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【特集】消滅の危機に瀕する「茶炭」守り続ける職人 

2025年2月26日 18:52
【特集】消滅の危機に瀕する「茶炭」守り続ける職人 

古くから日本有数の生産量を誇る、岩手の炭。中でも、茶道で使われる「茶炭(ちゃずみ)」は見た目の美しさにもこだわった最高級品として知られています。しかし、その岩手の茶炭が今、消滅の危機にひんしています。守り続ける職人と、未来へ残すための課題を取材しました。

茶道で、お湯をわかすために使う茶炭。茶道では、炭は茶碗などと同様、鑑賞する対象です。お茶をたてて飲んでもらう「お点前」が始まるときには、参加者がお湯を沸かす炉の周りに集まり、炭が組まれていく様子を見守ります。

割れたひびが、菊の花のように美しい断面。あえて残した木の皮の表面は、ゴツゴツとして野性的です。

記者「岩手の茶道で使う炭は、このように菊のような柄がきれいに見える、楢でできたものなんです」

茶炭は、通常クヌギの木で作りますが、岩手では寒さで育ちにくいため、ナラの木でつくる風習があります。盛岡市にあるこちらの茶道教室では、20年以上ナラでできた岩手の炭を使い続けてきました。

池田先生
「見た目もいいですしね、火持ちもそれなりに持ちますので」「お湯を柔らかく感じるから、お茶も甘く感じる」

久慈市山形町。この地に住む人の多くは、古くから山で焼いた炭を売って生計を立ててきました。

炭職人の木藤古修一さん67歳。昔ながらの方法で、自ら山に入って材料を伐採します。

木藤古さん
「ナラは堅いからね。雑木と違ってね。」

堅いナラの木は焼いても形が崩れにくいため、火持ちのいい炭になるといいます。

木藤古さん
「これが中くらいのやつ。あー。今倒れたので、これでダメだね」

木の皮がはがれてしまうと見た目が悪くなり、茶炭として売り物になりません。

木藤古さん「よいしょ」

伐採したナラの木は、かまの中で4日ほど乾燥させた後、火を入れて炭にします。かまの奥にある煙の通り道、煙道の穴を調整することで火の勢いを安定させます。

木藤古さん
「この(穴の)幅で、何日このかまが静かに燃えていくか決まってくる」

かまの温度は最大800度。12日間と長い時間をかけることで、炭の純度が高まり、火持ちがよく煙の出にくい炭になります。燃やしすぎると木は灰になってしまうので、煙の穴の調整が鍵となるのです。

火を止めて窯を冷ますこと1週間。

木藤古さん
「いつもどきどきするのがこの瞬間だよね」「50、150…。まあ、いつもよりちょっと減ってるかもしれないね」

今回は、予想以上に多く灰になってしまいました。

木藤古さん
「こういう風にもう上がダメだと、どんどんダメになって皮がはがれちゃう」

こうして完成した茶炭は、30センチに切り分けられて出荷されます。魅力あふれる岩手の茶炭ですが、その存続は危ぶまれています。

県木炭協会によると、県内の会員数は2002年は244人いましたが、2023年には80人と、3分の1に減りました。中でも茶炭の職人はここ10年で半減し、5人しか残っていません。

木藤古さん
「高齢で毎年やめてく人も多いからね。生産者がどんどん減ってるってところがあるからな」

20年ほど前までは30トン近くあった県内の茶炭の生産量も、2年前には7トンほどまで落ち込みました。職人の減少に加え、安い外国産の木が使われるようになったことなどが原因です。

菊の花のように美しい最高級の茶炭。消滅の危機に瀕する中、岩手の茶道家は地場のナラの炭を使い続けたいと考えています。

池田先生
「昔から山の国、県だから」「岩手の炭にお世話になりながら続けられていますね」「岩手で作ってくださる方には感謝してます」

状況を打破するため、県木炭協会では、40代前後の若手職人向けに茶炭の作り方の研修会をおこなってきました。また茶炭の品評会で新たな賞を設けるなど、現役世代のやる気を引き出す工夫も凝らします。

また、九戸村の工場では、5年ほど前から移住してきた若者を対象に炭づくりの体験会を行うなど、裾野の拡大を図ってきました。

七戸さん
「顔を真っ黒にしながら作業してくれる子もいる。そういういう人たちが炭焼きをやめたところ窯を借りるなり、買いとって炭焼きさんになってもらった方が、炭の量が確保されるので、うれしいことです」

久慈市で茶炭を作る木藤古さんです。生産技術が引き継がれ、岩手の茶炭が将来にも残ることを願っています。

木藤古さん
「使ってくれる人がいて、お茶炭をほしいって人がいれば、多少役にたってることかな…」「ただ若い人が参入して」「やってくれる人が増えてくれればいいなと思う」

岩手の茶炭の火を絶やさぬために。関係者の模索は続きます。

最終更新日:2025年2月26日 18:52