裁判をやり直している袴田巌さんのドキュメント番組放送前に「再審」巡る制度の問題を考える(静岡)
Daiichi-TVでは、9日 日曜日の深夜。静岡地裁で裁判のやり直しをしている袴田巌さんのドキュメントを放送します。放送を前に、裁判のやり直し=再審を巡る制度の問題について考えます。
1966年、旧清水市でみそ製造会社の専務宅が全焼し焼け跡から刃物で刺された4人の遺体が発見されました。強盗殺人・放火などの疑いで逮捕されたのは、住み込み従業員だった袴田巌さん当時30歳。裁判では一貫して無実を訴えるも1980年に死刑が確定しました。その翌年、袴田さんは獄中から裁判のやり直し=再審を求めます。
再審が認められるには「無罪を言い渡すべき新証拠」が必要です。弁護団は検察に事件の証拠を開示するように求めましたが、検察は一切応じることなく再審請求は最高裁に棄却されてしまいます。しかし、2010年2回目の再審請求で、この証拠開示をめぐり大きな動きがあったのです。
(小川 秀世 弁護士)
「今だせるなら、なんで40年前に出さなかった。40年間何やっていたんだ。第1次再審請求は何だったんだとそういう話ですよね」
裁判所が検察に証拠開示を勧告。検察が弁護側の証拠開示の要求に初めて応じ、約600点の証拠を開示。この中の一点。犯行時の着衣とされる”5点の衣類”のカラー写真が再審の扉を開きます。
この”5点の衣類”は事件から1年2か月後に事件現場付近のみそタンクの中から見つかりました。しかし、カラー写真の血痕に赤みが残っていることや、シャツの色が白すぎることから、支援者が血痕がついた衣類をみそに漬ける実験を行うと、血痕は短期間で黒く変色。弁護団は、5点の衣類は発見直前にタンクの中に入れられたもので、ねつ造された証拠だと主張したのです。
そして、2014年。
静岡地裁は弁護側の主張を認め再審開始を決定し、捜査機関の証拠のねつ造を指摘。さらに袴田さんを釈放したのです。弁護団は当時について振り返ります。
(小川 秀世 弁護士)
「第1次請求審は、証拠開示の規定がないという理由で検察は一切対応しなかった」「5点の衣類の鮮明なカラー写真が出てきたところで、われわれは全然知らないじゃないですか」「こちらの気持ちの持ち方も違うし、攻撃の対象がはっきりとするということでも違ってくる」
証拠が開示されるまで事件から40年以上。これほどまで長期化したことについて、弁護団は再審の規定に問題があると指摘します。
(小川 秀世 弁護士)
「やっぱり、証拠開示というのは非常に重要だというのが思い知らされた事件」「証拠開示がきちんと法定されて、被告人の無罪の証拠も出してこれるような制度にしてほしい」
刑事訴訟法にある再審の規定は19の条文のみで、証拠開示について規定がないため検察の任意での開示となるのです。
袴田さんの裁判を例に国会も動き始めました。2024年3月、超党派の国会議員による議員連盟が発足。70年以上変わっていない再審の規定について証拠開示の在り方など議論が進んでいます。
袴田さんの再審公判は5月、審理を終結しました。弁護団は無罪を主張し、”5点の衣類”はねつ造された証拠だと指摘。一方、検察は袴田さんに死刑を求刑。ねつ造は実現不可能だと主張。9月26日に判決が言い渡されます。
袴田さんは現在88歳となりましたが、長年の拘束の影響で精神をむしばまれ裁判に出ることができません。姉のひで子さんが代わりに無実を訴えています。
(袴田 巌さんの姉・ひで子さん)
「こんなえん罪事件なんて私たちだけだと思っていた」「いまでは大勢の方が大変苦しんでいる」「巌だけ助かればいいという問題ではない」「巌の48年間の刑務所生活、大変苦労している」「その思いをどうぞ皆様、なんかの形にしてよい方法にお進みいただきたいと思います」