前川氏が講師 国が“授業内容確認”なぜ?
文部科学省の前川喜平・前事務次官が公立中学校で行った授業をめぐり、文科省が教育委員会に録音データの提供などを求めていたことがわかった。何が起きたのか? 何が問題なのか?「news every.」小西美穂キャスターが改めて整理する。
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■「不登校」など自らの経験語り…
前川氏が講師として招かれたこの公開授業のちらしを見てみると、「全校一斉総合」と書かれていて、総合学習の一環だということがわかる。テーマは、「これからの日本を創るみなさんへのエール」。
参加者によると、前川氏は、自分が中学時代に不登校になった経験があることや、夜間中学の普及に向けてボランティアをしているなどの話をしたという。生徒・保護者・地域の住民が参加したそうだ。
この授業について、文科省が、名古屋市の教育委員会にメールで授業の詳細や前川氏を講師に選んだ経緯など、15項目にわたり回答を求めていた。文科省はまた、授業の録音データの提供も求めていた。これに対して教育委員会は、メールには回答したものの、録音データの提供は拒否した、というやりとりがあった。この文科省の行動が問題視されている。
■“問い合わせ”に至った背景は?
文科省の行動の背景に何があるのか?そのポイントになるのが、授業を行った人物が前川氏だった、ということだ。前川氏は、文部科学省で官僚のトップである事務次官を務めた。そして、加計学園の獣医学部新設をめぐる問題で国会に参考人として呼ばれ、安倍首相からのご意向があった、と証言し、首相への忖度(そんたく)があったのではと物議を醸した。つまり、簡単にいうと、政府に批判的で“もの申し続けている人”なのだ。
文科省が教育委員会に対して送ったメールを見てみると、前川氏について、「いわゆる国家公務員の天下り問題により辞職し、停職相当とされた経緯があります」「いわゆる出会い系バーの店を利用したことなどが公になっています」などと指摘、「教育課程に位置づけられた授業において、どのような判断で依頼されたのか、具体的かつ詳細にご教示ください」などと聞いている。また、メールに回答した教育委員会に、文科省がさらに追加で11項目の質問を行ったことも明らかになった。
■教育現場を萎縮させかねない行為
そもそも、学校がどのような授業を行うのかについては、地方教育行政について定めた法律で、教育は基本的に各教育委員会が担うもの、と決められている。教育現場にどういう授業を実施するか決める裁量が与えられている。そこに、現場が萎縮するようなメールが送られたことが問題だといえるわけだ。
今回、前川氏の授業を聞いた人は、その内容について次のように証言している。
八王子中学校清水学区委員長・梅本隆弘さん「前川さんが自分の生い立ちなんかを話されたりして、みなさん非常に関心もって聞いてはいました」
名古屋市・杉崎正美教育長「私は当日現場には行ってません。講演内容を(後で)聞いたが特に問題はない。時の話題に触れることもなく、授業として特に問題なかったと思う」
今回の文科省の行動には、専門家も警鐘を鳴らしている。
元文科省官僚の寺脇研京都造形芸術大学教授「極めて異例。データ提出を求めるのはいきすぎだ。戦前を彷彿(ほうふつ)とさせるといっても大げさではない」
教育問題に詳しい藤田英典共栄大学教授「現場の裁量権を侵害する行為。今後のあり方に抑圧的な影響を及ぼす」
教育現場は、内容は問題ないと判断。林文科相も16日、担当者を注意した。文科省は注意を重く受け止め、今後は誤解をまねかないよう、より配慮するとしている。
■問われる「行政の良識」
文科省は、今回の行為は違法ではないと強調している。しかし、録音データの提供を求めるなどは教育現場を萎縮させかねない。こういう出来事から忖度が生まれてくるのではないだろうか。――政権に批判的な立場の人を学校現場へ講師としてまねくと、面倒なことになりそうだから空気を読んで控える――そんなことが起きる懸念がある。権力の介入はできるだけ最小限にとどめる。これが行政の良識というものではないかと思う。