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「天皇陛下が食べる食品の検査をしている」宮内庁関係者になりすまし献上桃だましとった詐欺事件の全貌 

2024年9月6日 6:00
「天皇陛下が食べる食品の検査をしている」宮内庁関係者になりすまし献上桃だましとった詐欺事件の全貌 
福島中央テレビ

フルーツ王国ふくしまで起きた献上桃詐欺事件

9月5日、宮内庁の関係者になりすまし桃などをだまし取ったとされる詐欺事件で、被告の男に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が言い渡された。

福島県はフルーツ王国とよばれ、確かに県北の桑折町は「献上桃の郷こおり」と呼ばれるほど桃は皇室に献上されているが、そんな福島県で起きた詐欺事件は世間の耳目を集めたものだった。事件はいかにして起きたのか、5日の判決公判で示された内容をもとに振り返る。

福島県や茨城県の農家から農作物をだまし取った

加藤正夫被告は判決によると、2022年6月に福島市の桃農家に対し「皇室への献上品の選定権限を持っている」などとうそをつき「宮内」という押印をした偽造文書を使って相手をだまし、農家から桃4箱(時価1万6500円相当)などをだまし取ったという。

このほかにも茨城県筑西市のシイタケ農家にも、同じような手口で相手をだまし約2キロ(時価6000円相当)のシイタケを、同県結城市のトマト農家からは献上のためにトマトを検査するなどと装い2箱(1万2096円相当)をだましとったことが事実認定された。2023年には、既出の福島市の桃農家に、同じ手口で桃をだまし取ろうとしたが、農家からうそを見破られ、未遂に終わっている。

「自分は天皇陛下が食べる食品の検査をしている」

被告はいかにして被害者をだましてきたのか。判決で“周到に準備された計画的で悪質な犯行”と指摘されたその内容からこれまでの経緯を振り返る。

判決によると被告は、偽造文書以外にも、自分が東京大学大学院の客員教授だと名乗ると「天皇陛下が食べる食品の検査をしている」や「献上品を選定することができる」などと言葉巧みに福島市の桃農家をだましていたという。

宮内庁から献上品の認定書代わりに預かったとして『皇室献上桃生産地○○地区』などと書かれた木札を農家に渡すなど、その周到さが垣間見れる。他の被害者にも、皇居内にある樹木園芸研究所の所長を務めているとも偽り、相手をだましてきたようだ。(※○○は編集加筆)

自分には権限があると無罪を主張した被告

一連の裁判では、宮内庁の職員が証人として出廷し、献上品の選定権限などについて証言している。

職員の証言によると、献上品は都道府県知事等の申し出があった場合に規定に基づいて受け取るもので『個人から食品の献上品を受け取ることはない』と話したうえで、宮内庁が個人に対し献上品の紹介を依頼するなどの働きかけはないという。

被告は巧みに『献上依頼書』と称した偽造文書を作っていたが、証言にたった職員によれば宮内庁がそのような文書を作成することもなければ、偽造文書に掲載されていた住所や押印はまったくの別物で「宮内庁作成の文書の体裁をなしていない」と証言した。

ただ法廷で被告は、宮内庁の関係者から口頭で“献上品として良いものがあったら推薦して欲しい”と言われ、自分には献上品の選定や推薦の権限があったと無罪を主張してきた。弁護人も「(被告には)権限があると信じていたのだから詐欺の故意はない」と主張したが、裁判所は誤信したことを裏付ける事情は一切認められないとした。

裁判所は判決で、宮内庁職員の証言と被告の供述は著しく異なり、権限が与えられた経緯を含めた供述は具体的に乏しく、証拠も見当たらないと否定している。被害者からだまし取った品は、宮内庁に発送したと被告は主張したが、発送伝票やその事実は確認できなかった。

「被害弁償はなされず反省の態度は見て取れない」

判決で福島地方裁判所は、被告が偽造した文書について「必ずしも精巧とは言えないが、公文書に対する社会的信用を害するもので軽視はできない」としたうえで、詐欺としてだまし取った金額は多額とは言えないものの「長期間身分を偽り、被害者から農作物を搾取したり、しようとしたりして、周到に準備された計画的で悪質な犯行」とした。

判決によれば、被告は不合理な弁解に終始しており、真摯な反省の態度は見て取れないという。この点や前科前歴などを考慮したうえで、9月5日に被告に対して懲役3年、執行猶予5年の有罪判決が言い渡された。

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