特集「キャッチ」トイレに逃げ込んでいい 不登校の経験者を受け入れる音楽学校 押し入れで過ごしていた女性は卒業ライブで歌った 福岡
突然、廊下で始まった弾き語り。ここは、福岡市中央区にある高等専修学校「C&S学院」です。
音楽やダンスの専門的な分野と、国語や数学など普通科目の授業があり、必要な単位を取れば高校卒業の資格を得ることができます。
全校生徒は、およそ90人。そのうち、7割の生徒は不登校を経験したことがあります。
■1年生
「(中学生の時は)週に2回ぐらい休んで行かなかったこともあります。」
■1年生
「C&S学院に行ってからは自分のペースに合わせて楽しく過ごせる。」
まもなく卒業を迎える、3年生の草場晴菜さん(18歳)です。晴菜さんも中学生になってすぐに不登校になりました。
■草場晴菜さん(18)
「先生から言われた言葉で傷ついてしまって人を信じるのが怖くなって、友達も家族も自分自身も何も信じられないってなって。」
極度の人間不信に陥った3年間、多くの時間を過ごした場所は自宅の押し入れでした。
■草場さん
「この上にこもって、ぬいぐるみをいっぱい置いていて、いつもここで過ごしていました。」
家族の視線さえも避けていた娘に、母親の友莉さん(42)は、学校に行くよう力ずくで説得を試みたことも。
■母・友莉さん(42)
「無理やり押し入れから引っ張り出して、取っ組み合いのケンカをして、学校はそれでも行けなくて。」
しかし、かたくな娘を見て、徐々に考えを変えたといいます。
■母・友莉さん
「好きなところに私が仕事の休みに連れて行ってあげて、その時だけ家や押し入れから出るから、ほっとする瞬間。」
晴菜さんは、母のおかげで少しずつ外に出られるようになりました。
学校に足が向いた中学3年のある日、C&S学院のパンフレットに目を奪われました。
■晴菜さん
「すごく楽しそうだなって。この先にちょっとだけ笑える未来があるのかもしれないと思えて。」
この学校には、生徒たちを縛るルールはほとんどありません。先生たちは、不登校を経験した子どもたちにそっと寄り添います。
■晴菜さん
「(先生が)『トイレに逃げ込んでいいよ』とか『いくら遅刻しても来ただけでえらいよ』とか、ちょっとずつ慣れてきて自分も出せるようになった。」
C&S学院で学んだ3年間で、オリジナルの歌を20曲ほどつくった晴菜さん。学校生活の最後にどうしてもかなえたい夢がありました。
■晴菜さん
「バンドをやりたいと思っていて、いろんな人を巻き込んでやることなので、『自分にはできないんじゃないか』と思って、ずっとやれていなかったんですけど。」
バンドの演奏を披露するのは、学校の卒業ライブです。
■晴菜さん
「私が卒業ライブでバンドをやろうと思っとるんやけど、それのギターとして…。」
■生徒
「アコギですか?」
■晴菜さん
「アコギです。参加お願いできませんか?」
■生徒
「はい。」
■晴菜さん
「やったー!」
勇気を振り絞って声を掛けたのは、4人の同級生と後輩。晴菜さんの念願だったバンド「Music girls」の誕生です。
■C&S・三登真由加 先生
「ここの入るタイミングが難しいよね。もっとわかりやすくしていいかも。ギターを上げるだけでもいい。」
卒業ライブまで、およそ1か月。限られた時間の中で、試行錯誤を重ねます。
披露する歌の作詞作曲は、晴菜さんが手がけました。
■晴菜さん
「曲名は『第二の家』にしたんだけど、ここが私の第二の家と思っていて。ここに来て人のこと好きになったし、私は言葉にするのが苦手なんよ。だから気持ちが伝わるように一緒に弾いてもらえたらすごくうれしいです。」
そして迎えた卒業の日。
♪第二の家(作詞・作曲 草場晴菜)
(歌)「今日それはそれは晴れ舞台 私の第二の家 私らしさ見つけた場所 騒がしい仲間たちと楽しく奏でる場所 僕らの第二の家 みんなまた帰る場所 今日を懐かしむ明日へ行こう」
■晴菜さん
「この学校に出会えて、この学校で卒業できてよかったです。音楽でつながっているってみんな思っているから。私もこれから音楽と一緒に生きていきたいと思います。」
♪(歌)「それじゃ行ってきます!」
かけがえのない仲間たちに囲まれ、誰も信じられなかったかつての自分を乗り越えた晴菜さん。新たな一歩を踏み出しました。
♪(歌)「ありがとう!」