シリーズ『こどものミライ』 増加する0歳児虐待を防ぐ 母親を妊娠期から支える取り組み
子育てを取り巻く環境や、子どもたちの成長を見つめるシリーズ『こどものミライ』です。児童相談所に寄せられる虐待の相談は、増加の一途をたどっていて、2021年度は20万件を超えました。課題の一つが、0歳児が暴力などを受け死亡するケースです。この『0歳児虐待』を防ぐために新たな取り組みが始まっています。
■管理栄養士スタッフ
「真ん中にちょっと切れ目入れて、返して、ねじりこんにゃく。これよくやるよね。」
この日行われていたのは、料理教室です。集まった女性が食材の下処理や調理の仕方を学んでいます。
福岡県福智町の『ママリズム』は、産前産後の母親と子どもをサポートする施設です。行政が見守りの対象として登録する『特定妊婦』や経済的困窮、パートナーからのDVなどで支援が必要な妊婦や産後の女性を受け入れ、支えています。
それぞれに部屋も用意され、家具や家電も借りて使うことができます。費用負担はほとんどなく、スタッフの生活支援を受けながら、利用者は安心して出産前後のときを過ごすことができます。
行政の委託を受け、女性の産前産後を支える民間施設は、福岡県内に3か所あります。今年度中にさらに増える予定です。こうした手だての背景には、『0歳児虐待』を防ぐ狙いがあります。
厚生労働省によりますと、2020年度の1年間で、虐待で命を落とした子どもは77人に上ります。そのうち実に4割が『0歳児』、1歳の誕生日を迎える前でした。加害者の約4割が、実の母親です。
福岡では去年5月、大野城市のマンションで生後7か月の井上新大ちゃんが肝臓破裂で死亡し、母親が殺人の疑いで逮捕されました。骨折のあともあるなど虐待の疑いもあり、現在、責任能力を調べる鑑定留置が行われています。
こうした事件の背景には、ある特徴がありました。
■福岡県 こども福祉課・福井ミチル 係長
「児童の虐待死を招いた保護者の要因として、妊娠期から孤立した状況にあったこと、それから産前産後の体調や家庭環境に問題を抱えていたことなどが指摘されています。」
国は妊娠中から母親を助け、支える仕組みが必要だとして、去年6月に児童福祉法を改正、来年4月から施行します。困難を抱える妊産婦を支援するため、一時的な住居や食事の提供、情報提供を行う事業を創設することが盛り込まれています。
産前産後の支援施設『ママリズム』で2年ほど暮らしている女性は、経済面でも気持ちの面でも助けられたと話します。
■『ママリズム』の利用者(30代)
「住む場所と、ある程度の生活力っていうのが確保されているといいますか、すごく安心につながりました。周りに助けを求める、それは恥ずかしいことではなくって、当たり前のことだよっていうのは学ばせていただいてます。一番大きなところです。」
スタッフの支えで生活を立て直し、子育てにも慣れて、間もなく娘と2人での暮らしを始めます。
■ママリズム・大島修二 施設長
「やっぱり、いろいろと葛藤されると思うんですよ。そういう事件起こしてしまうまでに、悩んだり苦しんだりっていうのがあると思う。最初からですね、お子さんのことが憎くて手を上げるとか、虐待してしまうようなことはほとんどないと思いますので、そこを何かこう問題が発生して、虐待してしまうっていうところがあるので。そこを支援していくっていうのが大事なのかなと思います。」
妊娠期からの支えで、母親の孤立を防ぎ虐待を減らせたら、という願いを込めた新たな取り組みが少しずつ広がり始めています。