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3年前のあの夏を取り戻す 夢を絶たれた元球児が母校のユニフォームで甲子園に 福岡からも参加

2023年12月13日 16:09
3年前のあの夏を取り戻す 夢を絶たれた元球児が母校のユニフォームで甲子園に 福岡からも参加
3年前に目指すことすら許されなかった夢の舞台へ

こちらは11月の阪神甲子園球場です。笑顔でプレーしているのは3年前の夏、コロナ禍で甲子園への夢を絶たれた「元」高校球児たちです。あの夏を取り戻すために、3年ぶりに母校のユニホームを着て甲子園の土を踏みました。福岡からも4校の合同チームが参加しました。

11月29日、阪神甲子園球場に同じ思いを持つ「元」高校球児たちが全国から集まりました。

■聖隷クリストファー高校OB・大橋琉也さん
「私たち球児にとって、高校生活のすべてと言われるほどの大きな目標を失い、あるものは野球を続け、あるものは野球から離れ3年の時がたちました。」

胸によぎるのは、3年前のあの夏です。2020年、夏の全国高校野球選手権大会が中止となりました。戦後初のことです。甲子園への夢を絶たれた当時の高校球児たちは、卒業後も行き場のない思いを抱えていました。

■福岡高校OB・大中宏斗さん
「あの夏で野球に対する考え方は少し変わってしまったのかなと思う。」

■西日本短期大学付属高校OB・名倉聖拓さん
「何も考えられない状態で、3年間何のために野球をやってきたのかなという気持ちになった。」

そんな思いに終止符を打つために、元高校球児の呼びかけで実現したのは「あの夏を取り戻せ」全国元高校球児野球大会です。各都道府県の独自大会で3年前に優勝した高校の選手たちが参加しました。

福岡県からは4地区それぞれで優勝した4校の合同チームが甲子園の土を踏みました。

■福岡高校OB・大中宏斗さん
「今勉強しているのは民法ですね。」

九州大学法学部に通う大中宏斗さんは、あの夏、福岡地区を制した福岡高校の副キャプテンです。決勝では最後のホームを踏みました。

■大中さん
「鮮明に覚えていますね。みんなガッツポーズしながら出てきたので。」

強豪・福大大濠を破った公立高校の優勝はスポーツ紙の1面を飾りましたが、大中さんの心にはわだかまりが残っていました。

■大中さん
「優勝した喜びとその反面、優勝したからこそ甲子園に行けたんじゃないかという正直、両面あった。テレビで高校野球があってもチャンネルを変えてしまったり、正直見たくない。あの夏のことを思い出すので、僕としてはずっと避けてきた。」

卒業以来、ずっと野球から離れた日々でした。今回の大会を前に3年ぶりに、母校・福岡高校のグラウンドでキャッチボールをしていました。相手はともに出動する同期メンバーです。

■大中さん
「あれきりだと思っていたので、再びこうやってキャッチボールができてすごくうれしい。」

白球を追い続けたあの日を思い出しながら、仲間との久しぶりの野球は日が暮れるまで続きました。

【目指していたのはここで間違いなかった】

■西日本短期大学付属高校OB・名倉聖拓さん
「強豪校のユニホームという感じで、一番の思い出と言ったらこのユニホームだと思う。」

北九州市立大学に通う名倉聖拓さんは、西日本短期大学付属高校OBです。高校3年間は寮で過ごし、たった一つの夢のため野球に打ち込んできました。

■名倉さん
「甲子園に行くために寮生活もして親元も離れてスマホもない3年間だったので。甲子園は夢の舞台なのでそれだけを目標にやっていた。」

名倉さんが見せてくれたのは一つのボールです。

■名倉さん
「中学の時の仲いい友達が入寮の日の朝に見送りに来てくれて、キャッチボールしようと言ってくれて投げてきたボールがこれ。(甲子園に行って)テレビに映っている姿を見せてあげたかったのですが。コロナはどうしようもないので。」

卒業後しばらくは複雑な思いを抱え、グラウンドから離れていました。しかし、野球への情熱は消えず、去年、自ら野球のサークルを立ち上げました。今回の大会には迷わず出場を決めました。

■父・亮介さん
「じゃあ頑張って。」

支えてくれた仲間や家族に感謝を伝えるために、そして何より、甲子園を夢見て努力を重ねた3年間に今度こそピリオドを打つために。福岡代表の選手たちは3年前のユニホームで集まり、あの夏、目指すことすら許されなかった夢の舞台に立ちました。

■聖隷クリストファー高校OB・大橋琉也さん
「過去のすべてを取り戻せないことを私たちは知っています。それでも未練に終止符を打ち、これからも続いていくそれぞれの人生に向き合うために、私たちはあの夏にこだわり切ります。」

大会は、全国からの寄付金で開かれました。甲子園球場を1日しか借りることができず、福岡代表に与えられた時間は入場セレモニーとわずか5分間のノックだけです。全員が全力で、甲子園の空気を感じます。

■福岡高校OB・大中宏斗さん
「ずっと憧れていた舞台を肌で体感してみて、ずっと目指してきたところはここで間違いなかったなと思いました。」

飯塚高校OBの江頭慎吾さんは、大学で野球を続ける今も、あの頃のバッグを使い続けています。

■飯塚高校OB・江頭慎吾さん
「夢見ていたので本当に感動。その時は運がないなとか思ったりしたが、甲子園の土を踏んで本当に運を持っているなと思った。」

この日、冬空の甲子園では全国45校、およそ700人が3年前の悔しさに区切りをつけました。

■西日本短期大学付属OB・名倉聖拓さん
「あっという間に終わりました。」

翌日、兵庫県姫路市で記念の試合が行われました。選手たちは3年間抑え込んできた思いを晴らすように、笑顔でプレーをしました。

■名倉さん
「コロナで大会がなくなるという一番大きな経験をしたが、3年間やってきたことに無駄なことはなかったんだなと思う。やり切りました。」

■福岡高校OB・大中宏斗さん
「やっぱり野球は僕の中の大好きなスポーツだし、今後も何かしらの形で携わっていきたいなというスポーツだと改めて感じました。笑顔でユニホームを脱ごうと思います。」

甲子園という夢舞台を失ったあの日から3年がたちました。誰も経験したことがない夏を乗り越えた彼らは、新たな一歩を踏み出しました。