れなかったけど、3年生になって少しづつ練習に参加するようになって、ジョグできるようになってきて、本当にすごい成長したなと思います」

高校生活最初で最後の大舞台で見た「おかえり」 そして集大成へ…

高校3年の夏。中村先生が持ちかけたのが、熊本市記録会への出場でした。

■阪田昴希選手
「中村先生からそろそろ出てみないかという話があったので、自分も考えてはいたけどなかなか勇気が出なくて、1500メートルという距離なら走れるんじゃないかと思って決心がついてエントリーしてみました」

迎えた9月の記録会。阪田選手は3年ぶりにスタートラインに立ちました。

■阪田昴希選手
「懐かしいのと緊張が入り混じっていて、自分がこれまで立ってきたスタートラインの中でもすごく印象に残った場面でした。足の痛みも感じなくて気持ちがいいというのが出ていて楽しいレースでした」

その走りを見守るスタンドには、「おかえり」と書かれたボードが。チームメイトが応援していたのです。

■慶誠高校陸上部 中村大樹顧問
「ずっと走れる機会がなかったので、高校総体よりも高校駅伝よりも大切な試合だと思ったので、みんなでサプライズしようと進めてきました」

高校最初で最後の大舞台を走り抜けました。

■阪田昴希選手
「リハビリのために部活を休んだり、チームに迷惑をかけたこともあったけど、この陸上部のメンバーで練習できたことがすごくうれしいですし、あきらめずにここまでやって来れたのは自分の中で1番大きい成長だった」

病気と闘いながらも、仲間と一緒に駆け抜けた高校生活。そんな坂田選手には、もう1つ大きな目標があります。

■阪田昴希選手
「来年の2月にある熊本城マラソンのファンランで、去年もエントリーしていたけど、膝に血がたまって走れなかったので今年こそリベンジで走って絶対ゴールしようと思います」