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ビニール傘が鞄に、美術館の垂れ幕は飾りに 捨てられるはずのモノに新たな命を吹き込むアップサイクル

2023年7月29日 14:00
ビニール傘が鞄に、美術館の垂れ幕は飾りに 捨てられるはずのモノに新たな命を吹き込むアップサイクル
素材がビニール傘のサコッシュ

 2015年の国連サミット以来、持続可能な17の開発目標・SDGsの達成に向けた取り組みが広がっています。

 国連で掲げられたものと聞くと、とても難しいことへのチャレンジのようにも感じてしまいますが、大事なのは「それなら私にもできる」と思えるかどうか。

 今回、特集する「アップサイクル」という取り組みは、捨てる予定であったものに手を加え、価値をつけて新しい製品へと生まれ変わらせることで、企業が大規模に行うケースだけでなく、個人個人が身近なところから始められるものです。捨てられるはずのモノに新たな命が吹き込まれる現場を取材しました。

■美術館ならではのアップサイクル

 風が吹くと涼やかに揺れるオーナメント。鮮やかなピンク色が部屋に明るい色どりを添えます。

 これは5月末、大阪中之島美術館で行われたワークショップで参加者が作ったものです。

 材料は、使われなくなったイベント紹介用の大きな垂れ幕。

 この美術館では、イベント開催に合わせて、縦10メートル、横2メートルもある垂れ幕を作り、会期中に掲げていますが、保管には費用がかかり、終わったものは廃棄しています。廃棄するにも、小さく裁断するなどの作業が必要で、何とかできないか方法を模索していました。思い入れのある展覧会の垂れ幕を捨ててしまうことに「もったいない」という思いだけでなく、寂しさを感じるスタッフも多くいます。

 そんな中で、廃棄されるものから新たなものを作る「アップサイクル」プロジェクトが考案されました。

 美術館では、手始めにワークショップを企画。5月に初めて行われたワークショップには、子どもから大人まで約30人が参加し、参加者は小さく裁断された展覧会の垂れ幕の生地を使って、オリジナルの飾りを思い思いに作っていました。

(参加者)
「思ったよりきれいなものが作れてびっくりしました」
「廃棄してしまうものが新しくかわいいものに生まれ変わるって素敵だなと思った」

 中之島美術館では、8月にも会期の終わった企画展の垂れ幕を使ったオーナメント作りを、小学生を対象に開催するとしています。

■ビニール傘を身近なものに

 雨の日にコンビニなどで手軽に買えるビニール傘。捨てられたり、落とし物として届けられたりした傘を回収し、アップサイクルしている企業があります。

 大阪市内に事務所を構えるoctangle(オクタングル)。代表の水谷哲朗さんは、ビニール傘をトードバッグ(Sサイズ1万9800円)やサコッシュ(7700円)などに生まれ変わらせています。

 水谷さんによると、気軽に安価で買えるビニール傘は年間約8000万本が消費され、その多くが半年以内に捨てられているといいます。ただ、リサイクルが難しく捨てられたままになってしまっています。

 ビニール傘は、構造が複雑で分解に手間がかかる上に、使われている素材が多く、リサイクルのための分別がしにくいという特徴があります。さらに、生地の部分に塩化ビニールが使われていることが多く、焼却処理ではダイオキシンが発生してしまいます。そのため廃棄されるビニール傘の多くが、日本から海外に送られ埋め立てられています。

 環境に優しいとは言えないビニール傘。水谷さんはこうした傘に新たな命を吹き込んでいます。

 水谷さんはもともと、展示会などをプロデュースする空間デザイナーとして働いていました。展示会ではたくさんの布材やカーペットなどを使いますが、まだ奇麗で使えるにもかかわらず、会期が終わると捨てられていました。

 「この状況をどうにかできないのか」、その思いで2022年8月、アップサイクルの会社を立ち上げました。

 ビニール傘を分解し、生地を洗って形を整える。デザインを考えることも含めかばん作りは、三重県にある工房で、手作業で一つ一つ丁寧に作り上げています。中でも難しいと話すのが、ビニールを何層にも重ね、生地にする作業です。開発まで約半年かかり、ようやくアパレルに使える生地を作ることができるようになりました。 

 地道に広報活動を続け、今年4月には日本最大のファッション展の一つ「ファッション ワールド 東京」に出展したほか、5月には大阪の阪急うめだ本店でポップアップストアを行うなど、少しづつ商品の認知度が高まっています。「捨てられるもの」「廃棄されているもの」にはネガティブなイメージが含まれ、それを文化にすることは難しいこととしながらも、今まで捨てるしかなかったものに可能性を感じ、「問題意識を持って考えるきっかけを作りたい」、その思いが水谷さんを駆り立てています。

 水谷さんの商品を購入した人からは、「軽くて丈夫。濡れたものを入れられて便利」といった声や、「新しい活用方法があることに驚いた」という喜びや驚きが聞かれているということです。

 今後はビニール傘だけではなく、以前、関わっていた展示会で廃棄される資材をアップサイクルし、アパレル製品などに甦らせていきたいとしています。

 私たちの身の周りには便利なものであふれています。その便利さゆえにすぐに捨ててしまうなどつい環境に負担をかけてしまいますが、方法は色々あります。少しの心がけで私たちにもできることはたくさんあるのではないでしょうか。