子どもに“性教育”をどう伝える?園では絵本で「ダメ」を伝える練習も
子どもを性犯罪から守るために、私たちは何が出来るのでしょうか。日本版DBS法の成立をはじめ、性犯罪防止に向けた動きが進む現代。保育の現場では、“性教育”に関するさまざまな取り組みが行われていました。
子どもを性犯罪から守る「日本版DBS法」が成立
子どもたちにとって、プールや水遊びなど楽しみな時間が増えるこの時期。関東圏の保育園では、現職の警察官による“プライベートゾーン”に関する説明が行われていました。
“プライベートゾーン”とは、水着を着たときに隠れる体の部分と口のこと。「もし他の人がみんなの水着で隠れる部分を、キャッと触ったらみんなどんな気持ちになる?」など警察官がジェスチャーを取り入れながら、園児たちに問いかけます。
園児らが性犯罪に巻き込まれないように行われた、この防犯指導。今、日本では、子どもを性犯罪から守る意識が高まっています。
その一例が、2024年6月19日に成立した「日本版DBS法」。
「日本版DBS法」とは、教員や保育士などの性犯罪歴の確認が、学校や保育所・幼稚園などに義務づけられること。性犯罪歴が確認された人は、刑の種類によって10年または20年、子どもと接する業務に就くことができないようになりました。
「どの用語を使えば…」性教育に悩む親たち
性犯罪に巻き込まれないためには、家庭での子どもへの性教育も大切。中京テレビ「キャッチ!」では、小さな子どもを持つ親に、“子どもへの性教育”について街頭インタビュー。年長クラスの女の子をもつ母親は、「なんとなく水着で隠れる部分は見せちゃダメだよと、教育というレベルではないが、ちょっと話は軽くする程度しています」と話します。
一方、幼い子に“性”について、どう教えたらいいのかと悩む親も。小学2年生と年少クラスの子を持つ父親は、「例えば自分の下腹部の話もどう名称を伝えたらいいかというのもありますし、ストレートに言っていいのかというのは、恥ずかしいですけど考えながら話していますね」と回答。
2歳の女の子を持つ母親は、「今でも大事なところは、親やおじいちゃんおばあちゃん以外には見せちゃいけないということは、お風呂とかでは言っているんですけど」と話し、「みなさんどういう風に教育されているのか聞きたいんですけど、保育園入る前とかはちょっと難しいですよね」と心境を明かしました。
子どもたちを性犯罪から守るため、法整備を進めるのと同時に大切なのが“教える”ということ。
以前「キャッチ!」で取材した、小学1年生の時に担任の教師から性被害を受けていたという女性も、「その行為がどういう意味かも分からなかった」と、当時の気持ちを明かしていました。被害を受けていたことに気付かなかったため、誰にも訴えることができず、発覚が遅れてしまう事態に。性に関する教育を受けていたら、被害を受けた当時に周囲に相談できていたかもしれません。
絵本を通して“性の大事さ”を伝える
今、性教育の現場はどうなっているのでしょうか。「キャッチ!」は、名古屋市の子ども園を取材しました。
訪れたのは、名古屋市中村区にある『稲葉地こども園』。この園では3年前から、園長先生自らが“体のプライベートゾーン”に関する絵本の読み聞かせを行っています。読み聞かせに参加しているのは、5歳と6歳クラス。「体の特別大事なところはどこかな?さぁどこでしょう?」と、園長先生が絵本を通して園児たちに問いかけます。
『稲葉地こども園』の奥村紀子園長は、「水着で隠れるゾーンはプラベートゾーン。見せちゃいけないということを具体的に話せるなと。絵本に親しみながら自分たちの身を守るっていうことにつなげていけたら」と、読み聞かせの目的を話します。
奥村園長が読み聞かせていた絵本は、大泉書店が出版する、遠見才希子作「だいじ だいじ どーこだ?」。体の大切さだけではなく、一人ひとりがかけがえのない存在ということを伝える「からだ」と「性」の絵本です。園で使っている絵本は、奥村園長自らが準備。読み聞かせ時には、実際に大人からの“性的な声かけ”を受けた時、拒否をする練習も実施していました。
ユネスコ「国勢セクシュアリティ教育ガイダンス」では、“いいタッチ”と“悪いタッチ”を5~8歳の性教育の学習目標として設定。子どもたちに“いいタッチ”と“悪いタッチ”を理解をさせ、悪いタッチをされたらノーと言うなど、対応についても教えるよう示しています。
奥村園長がこのような性教育を実施するまでには時間がかかりました。「(園児に性教育を)やっていきたいなと思った時は、“寝た子を起こさないで”みたいなそういう風潮がありまして。性の話題にはタブー視、ちょっと避ける感じ(があった)」と、実施まで時間を要した理由を明かします。
絵本の“読み聞かせ”を通じて、子どもたちへ行う性教育。奥村園長は、「子どもたちが犠牲にならないように、性の大事さを伝えていかないとつくづく思っている」と園における性教育の役割を語りました。
「キャッチ!」では、10件の保育園・子ども園を対象に、「性教育の時間を設けているか?」と質問。「設けている」と答えたのが3園、7園が「設けていない」と回答しました。設けていない園の担当者は「性教育は、まだ早いという保護者の声もある」と答えます。
一方、性教育の時間を設けている保育園にも課題が。設けている園の担当者からは、「園で教えても、親戚などがキスしたりズレを感じる」という意見が寄せられるなど、性教育が進んでも、周りの社会が追いついていない様子が垣間見えます。
「キャッチ!」コメンテーターで、保育士として活動する「てぃ先生」は、“親の準備”の重要さを挙げ、「(性教育について説明する)タイミングを逃しかねないので、“親の準備”も大切。親がうろたえてしまうと、そういう話題を出していけないのかと子どもが思ってしまう可能性がある」と話します。
また性教育に対する、子供たちの“受け取り方”にも注目。「(性教育に対する)子どもたちの受け取り方もさまざま。子どもたちが興味をもっているかな?と考えながら、興味をもっている子どもたちにそれを伝えよう、というスタンスが大事だと思います」と子どもの成長や発達に合わせること、興味や関心をもった時に少しずつ話していくなど、一人ひとりのペースで性教育を進めていく大切さを話しました。
また、「自分の子どもが小学校になったタイミングで性教育に関する意識がないと、我が子が誰かのプライベートゾーンをさわってしまう可能性もある」と話し、「自分の子供が“被害に遭う”という視点だけでなく、“自分の子供がしてしまうかも”という意識ももつべき」と、親世代における性教育との向き合い方を述べました。
保育の現場でも、進みつつある“性教育”。未来に向けて、全世代が“性”について考えていけるような環境づくりが大切です。