“手作り漬物”が消える? 国内屈指の漬物産地・愛知県 厳格化で生産者が9割減
“手作り漬物”に危機が迫る 業者や農家にふりかかる厳しい規制
この時期、収穫の最盛期を迎える“梅”。愛知県新城市で梅の生産を行う柿原久哲さんは、梅を塩漬けにした漬け梅もつくり、直売所などに出荷していましたが、6月からは店頭に並べるような量はつくらないといいます。
その理由は、6月1日から適用となる改正された食品衛生法によるもの。手作りの漬物の製造・販売が許可制になり、決められた製造工程や設備を満たしたうえで、保健所から許可をもらわないといけなくなるのです。
きっかけとなったのは、2012年に発生した集団食中毒事件。札幌市などで食品会社が製造した白菜の浅漬けを食べた8人が、O157に感染して亡くなりました。
愛知県によると2021年5月末時点で届け出を出した漬物の製造を行う農家や業者は1000件以上いますが、現在、許可を得ているのは100件程度。約10分の1に減るというのです。
その一方で、漬物づくりを続ける決断をした人もいます。新城市で約30年にわたり梅干しなどを販売する横畑昭子さん(79)。以前は、自宅の横にある木造建築の調理場で漬物を漬けていましたが、それでは保健所の許可が下りないため、約200万円かけてリフォームしたといいます。
横畑昭子さん:
「水もなかったし、流しとかこういう棚もないし、調理台もないし、ただこういう広い部屋だけだったので『全部柱も囲ってください』と言われて。日本建築だとカビが生える。(木だと)ダメって言われました」
法改正により、自宅の台所とは分けた専用の調理場の設置や、床や内壁を水洗いできることなどが必要に。水回りは梅を洗う設備と手を洗う設備がそれぞれ必要で、ハンドル式の蛇口は禁止。さらに、専用のチェック表で体調の管理などが必要となり、漬物をつくるまでに多くの手順を踏まないといけなくなります。
JA愛知東の直売所などに漬物をおろす生産者は約50いるといいますが、現在、許可が取れているのは、たったの7。40以上の生産者が辞める可能性があるのです。
JA愛知東 菊地猛さん:
「この法改正にともなって、辞められる方や前もって出荷物を出す方もいて、徐々にこういう状況にはなっているのかな。(漬物は)地域の食というところの文化になる。そういうものがなくなるのは非常に残念だと思う」
こうした状況を受けて、自治体が支援に乗り出すケースも。「いぶりがっこ」が名物の秋田県では「秋田の文化を守るため」として生産者1人につき最大1000万円の補助を実施したところ、130件以上の申請につながったということです。
こうした支援も受けながら、昔ながらの味が、新たなルールのもとで守られていくことになるのかもしれません。