【なぜ】直接証拠なく全面否認 検察「未必の故意があった」専門家「もし有罪なら死刑も」6人死亡の7年前の火災「放火殺人」の立証は 福岡
7年前に北九州市で6人が死亡したアパート火災で、放火などの疑いで逮捕されていた元住人の56歳の男が17日、殺人の罪でも起訴されました。犯行を裏付ける直接証拠がなく、被告が全面否認する中、検察側はなぜ起訴に踏み切ったのでしょうか。
2017年、木造2階建てアパート「中村荘」は炎に包まれ全焼しました。
事件から7年が経過した9月、警察は元住人の井上浩二被告(56)を、中村荘に侵入し放火した疑いで逮捕していました。
福岡地検小倉支部は10月17日、住居侵入と放火に加え、殺人と殺人未遂の罪も加え、井上被告を起訴しました。
起訴状によりますと、井上被告は2017年5月7日午後11時すぎ、「中村荘」に侵入し、ガスバーナーのようなもので放火した上、火災によって住人6人を殺害し、5人に重軽傷を負わせたとされています。
逮捕後の調べで、井上被告は「やっていない」「退去したあと、中村荘には一度も行っていない」と話し、全面的に否認しています。
なぜ、検察は起訴に踏み切ったのでしょうか。
起訴した根拠①間接証拠の積み上げ
今回の事件では、放火の瞬間の映像など直接的な証拠はありません。
■児玉悠一朗記者
「捜査で警察が力を入れたのは、元々あった“間接証拠の積み上げ”です。その一つが、現場を行き来する不審な人物の姿を捉えた防犯カメラ映像による“リレー捜査”でした。」
警察は、押収した70台以上の防犯カメラ映像をつなぐ“リレー捜査”により「中村荘」に放火したとみられる不審な人物を追跡しました。そして、この人物が、井上被告の自宅マンションと中村荘の間を原付バイクで往復していたと特定しました。
不審な人物の服装や原付バイクの特徴は、別の事件で井上被告から押収したものと一致しました。井上被告自身も逮捕前の任意の調べで、映像の一部に映っているのは自分だと認めたといいます。
起訴した根拠②未必の故意
検察は、全面否認の中での殺人罪をどう立証するのでしょうか。「殺意」の有無について、捜査側は井上被告が事件の1年前に中村荘に住んでいて、出入り口の場所などアパートの構造や、居住実態を熟知していたことを重視しました。そして、放火によって「住人が死亡するかもしれない」という“未必の故意”があったと判断しました。
ただ、直接証拠は一切ありません。刑事事件に詳しい専門家は、裁判での立証は難しいものになると指摘します。
■甲南大学・園田寿名誉教授
「刑事裁判の鉄則は無罪の推定。全ての人はまず無罪だと扱われる。今回は否認しているということだから余計、覆す強力な証拠が必要になるんだろうと思います。もし有罪になると6人が亡くなっているので、死刑が選択される可能性はかなり高くなる。慎重に判断すべき事件です。」
6人もの尊い命が奪われた火災。被告が関与を全面的に否認する中、積み上げた間接証拠などがどう評価されるのか。今後行われる公判の行方が注目されます。