特集「キャッチ」誰かと一緒に食事ができない「会食恐怖症」を知ってほしい 仕事や交友関係に影響も 給食で“心の傷” 福岡
会食の場面で、吐き気やめまいなど体に不調を感じ、人によっては次第に仕事や交友関係などに影響が出てくるといいます。
ほかの人と同じように食事を楽しみたい。会食恐怖症を知ってもらおうと、福岡県内でも少しずつ動きが広がってきています。
■ゆうやさん(仮名・30代)
「クロワッサンと塩パン。これくらいかな。(Q.昼ご飯?)うん。」
福岡県内に住む30代のゆうやさん(仮名)です。およそ20年間、会食恐怖症に悩みながら生活しています。
■ゆうやさん(仮名)
「友達と気軽に食べに行こうとか飲みに行こうとか、職場の人に『はい行きます』と言うのがなかなかできない。」
1人だと普通にとれる食事ですが、誰かと一緒にとなると、緊張してご飯が喉を通らなくなり、食事の場や食べることを苦痛に感じるといいます。
きっかけは小学5年生の時でした。転校して慣れない環境での給食時間でした。
■ゆうやさん(仮名)
「先生に『残して大丈夫ですか、食べられないので』って聞いたら『いや、ちゃんと食べなさい』 と。残って食べようとするけど、全然のどを通らない状態で。5時間目くらいにやっと先生から叱責され、やっと『残してもいい』という許可が得られた。これがきっかけ。」
給食の時間が終わってもすべて食べてしまうまで取り残される「完食指導」が毎日続くうちに、ゆうやさんの体に異変が起き始めました。
■ゆうやさん(仮名)
「給食の配膳が来て目の前にぽんと置かれた時点で、気持ち悪くなってもう全然食べられない日が毎日毎日続いた。」
日本会食恐怖症克服支援協会が会食恐怖症を発症した642人に行ったアンケートでは、きっかけに給食の完食指導が関わっていると答えた人が半数を占めました。
子どもの時に受けた心の傷は、大人になっても影響を及ぼしているのです。
ことし1月、福岡県直方市で保育士らを対象にした講演会が開かれました。
■日本会食恐怖症克服支援協会・山口健太 代表理事
「『会食恐怖症』を聞いたことがある人?全然いない、なるほど。」
講演したのは、会食恐怖症の克服支援活動をしている山口健太さんです。自身も過去に会食恐怖症を経験しています。
■山口 代表理事
「(野球部の)合宿で”食トレ”と称して、ノルマの量のご飯を食べないといけないという指導があった。その量を食べることができなくて、先生からみんなの前でめちゃくちゃ怒られた。次の食事の時に、『また食べられなくて怒られたらどうしよう』というふうに自然と思うようになった。」
高校生の時に発症し、食事の時間となると、吐き気や食べ物を飲み込めないといった症状が出ました。
その後、飲食店のアルバイト先でまかないを「無理して食べなくていい」と言われたことをきっかけに少しずつ改善し、克服していったといいます。
その経験をもとに山口さんが考えたのは「食べなくてもいいカフェ」です。
利用者はスタッフも含め、全員が「会食恐怖症」の当事者や家族です。悩みなどを打ち明ける場として東京や大阪で広がっています。
■山口 代表理事
「自分自身が食べられなかった時に何が1番つらかったかというと、やっぱり理解されなかったこと。理解されないことで孤独感が強かったので、そういう人のために何かできないかなと。」
カフェはあえて「食べなくてもいい」とすることで安心感を与え、利用者のハードルを下げています。
ことし3月からは、福岡でも月に1回「食べなくてもいいカフェ」が開かれています。そこには、ゆうやさんの姿もありました。
■ゆうやさん(仮名)
「楽しかったですよ。良かったと思います。」
■食べなくてもいいカフェ九州 スタッフ
「“あるある話”とかが中心になっていました。」
いま、給食の現場も変わりつつあります。
■子どもたち
「いただきます。」
■先生
「どうしても苦手なものがある人は言ってください。」
■子ども
「ブロッコリー。」
■先生
「ブロッコリー1個減らそう。」
「(野菜を)半分くらい?これくらいでいいですか?」
全員同じ量の給食が配膳されたあとに、こどもたちが苦手なものを減らしたり、食べられる量を調整したりしていました。
すると、ある変化も起きていました。
■子ども
(Q.嫌いな食べ物は何?)「大根。頑張って食べる。」
給食のスープには、苦手な大根が入っていましたが、見事完食しました。
■子ども
「先生食べました。」
■先生
「すごい。頑張ったね。」
量を調整することで、嫌いな食べ物も少しずつ食べるようになった子どもが増えたといいます。
■土師保育所・西舞さん
「先生の声かけでも、声のトーンだったり表情だったり、『もう一口食べてみようか』じゃなくて、『食べられるだけでいいんだよ』というふうに、残してもいいんだという安心感があれば、もう一口頑張ってみようかなという気持ちになるので、楽しい雰囲気の中で食事ができることを一番心がけています。」
また、料理をする時間を取り入れるなどして、子どもたちに食事は楽しいものと感じてもらうよう取り組んでいます。
毎日の食事がつらい時間にならないために、完食ではなく、食べることの楽しさを知ってもらう動きが少しずつ広がり始めています。