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【ナゼ】斎藤知事の疑惑めぐる百条委員会の調査“大詰め”も…方向性めぐり委員の間で“溝” 意見が対立、注目される“3つのポイント”&揺れる委員の本音「パワハラ認定すべき」「両論併記を」

2025年2月1日 12:00
【ナゼ】斎藤知事の疑惑めぐる百条委員会の調査“大詰め”も…方向性めぐり委員の間で“溝” 意見が対立、注目される“3つのポイント”&揺れる委員の本音「パワハラ認定すべき」「両論併記を」
兵庫県・斎藤元彦知事(2024年12月25日の百条委員会)

 兵庫県の斎藤元彦知事の“パワハラ”などの疑惑を調べる百条委員会は、2月にも報告書がまとまる予定です。調査が大詰めを迎える一方で、方向性をめぐって委員の間に深い“溝”があり、どこまで踏み込んだ結論を示せるか、不透明な情勢です。

 不信任決議の全会一致の可決、知事選を経て、調査を進めた委員らが誹謗中傷にもさらされた中、ようやくまとめられた結論の行く末は…。注目される「3つの焦点」と、委員らの本音に迫りました。

■ポイント①“パワハラ”複数の証言「理不尽な叱責」も…知事「必要な指導」

 死亡した元西播磨県民局長の告発文に記載されていた7つの疑惑。このうち県職員への“パワハラ”をめぐる疑惑については、約9700人の県職員を対象にしたアンケート調査が実施され、自由記述の回答には、「エレベーターに乗り損ねた際に『お前はボタンも押せないのか』と大声で怒鳴られた」「『俺は知事だぞ』と言われた」「“瞬間湯沸かし器”“暴君”と呼ばれていた」などといった記載があり、複数の職員が証人尋問で証言しました。

 このうち、2023年11月、兵庫県立考古博物館への出張で、出入り口の約20メートル手前で公用車から降ろされた際に斎藤知事が理不尽に叱責したとされる疑惑で、当時立ち会った職員の1人は、「車止めで(公用車で)入れなかったのでそこで停車していたが、降りてくるとき、車止めを知事が見て、『なぜどけておかないのか』と言った。かなり怒鳴られたという認識で、車止めをどけた後にも同じことを言われた」「社会通念上必要な範囲とは思わない、理不尽な叱責を受けたと感じている」と思いを述べていました。

 また、別の職員は、土木事業に関する新聞報道が出た後に斎藤知事に呼び出され、「こんな話は聞いていない」と机をたたきながら迫られたことについて、百条委員会で委員に問われると、「事実です」と話し、「私の頭の記憶では、平手で1回か2回たたいた。『どうなってるんだ、バン 』と。(机を)叩かれるのは経験ないことなのでびっくりした」と当時を振り返っていました。

 こうした指摘に対し斎藤知事は、一部の行為を認め、「不快な思いをされた職員の方がいれば申し訳ない」と謝罪する一方で、あくまで「業務上の必要な指導」との認識を崩していません。

■ポイント②「疑惑の本丸」“パレード資金還流疑惑”県警が告発状受理も、委員「証拠乏しい」

 告発文書では、2023年に開催された阪神・オリックス優勝パレードの寄付金をめぐる疑惑も指摘されています。

 告発状などによれば、兵庫県の斎藤知事と当時の片山副知事は、優勝パレードの開催に向け、県内の金融機関に運営費の寄付を求め、同じ時期に、信用金庫に対する新型コロナ関連の補助金を増額しました。百条委員会では、当初1億円だった補助金の予算が、片山氏の指示で4億円に増額された直後に、信用金庫からの寄付が増えていたことが明らかになっています。

 仮に告発の指摘通り、補助金がキックバックされていたとすれば、パレード資金を集めるために公金が恣意的に一部の金融機関に流れたことになり、一部の県議からは「疑惑の本丸」との指摘も上がっていました。さらに、市民団体が提出した背任の疑いの告発状を県警が受理し、今後、警察による捜査が行われる見通しです。

 ただ、この疑惑について告発された斎藤知事と片山副知事(当時)はいずれも疑惑を否定。知事は「寄付を集める行為と支援事業はあくまで別の事業として適切に対応してきた」と説明してきました。

 関係者によれば、百条委員会では、副知事と信用金庫の関係者のメールのやり取りなども調べられましたが、資金の還流をもちかけた直接的な証拠は見つかっていないということです。

 委員の1人は「この件については、追及が難しい」と本音を漏らすなど、県警による捜査に委ねられる公算が高く、百条委員会による調査報告でどこまで踏み込んだ言及がなされるかは不透明です。

■ポイント③“告発者探し”公益通報者保護法違反の指摘も…当時の最側近には私的情報の漏えい疑惑

 告発文書で指摘された7つの疑惑に加え、百条委員会では、斎藤知事が告発文書を把握した後に“告発者探し”を指示した一連の対応が、公益通報者保護法違反にあたる可能性があるとして調査を進めてきました。

 元県民局長は、去年3月に告発文書を報道機関などに送付しましたが、その直後に斎藤知事らは文書を把握し、作成者を調査。元県民局長が4月に県の公益通報制度を利用して通報しましたが、県は5月に男性職員を停職3か月の懲戒処分としました。斎藤知事はこれまで「核心部分が事実ではない」「誹謗中傷性が高い」として対応は適切だったと主張してきました。

 しかし、百条委員会が参考人として招致した「のぞみ総合法律事務所」の結城大輔弁護士は、元県民局長を公益通報制度の保護対象とするべきだったかどうかについて、「(公益通報制度では)“通報者の不利益になるような取り扱いはしない”というのが前提。今回の県の対応は、告発者に不利益な扱いをしたということになるのではないか」として県の対応などに疑問を呈し、上智大学の奥山俊宏教授も「公益通報者保護法に違反する」と指摘し「独裁者が反対者を粛清するかのような陰惨な構図を描いてしまった」と話していました。

 一方、文章で意見を寄せた徳永信一弁護士は、「3月の告発文書による外部通報と4月の内部通報とは通報先の違う別個の2つの通報がなされたものとして処理されるべきで、先になされた外部通報の保護要件に関する判断はその後になされた内部通報による影響は受けない」として県の対応は適法であるとしていて、有識者の間でも意見が分かれ、最終報告で百条委員会がどのような判断をするかが注目されます。

 また、元県民局長の私的情報を、知事の側近だった元総務部長が漏えいしていたとされる疑惑も浮上。情報を見せられたとする県議2人の聞き取り記録では、元総務部長が告発文書が「怪文書」だとして、「信用に値するような文書ではない。私たちは被害者だ」などといった発言を繰り返していたことが明かされています。こうした、県庁内部での情報漏えいの疑惑についても、どこまで糾弾するのかも焦点の一つです。

■揺れる委員「パワハラ認定すべき」「両論併記に」…方向性は見通せず

 設置から7か月あまりが経過し、百条委員会は全ての聞き取り調査を終えたとして、報告書の作成は大詰めを迎えています。

 この間、告発者の死亡や、議会の全会一致による不信任決議、斎藤知事の再選など、状況は目まぐるしく変化し、知事選以降はSNSなどで一部の委員が誹謗中傷にさらされるなどの問題も発生し、委員の一人が議員辞職後に死亡する事態に至りました。

 ところが、注目される調査報告書は、方向性も不透明な情勢です。疑惑の認定については、真偽の判定まで踏み込むのか、各委員の意見を併記する形にとどめるのか、百条委員会を構成する委員たちの間で意見が分かれています。

 委員の1人は、「パワハラに関する職員の証言のうち、知事が行為を認めたものについては事実として認定できるし、県立博物館で20メートルを歩かされ、叱責した件はパワハラとして認定すべき。両論併記はすべきではない」としています。

 しかし、別の委員は、「我々は法律の専門家ではないので、パワハラや公益通報者保護法違反の判定はできない。事実の認定までにとどめるべき」と訴えています。意見が対立する状況に「疑惑の認定については、各会派の両論併記に落ち着くのではないか」とため息まじりに話す委員もいるなど、報告書をめぐる協議の先行きは不透明になっています。

 さらに、パワハラの疑惑や公益通報をめぐる対応について、斎藤知事本人は、百条委員会の結論ではなく「最終的には司法の場での判断になる」との見解を示し、紆余曲折を経てまとめられた調査報告書が斎藤知事や県政にどのような影響を与えるかは見通せなくなっています。

 兵庫県民だけでなく全国的に関心を集めた一連の調査結果は、どのような行く末をたどるのか―。百条委員会は今後の調整を非公開の協議会内で進め、2月議会に提出される見通しです。

最終更新日:2025年2月1日 12:00