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特集「キャッチ」明治創業・老舗の時計職人 持ち主の思いも次の世代へ 福岡

2024年1月10日 18:00
特集「キャッチ」明治創業・老舗の時計職人 持ち主の思いも次の世代へ 福岡
老舗の時計職人
特集「キャッチ」です。SDGsの目標の一つに「つくる責任 つかう責任」、一つの物を修理して再利用し長く使うというものがあります。時計の修理やメンテナンスを通して、持ち主の思いも次の世代へ引き継ぐ職人の姿を追いました。

福岡市南区の篠原時計店は、明治35年、1902年に創業し、福岡の地で120年以上続く時計の老舗です。

4代目の篠原徳弘さんは、時計の修理やメンテナンスを続けて40年になります。篠原さんによって息を吹き返した時計は、およそ2万点にのぼるといいます。

その評判を聞きつけ、地元はもちろん、県外からも日々、時計に関する悩みを持った人が訪れます。

時計は、年代もメーカーもバラバラです。現在、150個ほどの時計が修理待ちで、中には部品がなく、修理が終わるのに数年かかるものもあるといいます。

■篠原時計店・篠原徳弘さん(62)
「きょうは、このロレックス。」

この日、いつものように午後6時半に営業を終えた篠原さんは、依頼を受けた時計を取り出しメンテナンスに取りかかります。

■篠原さん
「使っていた時計を息子さんに渡されるということなので、分解・掃除をする。」

依頼した男性が25年ほど前に購入し、常に身につけていたという大切な時計です。男性の息子が大学受験に合格したあかつきにプレゼントするため、メンテナンスを依頼されました。

一目見て状態は良さそうですが、奥にたまった汚れを掃除するために、全ての部品を一つ一つ取り外していきます。

小さな部品は0.3ミリです。肉眼ではハッキリ見えないほどの大きさも含め、部品の数は100個ほどに上ります。分解するだけで、かかった時間は1時間半です。

分解した部品を一つ一つ特殊な液体を使って、2回に分けて洗浄していきます。大切に扱われていたのか、洗浄液に出てきた汚れは、ほんの少しでした。

閉店後の夜に作業をするのは、接客対応や周囲の雑音がなく、細かい作業に集中できるからだといいます。

1時間半ほどかけて、部品を組み立て中の動きを確認します。

■篠原さん
「んー、動きが悪い。ゼンマイは大丈夫だろうと思って中を見てなかったけれど、やり直したほうがいいみたい。」

機械式時計の動力源となる部品、ゼンマイに問題があるようです。

■篠原さん
「あー、汚れてるね。これはやっぱり洗ったほうがいいみたい。」

さらに細かく分解して洗浄すると、ゼンマイ、そしてゼンマイの入れ物にも汚れがたまっていました。

作業開始からおよそ6時間、汚れが取り除けたころには日付が変わり、時計は徐々に元の姿へと近づきます。

■篠原さん
「修理として持ち込まれた時計には、その人の思いがあると思う。きれいな状態にしてお渡しして、一番最初と同じように、生き返ったと言われるのが一番うれしい。」

2週間後、依頼者が受け取りに来ました。

■篠原さん
「お待たせしました。」
■男性
「いろいろとお世話になりました。ありがとうございます。」

依頼主は福岡市に住む医師の男性です。

■男性
「あー、きれいに動いている。うれしい、うれしい。どんな感じでした、中身は。」
■篠原さん
「ご連絡差し上げてから、きょうまでの間で(ズレが)日差でプラス7.6秒ぐらいになっている。」
■男性
「いいですね!」
■篠原さん
「このままでいけば、順調に動くのではないかと思います。」
■男性
「分かりました。ありがとうございます。うまく大学に合格してくれたら、これをもらえるんだけど。」

この時計を受け取ることになるであろう息子は、父の背中を追い、医学部を目指しています。

■男性
「機械式の時計など価値のあるものだと息子に受け継ぐこともできるし、人の役に立つ人間になってもらいたいので、こういう時計に恥じないような生き方をしてもらいたいなと思いますね、大げさだけど。」

篠原さんの手によって息を吹き返した腕時計は、父親から息子へ受け継がれ、さらに時を刻んでいくことになります。