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【工藤会トップの死刑を破棄】1審で「生涯、後悔するよ」→2審では裁判長に何度もうなずく 捜査を指揮した県警OBは驚き「納得できない」 暴排活動への影響は 福岡

2024年3月12日 17:52
【工藤会トップの死刑を破棄】1審で「生涯、後悔するよ」→2審では裁判長に何度もうなずく 捜査を指揮した県警OBは驚き「納得できない」 暴排活動への影響は 福岡
野村被告の死刑を破棄し無期懲役に

4つの市民襲撃事件で殺人などの罪に問われている特定危険指定暴力団・工藤会トップらの控訴審です。福岡高等裁判所はトップの野村悟被告に対する1審の死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡しました。福岡高裁前から中継です。樋口さん。

■樋口淳哉記者
はい。裁判は2時間半ほど前、午後2時40分ごろ閉廷しました。

1審の死刑判決が破棄され、無期懲役の判決が言い渡された野村被告ですが、改めて最後にその理由が読み上げられている際には、何度も何度もうなずきながら裁判長の話を聞いていました。

そして裁判長と弁護士に深々と頭を下げて法廷を出ていきました。

そして、野村被告・田上被告両名の弁護士は、上告する意向を示し、福岡高裁も上告を受理したということです。

4つの事件で殺人などの罪に問われている野村被告。これまでの経緯と、今回の裁判の争点をまとめました。

12日午前、福岡高裁の市川太志裁判長は「主文、被告人野村悟に関する部分を一部破棄し、無期懲役に処する」と述べました。

判決文が読み上げられる間、工藤会のトップ、総裁の野村悟被告(77)はうなずきながら、まっすぐ裁判長を見つめていました。

午前9時ごろ、2人を乗せたとみられる車は福岡拘置所を出発しました。

■樋口淳哉記者
「野村被告・田上被告を乗せたとみられる車が福岡高裁へ入っていきました。」

午前10時前、深く一礼し、法廷に先に入ったのは、黒のスーツに身を包んだ田上不美夫被告(67)です。そのおよそ2分後に、紺色のスーツを着た野村悟被告が入廷し、裁判は始まりました。

2人が罪に問われているのは、工藤会が関与したとされる市民を標的とした4つの襲撃事件です。

港の公共工事への介入を断ったとされる元漁協組合長が射殺された事件や、工藤会の捜査に長年携わっていた福岡県警のOBが銃撃された事件などで、殺人や組織犯罪処罰法違反の罪に問われています。

控訴審で最大の焦点となったのは、1審で野村被告に下された「死刑判決」が支持されるのか否かでした。

1審では、野村被告らの指示や関与を直接裏付ける証拠はなく、2人は一貫して無罪を主張し続けました。

1審の福岡地裁は「重要な意思決定は被告2人が意思疎通しながら、最終的に野村被告の意思で行われていたと推認できる」として、4つの事件すべてで、野村被告を工藤会の組織力や指揮命令系統を利用して犯行を実行させた「首謀者」と認定しました。

野村被告には死刑、田上被告には無期懲役の判決が言い渡されました。

「生涯、後悔するよ」と裁判長に言い残し、野村被告らは判決の翌日に福岡高裁へ控訴しました。

去年9月、厳戒態勢のなか控訴審が始まりました。ナンバー2の田上被告が、これまでの主張を一転させます。

弁護人が「4つの事件で関与している事件はありますか」と質問すると、田上被告は「あります。看護師事件と歯科医師事件です。傷つけるよう指示しました」と関与を認めました。

一方、野村被告は、弁護士が「田上被告が指示をしたと聞いてどう思いましたか」と質問すると「田上も私のことを思いすぎてくれるくらいの人間やから、すまんなと」と述べたうえで、改めて4つの事件への指示を否定し、「田上被告から事前の話はなかった」と説明しました。

これに対し、検察側は2人の供述には信用性がないとして控訴の棄却を求め、結審しました。

そして迎えた12日の控訴審判決で、福岡高裁の市川裁判長は、1審の野村被告に対する死刑判決を破棄し、無期懲役の判決を言い渡しました。

「元漁協組合長の事件は、野村被告の共謀について論理則・経験則に基づいて是認できない」と指摘し、1998年に元漁協組合長が射殺され殺人などの罪に問われた事件について、当時の工藤会の組織に厳格な序列があったと認める証拠はないとして、野村被告の指揮命令を推認することはできず共謀は認められないとしました。

一方で、ほかの3つの襲撃事件は野村被告が実質的な意思決定権を持っていたとして「市民を標的にし、卑劣で反社会的な態度が著しい」としました。

田上被告については、組員にかん口令を敷くなど事件への関与が認められるとして控訴を棄却し、1審の無期懲役の判決を支持しました。

工藤会「頂上作戦」で、着手から捜査を指揮してきた福岡県警OBの尾上芳信元刑事部長は、元漁協組合長の射殺事件で野村被告の共謀が認められなかったことを「納得できない」と話しました。

■福岡県警OB・尾上芳信 元刑事部長
「漁協組合長事件については野村被告は無罪という判決内容で、厳しい判決だったと受け止めています。本当に悔しいというか残念な気持ち。驚きもありました。私は当然、1審が支持されると確信していた。私個人としてはまったく納得できるようなものではありません。」

■北九州市民
「軽いんじゃないんですか。反社会同士の闘争なら分かりますけど、一般市民とか元警察官とか、そこまで手を出してますから。」
「ふに落ちないですよね。せっかく一生懸命、(暴力団を)排除するために、みんなでがんばってきたので。また出てきたりすると、恨んでいる人も多いだろうし、ちょっと、えって感じ。」
「死刑も嫌やけど、無期懲役っていうのも、被害者がいるから納得はできない。あの人たちのおかげで、すごいイメージじゃないですか、北九州といったら怖いよって。」

暴力団排除の運動に参加してきた市民は、活動継続への不安を口にしました。

■暴排運動に参加してきた市民
「北九州市が暴力の街からやっと治ったかなというのがあるのですが、無期懲役のこの判決が何となくまたぶり戻したような感じです。(暴排運動は)もちろん続けていかないといけないのですが、きちっと解決しなかったら、また何か報復されるから。」

想定外ととらえた人も多かった控訴審判決で、野村被告は裁判長の方を見ながら何度もうなずき、満足げに判決を聞くと、終わりに弁護士に深々とお辞儀し、法廷をあとにしました。

2人の弁護団はすでに上告しています。

■スタジオ
改めて詳しく見ていきます。

こちらの4つの事件について、12日の控訴審判決で1審判決と異なる判断が下されたのが、1998年に発生した元漁協組合長射殺事件の野村被告の関与に関する部分です。

1審では、この部分も含め、すべての事件で野村被告が有罪となっていました。

はい。1審では、組織として厳格な統制があり野村被告の指示があったと「推認」、つまり推測されるとして、野村被告を事件の「首謀者」と認定し有罪になりました。

これが死刑判決の大きな理由になっていましたが、控訴審判決では関与が否定されました。

裁判長は「野村被告の共謀について論理則・経験則に基づいて是認できない、1998年当時、組織の厳格な統制があったとする証拠はなく野村被告の指示や共謀を推認することはできない」としています。

つまり、有罪無罪を決めるうえで、今回の裁判では「推認」というワードがよく見られましたが、そこに事実かどうかを決めるにあたって、判断が分かれたかたちです。

■松井礼明アナウンサー
「再び、福岡高等裁判所前の樋口記者と中継でつなぎます。樋口さん、元漁協組合長の射殺事件を無罪とし、死刑から無期懲役の判断になったのはなぜでしょうか。」

■樋口記者
はい。元漁協組合長の射殺事件について1審判決は有罪のポイントを3つ挙げていました。

まず、工藤会の前身にあたる組織の組織的犯行であること、これについて福岡高裁は、組織的な犯行であることは認める一方、野村被告の共謀を認めるには限定的だと指摘しました。

2つ目、事件について1審では港湾利権を手に入れたいとの動機に基づくものだと推認されるとしましたが、2審ではこの動機を認定するのは困難だとしました。

3つ目、1審では配下の組員が独断で事件を起こすとは考えられないとしましたが、2審では、野村被告の指示を認めるには合理的な立証がなされていないとしました。

■松井アナウンサー
「つまり、元漁協組合長の射殺事件で1審が野村被告を有罪とした根拠は、ほとんど否定されたというわけですね。」

■樋口記者
工藤会の組織性を評する際、「鉄の結束」という言葉が使われますが、福岡高裁は、1998年当時、組織の厳格な統制があったとする証拠はないとしました。以上、裁判所前から中継でした。

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