シイタケ農家が昆虫や観葉植物を販売!?さらには福祉事業にも挑戦 亡き父の精神受け継ぐチャレンジ農家
秋田が全国に誇る農産物のひとつ「シイタケ」。
そのシイタケを作る過程で捨てられていた“あるもの”を活用して、新たなビジネス、そして福祉につなげようという取り組みを取材しました。
米どころ・秋田。
日本一広い盆地といわれる横手盆地は、美しい田園風景が広がる、国内でも有数の穀倉地帯です。
コメと並んで全国でも指折りの生産量を誇る農産物があります。
畠山琢磨さん
「こちらがシイタケ工場です。毎日500キロから600キロぐらい収穫しています」
肉厚で香り高く、首都圏の市場でも高い評価を受けている、生のシイタケ。
秋田は全国4番目の生産量を誇ります。
横手市の農業法人で代表を務める、畠山琢磨さん。
26棟のハウスで、年間約180トンのシイタケを生産しています。
畠山さん
「原木のシイタケに近いような品種で、肉厚で丸くてゴリゴリしているような品種で、かみごたえもすごく、風味もいいです」
畠山さんがシイタケ栽培に取り入れているのが、菌床です。
細かく砕いた木に米ぬかなどを混ぜて固めたもので、シイタケの出来を左右する大切な“土台”です。
畠山さんは、県産のナラの木から、独自の養分を配合した菌床を自社で生産しています。
20センチ四方ほどで重さ約2キロ。
年間約30万個の菌床をつくるということです。
畠山さん
「菌床栽培は、原木栽培に比べるとブロック状になっていて軽いので、生産性と省力化が図れます。といったところがメリットですかね」
さらに、収穫までの期間が短いのも特徴です。
菌床栽培は約3か月で収穫することができ、1年以上を要する原木栽培の4倍以上の速さです。
しかし。
畠山さん
「これが使い終わって捨てられた菌床になります。年間600トンくらいの排出量になります」
山積みになった菌床。
お金をかけて処分しなければならない産業廃棄物です。
畠山さん
「冬季間の収入確保のためのシイタケだったので、兼業農家が多かったんですね。なので、少量で処分は済んでいたんですけど、いま全国で4位くらいの生シイタケの生産量のある県ですので、ゴミの問題もすごく悩みの種になってきています」
大きな課題となっていた、使い終わった菌床。
畠山さんが4年前に始めた事業が、いま全国から注目を集めています。
畠山さん
「こちらが昆虫ラボになります。メインがヘラクレスオオカブトムシになります」
大人の手のひらを優に超える大きさの、ヘラクレスオオカブトムシ。
南米や中央アフリカに生息する世界最大のカブトムシで、日本のカブトムシと比べるとその差は歴然。
特に大きいものは、100万円以上で取り引きされることもあるといいます。
大きなカブトムシを育てるために欠かせないのが、栄養たっぷりのエサ。
原料になっているのは、“あの”捨てられていた菌床です。
畠山さん
「昔は畑に置いていた廃菌床の山に日本のカブトムシが寄っていたという光景を見たことがあったので、エサとして使えるんじゃないかと思ったのがきっかけですね」
いまではヘラクレスオオカブトをはじめ、約40種類、1万匹以上の昆虫を育て、全国に販売しています。
シイタケ農家の長男として育った畠山さん。
父・浩之さんは、アメリカで2年間、スケールの大きな農業を学び、帰国後、シイタケの大規模栽培に取り組みました。
「菌床づくりでシイタケの出来の8割が決まる」、そう話していたという浩之さん。
菌床をそのまま栽培する方法が主流だった当時、容器に入れて上の部分だけから収穫する方法を、県内で初めて導入。
品質の高いシイタケの割合を飛躍的に伸ばすことに成功します。
寝る間も惜しんで働き、生産量も順調に伸びていた2011年、膵臓がんと診断されました。
大学院への進学が決まったばかりだった畠山さん。
急きょ、実家に戻り、大学院がある宮城県に通いながら、イチからシイタケ栽培を学んだといいます。
畠山琢磨さん
「菌とはなんぞやというところから、イチから勉強しましたので、すごく手探りの部分もありましたし、シイタケというと人手がかかるので、雇用のところの人との関わり方というところにもすごく難儀しました」
病床でシイタケ栽培のノウハウを伝え続けた浩之さん。
50歳の若さでこの世を去りました。
畠山さんはことし、観葉植物を栽培する事業を新たに始めました。
肥料に使っているのは、菌床を食べたカブトムシのフンです。
ウシのフンに比べ、においが少ないだけでなく、ミネラルもより多く含まれていることが、県立大学の分析で分かったといいます。
その特性を生かした肥料を作り、サボテンなどの多肉植物約500種類を育て、販売しています。
さらに、新たな施設も。
畠山さん
「これは就労(継続)支援B型の訓練所になります」
この夏から、障害のある人に働く機会を提供する予定です。
畠山さん
「シイタケっていうのは人手がかかる仕事で、なおかつ機械化ができないので、そういったところにすごくこういった施設と相性がいいと思っています」
いずれはカブトムシの飼育や多肉植物の栽培も担ってもらい、障害者の自立を手伝いたいと考えています。
畠山さん
「シイタケ、農業、昆虫だったり福祉、まったく違う分野に思えるんですけども、意外とつながっているところがあって、今後、持続可能な社会って目指す時に、その分野だけじゃなくて他分野との関わり合いを持つことで、さらなる付加価値が生まれてくるのではないかと思っています」
こだわりの菌床づくり、そして大規模栽培に挑戦し、国内有数の産地としての足がかりを作った父・浩之さん。
チャレンジ精神も父から受け継いだ畠山さんは、循環型の農業と、福祉の連携に、これからもまい進します。