学校や職場に“分身ロボ”…孤独の解消に?
OriHime(オリヒメ)と呼ばれるロボットがある。実は、このロボットを操作するのは人間だ。「そこにいることに大きな意味がある」―遠隔操作で動く“分身ロボット”の可能性を諏訪中央病院・鎌田實名誉院長が解説する。
■人間が操作するロボット「オリヒメ」
OriHime(オリヒメ)とは、カメラとマイク、スピーカーが内蔵されているロボット。操作する人は、その場にいなくても、パソコンやスマートフォンなどを使って、オリヒメを通して周囲を見まわし、人と会話をすることができる。“分身”ロボットだ。
実際、このようなコミュニケーションは、テレビ電話などでも可能なことだが、オリヒメが操作している人の分身として、そこにいることで「その人の存在」を感じることができる。このオリヒメを開発したオリィ研究所代表取締役CEO・吉藤健太朗さん(29)は、開発のテーマは“孤独の解消”だと話す。
■“自分が欲しかった”をカタチに
吉藤さん「元々私が3年半くらい、学校に通えない時があったんですけど、もしこういうロボットが学校にあって、家からスマホとかパソコンとか使って、黒板が見えて、先生の話が聞けて、手を挙げて『はい、先生』って言えれば、ある意味クラスに居続けることができたんじゃないかなと…」
吉藤さんは、体が弱く、小学校5年から中学校2年まで3年半もの間、学校に行けずに家で部屋の天井ばかりを見ていたという。オリヒメは、その昔の自分が欲しかったものを作ろうという思いで開発したということだ。
■不登校の子どもが学校に復帰
実際に、どういう人がオリヒメを使っているのだろうか。吉藤さんによると、現在、入院中で病室から出ることのできない生徒などが、全国9か所の学校で利用しているという。中には4年間不登校だった子どもが、オリヒメがキッカケで友達を作ることができて、学校に復帰したケースもあったという。
■今まで働けなかった人に可能性を
活用例は子供だけではない。実際に、吉藤さんが代表を務めるオリィ研究所では、会社に通う事のできない人が、オリヒメを使って仕事をしている。吉藤さんは「オリヒメを使って、今まで就職や仕事ができなかった人たちが、どんな仕事ができるだろうというのが研究テーマでもある」と話す。
このオリヒメを利用して、約2か月前からオリィ研究所でアルバイトを始めたのが向山さんという男性だ。向山さんは、筋ジストロフィーという難病で、小学4年生の頃から車いすを使って暮らしている。現在1人暮らしをしているが、外に出るには、ヘルパーさんや母親に介助をお願いするしかない。向山さんは、オリヒメを利用するようになって生活が変わったという。
向山さん「今までどこかでしっかり働くという経験がなかったので、すごく新鮮なというか、人の役に立つって、気持ちいいなと感じるようになった」
■ロボットでつながる社会
ロボットというと、人間の仕事を奪うのではないか、と思う人もいるだろう。ただ、障害があってもロボットをうまく活用することで、仕事をする事ができるようになる利点もあることがわかる。また、障害のある人ばかりではなく、在宅勤務などの目的でオリヒメを導入している企業も増えているそうだ。
また、開発者の吉藤さんは、以前、人工知能の研究も行っていたそうだが、人工知能に依存するだけでは、人を癒やすことはできない、結局は、人は人とふれあうことが大切で、オリヒメは人と人のふれあいをつくるキッカケになる、とも話していた。ロボットで人と人がつながる社会をつくることが、将来的にも重要になるはずだ。