【特集】保育士から転身したアーティスト 「勇気や元気を与えられる存在になりたい」 絵に込めた熱い思い 広島
広島を拠点に活動する、今、注目のアーティストは、元・保育士だった男性で、絵は完全に独学だといいます。そこには、伝えたい熱い思いがありました。
力強いタッチで描かれた明るい色合いの花と、黒い原爆ドーム。
■アーティスト 宮本拓也さん
「8月6日に作品を描き始めて、終戦日の8月15日にできた作品です。」
56輪の花は、絵を描いた2023年当時に、世界で起きていた紛争や内戦の数を表しています。
■アーティスト 宮本拓也さん
「ここ(絵の左下)は戦争の恐ろしさ、こっち(絵の右上)が平和。左から上に、平和へ、希望へ満ちたうえで描いた作品で。」
2024年11月にオープンした、アートの拠点「アートボーンヒロシマ」にアトリエを構える宮本拓也さんは33歳で、アーティストとして本格的に活動を始めて、まだ2年足らずです。
■アーティスト 宮本拓也さん
「まったく画家を目指していなくて、絵を描こうなんて想像もしていなかったです。」
短大を卒業後、保育士になり、市内の保育園に勤めていました。趣味で描き始めた絵を園内に飾ってもらったところ…
■アーティスト 宮本拓也さん
「保護者が「娘が宮本先生の絵を描いてきたんです」って。」
園児の描いた1枚の絵が、宮本さんの心に火をつけました。
■アーティスト 宮本拓也さん
「それが、この絵なんですよ。僕の絵を見てインスピレーションして。次は、僕の描いた絵で、たくさんの方に勇気や元気を与えられる存在になりたいなと思って。」
先の見通しもたっていないなか、11年勤めた保育園を辞める決断をした宮本さん。作品を手に、知り合いの店を回るところから始めました。
■アーティスト 宮本拓也さん
「友達も心配して「本当にお前絵を描くの?大丈夫なの?ちょっと絵は置けないね」と言われたんですけど。だけど、僕はあきらめられなくて。自分の思いを伝えれば、相手の心に響いて、相手も行動として示してくれるんだなと思って。そこで初めて「お前の絵飾るよ」って言ってくださって。」
絵を飾ってくれる店が少しずつ増え、作品を置きたいと声がかかるようになりました。
■アーティスト 宮本拓也さん
「今日は、作品の納品にやってきました。」
高校の同級生が営むヘッドスパ。「和とモダンをテーマにした内装に合う絵を」とオーダーされました。
届けた2枚の作品には、それぞれ鯉と鶴が描かれています。いずれも、日本人にはなじみ深い縁起の良い生き物です。
■アーティスト 宮本拓也さん
「鯉も右上がりなんですよ。鶴も右上がりで。この店が、日本・世界に羽ばたいてほしいなという思いで。真ん中にここお店のロゴになる、というイメージで描いた作品です。」
施術室の壁にしっくりなじんだ絵は、癒しを求めて訪れる客を迎え入れます。
そして、2025年は被爆80年。広島で生まれ育ったアーティストとして、今こそ伝えたいメッセージがあります。
■アーティスト 宮本拓也さん
「世界で広島って注目されている場所だからこそ、平和についての思いをキャンバスに表現しています。」
原爆ドームの上から垂らした絵の具で、黒い雨を表現します。ヘラで塗りこんだ赤い絵の具は、戦争への怒りです。
インスタグラムにあげた花の絵。プロモーターの目にとまりました。2025年10月に、フランス・パリで行われる世界有数のアートフェアへの出展が決まっています。
■アーティスト 宮本拓也さん
「僕はこの年齢になっても、感謝の気持ちと謙虚な気持ちを忘れていなくて。筆があること、絵の具があること、絵が描けることは、本当に幸せなことだなって思います。」
子どもたちから勇気をもらい、飛び込んだアートの世界。ほとばしるエネルギーを作品に注ぎ込み、人々に夢や希望を届けます。