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「いつか一緒にカフェを…」亡き姉が残したレシピ 家族と仲間に支えられ“再現”『every.特集』

2025年2月11日 12:46
「いつか一緒にカフェを…」亡き姉が残したレシピ 家族と仲間に支えられ“再現”『every.特集』

大好きなお姉さんを亡くし、心にぽっかりと穴があいてしまったという女性。そんな彼女を癒やしたのは、子どもからお年寄りまで様々な人が集う“居場所”でした。

年齢分け隔てなく…地域の人が集うコミュニティースペース「かんでんち」

千葉・木更津市にある古民家「かんでんち」。夕方になると――

子ども
「缶バッジのガチャガチャにしようよ!」

学校が終わった子どもたちとそれを見守る地域の人たち。塾でも学童でもない子どもたちの居場所です。集まるのは子どもたちだけではありません。

先生
「こうやって縫っていくと…」

昼間は、地域の人が集うコミュニティースペースとして、若い人も高齢の人も分け隔てなく過ごすみんなの居場所です。

コミュニティースペース「かんでんち」
矢部牧子代表理事
「関わり合いの中でいろんな人がいることを伝えられる場所になれば」

「いつか一緒にカフェを」姉を亡くし“心に穴” ついえた夢

そんな「かんでんち」に、傷ついた心が癒やされた人がいます。

近藤桂子さん、57歳。日頃は専業主婦の近藤さんは料理が得意で、いま月に2回ほど、「かんでんち」の厨房に立ち、やってくる人たちにランチを有料で提供しています。

この日のメインは「バターコロッケ」。自家製のデザートまでついてなんと1000円です。

お客さん
「出来立てですって、すごくおいしかった」

「体にも優しくて、味もすごくおいしいです」

近藤桂子さん
「来てくれるお客様も明るいし手伝ってくれる方も多い。やって良かったと思っている」

「かんでんち」では、お昼時、料理を作りたいと思う人が1日単位でレストランを開ける「ワンデイシェフ」という仕組みを作っています。

シェフになる人は1日4500円(平日)で厨房(ちゅうぼう)を借り、料理の値段はシェフ次第。「かんでんち」で過ごす人たちが、有志でお手伝いもしてくれます。

近藤さんが「かんでんち」で料理を作り始めたのは1年半ほど前からです。そこには、ある理由がありました。

仲の良かった姉・恭子さんが3年前、がんで帰らぬ人に。姉は生前、料理教室を開くほど、料理が得意でした。2人はいつも『いつか一緒にカフェを開こう』と、夢を語りあっていました。

しかし、その夢は、ついえました。

桂子さん
「姉がいなくなり(心に)ポッカリ穴があいて、何しても楽しくないし気がのらない」

「かんでんち」代表からの声かけで…第一歩を

そんな桂子さんを見て声をかけてくれたのが、2人の友人だった「かんでんち」の代表・矢部さんでした。

矢部代表理事
「桂子ちゃんも一歩目を進むいい機会。シェフをやってみないかと声をかけた」

かなえられなかった姉との店、それを実現するための第一歩がこの「かんでんち」だったのです。お店の名前は、「きょんけのおうち」。姉・恭子さんのあだ名「きょん」から名付けました

体の弱い息子のためと…野菜の栽培開始 大きな“強み”に

桂子さんのレストランには、息子の悠人さんという強い味方がいます。

悠人さん
「母の作ったご飯がおいしいです」

ダウン症の悠人さんは、学校がないときに桂子さんのお店を手伝っています。悠人さんは、なかなかの働き者。現在17歳。「かんでんち」の中で、悠人さん自身も成長していったと桂子さんは話します。

桂子さん
「お料理を持って行くと『ありがとう』とか『おいしかったよ』と言われるとうれしいみたい。自信になるんでしょうね」

ワンデイシェフの前日、2人は自宅近くの畑にいました。大きく育った野菜は、みんな桂子さんが育てたものです。

悠人さん
「一気に採るの?びっくりした!」

もともとは生まれつき体が弱かった悠人さんに、すべて手作りのものを食べさせたいと作り始めた野菜。いまや年間を通して50種類ほど。「かんでんち」でも提供しており、桂子さんが作る料理の大きな強みにもなっています。

お客さん
「すごい!素晴らしい!」

「姉の夢をかなえたい」店を出して1年、芽生えた思い

店を出して1年が過ぎた頃、桂子さんには、ある思いが芽生えていました。それは“姉が残したレシピだけで料理を出したい”ということでした。

桂子さん
「『かんでんち』でその料理を振る舞えたら。姉の夢をかなえたい」

姉が夢見ていた店は、自分のオリジナルの料理を出す店。それを、「かんでんち」でかなえてあげたい。実は、手元にはわずかですが、姉・恭子さんが料理教室のために作ったレシピが残っていました。

しかし、残されたレシピはあくまで家庭で作る料理。「かんでんち」のランチで大量に作るには難しいものばかりでした。どうしたら姉のレシピで「かんでんち」に来てくれた人を喜ばせることができるだろう。その答えが出ぬまま時は流れ、季節も変わっていきました。

見えた「希望の光」姉のレシピ再現へ

そんな状況が変わったのは、去年秋。とある常連のお客さんが――

桂子さん
「すごい!こんなにあった!姉のレシピです」

実はこの方、以前、姉・恭子さんの料理教室に通っていた生徒さん。教室で配られたレシピを大量に保管していたのです。希望の光が見えてきました。

去年11月、桂子さんからお姉さんのレシピで出す料理が決まったと連絡があり、自宅にお邪魔するとデザイン画を見せてくれました。

桂子
「これです、姉のレシピから探し出しました」

大量のレシピの中から7品の料理を選び1つのランチセットに。

桂子
「頑張ってみようと思ってます」

メニューの1つは、昔、お姉さんがよく作っていたという「ポテトグラタン」。特徴は、ポテトグラタンなのに大量のパセリを入れること。この工夫がお姉さん流です。お姉さんのポテトグラタンを小さい頃に食べていた悠人さんに試食をしてもらいます。

悠人さん
「おいしい。(恭子さんの味に)似てる」

ついに“スペシャル”メニュー完成 お客さんの反応は…

クリスマス前、いよいよその日がやってきました。

桂子さん
「無事にみんなが喜んでもらえるように見守っていてください」

姉が残してくれたレシピで、みんなを喜ばせたい。

この日の予約は、口コミで事情を知った常連さんなどでいっぱいだといいます。キッチンは大忙し。

これまで桂子さんを見守ってきた友人たちも手伝います。ポテトグラタンはフライパンで焼き目をつけ香ばしさを出す。お姉さんのアイデアです。悠人さんも頑張ります。

そうして出来上がったのが、「パセリのポテトグラタン」「ラタトゥーユ チキンベーコン巻き」「大根の春巻き」といったランチセットでした。全てがお姉さんの特別レシピです。

お昼時、店はお客さんでいっぱいになりました。

桂子さん
「今日はスペシャルです!」

果たしてお客さんの反応は――?

お客さん
「おいしかったです!感心しちゃいます。よくこういうレシピが思いつく」

お客さん
「グラタンおいしかった。バジルかなと思ったらパセリで。発想がすごい」

桂子さん
「よかった。姉の思いがずっとどこかにあって、もっと早くやれていたらよかった。今日は姉と一緒にできたみたいな」

矢部代表理事
「よかったよ、今日」

桂子さん
「よかったよ~」

そして、悠人さんも…

矢部代表理事
「ありがとう!お疲れ!お疲れ!」

心にあいた穴を癒やしてくれた「かんでんち」。桂子さんにとって大切な場所です。

(2月10日『news every.』より)

最終更新日:2025年2月11日 12:46