【袴田巌さん再審】 「袴田さんが犯人」だとする検察の主張に対し弁護側が全面的に反論(静岡地裁)
袴田巌さんの再審=やり直しの裁判の2回目の公判が終了しました。10日は、袴田さんが犯人とする検察の主張に対して、弁護側が全面的に反論しました。
(杉本 汐音 記者)
「午前10時半前です。2回目の2回目の公判に向け、袴田さんの弁護団が静岡地裁へと入ります。出廷を免除されている袴田さんに代わり出廷する姉・ひで子さんの姿もあります」
2回目の公判にのぞんだ袴田さんの姉・ひで子さんと弁護団。10日は一般傍聴席26席に対し、傍聴券を求めて89人が並びました。
1966年、旧清水市で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん。10月27日の初公判で、検察側は「犯人はみそ工場関係者の袴田さんで、犯行着衣はみそタンクに隠した」などと、袴田さんの有罪を主張。
一方、弁護団は「事件は強盗殺人ではなく、犯人の恨みによる殺人で、複数人による犯行」などと指摘し、無罪を主張しています。
検察はこの再審公判を通じて
①犯人がみそ工場関係者であり袴田さんがその行動をとれたこと
②犯行時の着衣、5点の衣類は袴田さんが犯行に使った後みそタンクに隠したこと
③袴田さんが犯人であるその他の事情が存在すること
この3点を主張する方針です。
10日の公判では、検察側が主張する「犯人がみそ製造会社の関係者の袴田さんである」という点について、弁護側が証拠などをもとに反論しました。
検察側は、事件現場から凶器である「くり小刀」とその鞘が入った雨合羽が見つかり、雨合羽について、従業員が普段着用しているものであることなどから、従業員の犯行であると主張しています。
一方、 弁護側は「くり小刀」は被害者の傷の深さなどから凶器と考えられない。さらに、さやと刃物が同一の物であるか捜査がしつくされていないなどと反論しました。
また、検察側の「袴田さんにアリバイがなく犯行が可能だった」という主張に対して、弁護側は「従業員らが火災直後から袴田さんを目撃している。検察が主張するように犯行後に着衣を着替えて隠すなど、そのような行動をとったとは到底認められない。さらに意味ある証拠は何もない」と反論しました。
そして、第2回公判は午後3時50分に終了し、弁護団の小川秀世弁護士が取材に応じました。
(弁護団 小川秀世 弁護士)
「検察官が工場との関連について、前回、主張立証したが、犯罪を立証できるものではなく、いろいろな見方ができる。工場に犯人が関わっているとはっきり言えるものではないと理解していただけたと思う」
(スタジオ解説)
検察側は「袴田さんが犯人である」とする上で3つの主張をしていますが、その一つがこちらです。
・犯人は工場の関係者である・そして犯人の行動は袴田さんであれば可能だったということです。
まずは検察側の主張する事件の概要をみていきます。こちらが事件周辺の地図です。みそ工場から線路を隔てて事件現場となった被害者であるみそ工場専務の自宅があります。
こちらが自宅内の見取り図です。検察は犯人が土間に置いてあったお金の入った袋をもって逃げようとした際、専務に見つかり殺害。その後、3人を次々と殺害し、火をつけたと見ています。
そして遺体があった近くで、凶器であると主張する「くり小刀」を発見。また中庭で発見された雨合羽のポケットにはくり小刀の鞘が入っていたといいます。
検察は、犯人が従業員である理由として、この雨合羽は工場従業員のもので、事件当日も、みそ工場に置いてあったからだと主張します。
このような検察側の主張に対し、弁護側は10日の公判で「合羽はごわごわと音がする、雨も降っていない中、夜に侵入するのに着る理由がない」と指摘。また、検察が凶器と主張する「くり小刀」は、被害者の傷の深さなどから凶器と考えられない上、さやと刃物が同一の物かについての捜査がしつくされていないと反論しました。
Q:まずは検察側が主張する「犯人は工場関係者である」とする主張についてどう思われますか?
(若狭弁護士)
「少なくともこれでけの重大事件の時に、犯人を認定するためには、例えば100円玉のコインを思い浮かべていただければいいんですが、コインの表側と裏側両方をきちんといえなきゃいけない、つまり表側というのは工場関係者で袴田さんが犯人の可能性があるというのが表面ですよね。コインの裏側は、袴田さん以外は犯人ではないんだということを裏側で言えないといけない。表側と裏側がはっきり言えることによって袴田さんが犯人だと決めることができるんですけど、今までの検察の主張とすると、コインの表面で工場関係者だから袴田さんが犯人の可能性があるというような主張にとどまっているように思います」
そして検察が「犯人は工場関係者」とするもう一つの理由は、放火に使われたのは工場内にあった「混合油」であるという主張です。この混合油は、みそ工場内で缶に入れて保管されていましたが、購入したばかりで満タンであったはずが、事件後に減っていたといいます。この缶から血が検出されたことから、犯人が放火に使用したものと主張しています。
一方、弁護側は血がついていたのは缶の側面のみで、底や取手に血がついていないので不自然。さらに、何の油が使われたのか確定していないのに、減っていたというだけで「混合油」というのは疑問があると指摘しています。
Q:この双方の主張については?
(若狭弁護士)
「私も殺人事件の捜査の指揮を結構しているんですが、例えば混合油、火災で燃えかすとかいっぱいあると思うんですよね、そうするとその燃えかすの油が残っているもので、多分使われた油がどういうものか、だから工場にあった混合油かどうかというのは鑑定で通常は一致するという話が結構できるんじゃないかと思うんですよね。それがなされていないのか、これを聞く限りだと本当に私は不思議でしょうがないんですよね」「今の時点でも、その混合油が工場の放火に使われたか、成分などがきちんと鑑定されていれば、これは工場内にあった混合油、それが
燃えかすからも出てきているからとかいう形で一致、同一性が多分認定できるはずだと私は思うんですけど、なんど今更この辺のところがまだ解明されていないのかなって、非常に不思議な感じがします」「ある意味蒸し返しみたいなものなんですけれど、やはり再審の場合には一番争点になる、例えば5点の着衣がねつ造かどうかというところ、まずそこをやって、ねつ造じゃないということになったらほかの証拠ではどうなのという、優劣順位をつけていかないと、一からまた時系列的にやっていくと、要するに無駄な時間だけが過ぎて行ってしまう感じがします」
その若狭さんの話にありました「犯行着衣”5点の衣類”を袴田さんが犯行に使った後、みそタンクに隠した」という検察の主張については、次回、第3回公判は11月20日に予定されていますので、これ以降に話されるのではないかと思われます。