【SNS時代の選挙】名古屋市長選で圧勝した広沢新市長を独自取材 SNSを追い風にした候補と、“デマ”の火消しに追われた候補 選挙のあり方に課題残る
河村市政「継承」で圧勝した広沢新市長
河村前市長の政策継続を訴え、前参議院議員の大塚耕平氏に約13万票の差をつけて初当選した広沢一郎新市長。
当選確実の一報が届いてから約9時間後の午前6時、広沢新市長は、河村前市長とともに中京テレビの番組「あさドレ」に生出演しました。自らの公約について、落ち着いた表情で話していましたが、中京テレビに到着した直後の控え室では「(河村さんのことを)つい“市長”と呼んでしまいそう」と漏らし、“市長”の実感がなかなか沸いていない様子。
それを横で聞いていた河村前市長は、「大名古屋の市長ですから、固くはなるけど(広沢さんは)品がいいから。やけくそでやってちょ」と広沢新市長の背中を押しました。
午前10時。名古屋市役所で当選証書を受け取った広沢新市長は、記者の質問に時折笑顔も見せながら対応。
広沢一郎新市長:
「いよいよここからがスタートだな。はやく仕事をしたい気持ちでいっぱい。風通しの良い市政を目指してまいりますので、市の職員、市民の皆さまも、何なりと私にお声がけをいただければと思います」
約400人の職員が出迎えた初登庁セレモニーでは、花束を受け取り満面の笑顔。市長の椅子に座った際も、穏やかな表情で撮影に応じていました。
今後は、河村市政が対立してきた愛知県の大村知事や市議会と向き合い、公約を実現できるかが注目されます。
SNSで明暗わかれた2人の候補
投開票前日の夜、名古屋・栄では名古屋の新市長となった広沢氏が、“最後の訴え”を行っていました。街頭からは大きな“一郎コール”が沸き上がります。
公職選挙法で街頭演説が許されている午後8時ギリギリまで支持を呼びかけ、これで14日間の選挙戦を締めくくったかと思いきや、午後9時半ごろ、広沢陣営で何やら動きが。カメラやマイクのセッティングをしていました。
演説の後に行っていたのは生配信。午後8時以降は、法律で禁止されていないSNS上で“最後のお願い”をする徹底ぶり。選挙戦をともに戦った河村前市長も一緒に、視聴者からの質問に答えていきます。
広沢氏は、ここ数年でSNSに選挙を動かす流れがでてきたといいます。
広沢一郎新市長:
「普通はやれやれと家に帰って寝るところを(生配信するので)休憩時間が減りましたね。発信の仕方が今までだと基本的に街頭だけど、街頭とネットと同じぐらいやらないと勝てない」
SNSの影響力の大きさを示したのが、11月17日に行われた兵庫県知事選です。パワハラ疑惑などが発端となり失職となるも、再び返り咲いた兵庫県の斎藤知事。勝利の要因としてあげたのがSNSでした。「今回はSNSを通じていろんな広がり、SNSのプラスの面を感じた」と話し、演説の様子などをこまめに投稿した結果、Xのフォロワーは3倍になったということです。
その一方で、選挙に敗れた稲村和美氏は、SNSに苦しめられることになりました。SNS上で稲村氏が「外国人参政権を与えようとしている」という誤った情報が拡散されたのです。選挙後の会見では「斎藤候補と争ったというより、何と向かい合っているのかなと違和感があった」と首をかしげました。
それと同じような事態は名古屋市長選でも起こっていました。広沢氏に、約13万票の差で敗れた大塚耕平氏は、選挙戦も終盤となる11月20日、ポスターを新しいデザインに変えていました。
大塚耕平氏:
「敬老パス負担金ゼロにする、拡充すると申し上げてますが、いろんなデマが飛んでますので、それに対するカウンターの意味もあります」
Xを見ると、大塚氏は当初から敬老パスの拡充を訴えていたにもかかわらず、「敬老パスの値上げ」と真逆の投稿が。さらに、「移民1000万人受け入れ」「市民税の増税」など、大塚氏が訴える政策とは異なる投稿も見られました。
その内容を否定するために動画を配信するなど、“デマ”の火消しに追われていたのです。
大塚耕平氏:
「(対応するのは)簡単じゃない。レスポンスすると、それに対していろいろなこともあるので。民主主義の危機といってもいい」
そして11月24日。落選確実となった後、完敗を認めながらも、“デマ”の影響が少なからずあったと話しました。
大塚耕平氏:
「『敬老パスなくすんじゃなかったの? 逆のことを言っている』という問いかけを何十回も受けましたので、それだけデマが浸透していた。選挙妨害に近い行為なので、今後どう対応していくか、政治全体の課題だと思います」
政策を訴える手段として有効な一方で、デマが拡散すると選挙活動が妨害されるSNS。今後の選挙のあり方に課題を残しています。