【水俣病訴訟】原告全員を水俣病と認める 大阪地裁判決の意義は
28日、水俣病の救済の対象とされなかった人たち、国、熊本県、原因企業のチッソを相手取り賠償を求めた裁判で、大阪地裁は27日、原告128人全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じる判決を言い渡しました。大阪地裁で取材した松本茜記者とお伝えします。
■松本茜記者
「私は廷内で傍聴していましたが、判決を読み終えた裁判長が『長い間お疲れ様でした』と原告に声をかけると、傍聴席から拍手があがったのが印象的でした。地裁の前では、勝訴を知り涙を流す人もいました」
【判決後の原告団の記者会見】
■弁護団 徳井義幸弁護士
「全員が水俣病だと認められた。水俣病の救済問題を大きく前進させる判決といっていいと思う」
■原告 前田芳枝さん(74)
「私たちはこれで病気が治るわけではない。治らない病気、治らない。勝訴って分かった時点で、あ、やっと認められたんだと」
来年3月22日に熊本地裁で判決を控える熊本訴訟の原告団も大阪の会見に参加しました。
■熊本訴訟 森正直原告団長
「全員が水俣病だという判決を聞いた時、10年間頑張ってきて報われたなと思った。この判決は、熊本の判決にも弾みのつく判決だと思う」
【スタジオ】
■畑中香保里アナウンサー
「改めて、水俣病とはチッソの工場排水に含まれるメチル水銀が魚介類に蓄積し、それを食べた人たちが発症したものです。長年、取材している東島さんはどう感じましたか」
■東島大デスク
「全員を水俣病と認めたのは、これまでの裁判でもあまり例がない。ただ判決を読むと、水俣病はどういう病気か、どんな症状をどう診断すれば水俣病といえるのか、非常に丁寧に検証している。画期的ではあるが、常識に基づいた判決」
■松本茜記者
「改めて、こちらが大阪地裁の判決です。原告128人全員を水俣病と認めました。そして国などに1人275万円の賠償を命じました。これは弁護士費用を差し引いても、水俣病特措法で救済対象者に支払われた210万円を上回っています」
■畑中香保里アナウンサー
「裁判の争点は何だったのでしょうか?」
■松本茜記者
「今回の裁判の争点となったのは、2009年に施行された水俣病特別措置法です。水俣病とは認めないものの、メチル水銀の被害者と位置づけ、1人210万円の一時金や医療費を支給するもので、国はこれを『水俣病の最終解決』と位置づけました。しかし実際には、申請したものの救済の対象とされなかった人が相次ぐ事態となりました。また以前に不知火海周辺から大阪などに移り住んだ人たちの中には、救済策を知った時にはもう締めきられていたというケースもありました。そうした人たちが裁判を起こし、今回の原告128人はその一部なんです」
■畑中香保里アナウンサー
「判決のポイントを教えて下さい」
■松本茜記者
「まず特措法では、救済の対象者を住んでいた地域や生まれた年代で線引きしました。天草地方などでも、隣の地区は対象だけれども自分の地区は対象外ということもあったんです」
■畑中香保里アナウンサー
「それは不合理に感じる人も多かったと思いますが、国は何の手当もしなかった?のでしょうか?」
■松本茜記者
「対象外の地域に住んでいた場合、数十年前に魚をたくさん食べたという証拠の提出を求められました」
■畑中香保里アナウンサー
「それはそれで難しいですよね」
■松本茜記者
「原告は、民間の医師らが一定のフォーマットにのっとって診察した水俣病であることを示す共通診断書を示しましたが、国などはそうした診断書を否定し、『原告たちには水俣病を発症するほどのメチル水銀の影響はなかった』と主張しました。これについて判決では、これまでの水俣病についての研究を比較検討した上で地域や年齢の線引きを否定し、特措法で規定した地域や年齢以外にも水俣病の被害が起きる可能性は十分考えられるとしたんです」
■畑中香保里アナウンサー
「特措法の前提が否定されたということでしょうか?」
■東島大デスク
「年齢という話が出ましたが、水俣病には、メチル水銀が体内に入って時間がたってから発症する『遅発性水俣病』という考え方があります。国はこれを一貫して否定してきましたが、判決ではこの可能性を認めました。そういう意味で、今回の判決は水俣病行政に根本的な見直しを迫るものだといえます」
■松本茜記者
「水俣病と行政の関係に詳しい専門家に話を聞いてきました」
【VTR】
■E熊本学園大学 花田昌宣シニア客員教授
「被害の広がりが地域的にも年代的にも広く認められていて、水俣病に長く関わっている研究者や患者団体からすると、言ってみれば当たり前のことだが、それが司法上も認められた大きな一歩」
熊本学園大学シニア客員教授の花田さんは、今回の判決が確定した場合、国などは水俣病の救済制度を見直さなければならないと指摘しました。
患者が初めて確認された「公式確認」から67年。原告の平均年齢は70歳を超えているため、花田さんは裁判を引き延ばすべきではないと話します。
■熊本学園大学 花田昌宣シニア客員教授
「これまでの裁判で、一審段階で負けて上級審でも負けたけど、争い続けるその間に原告は亡くなる。そこからではもう遅い。今の段階で原告や被害者団体と協議をして なにが可能かを検討することが必要」
【スタジオ】
■畑中香保里アナウンサー
「行政はどうすべきだと東島さんはどう思いますか?」
■東島大デスク
「まず国は特措法を改正して、救済の受け付けを再開すべき。そして熊本県は、それを国に促すべき。特措法の成立の時、私は取材チームのデスクでしたが、当時から特措法の欠陥は指摘されていました。蒲島知事も特措法の成立に関わっているわけですから、政治の原点は水俣病というなら、それは任期中にやらなければならないと思います」
■松本茜記者
「特措法には『あたう限りすべて救済されること』とうたわれています。原告の弁護団は、国や県が動かないなら、司法の場で水俣病かどうかを判断できる制度をつくるべきだと話していました。『やっと認められた』と震える手でマイクを握り、報道陣に対して話す原告を見て、国や県はこの判決を重く受け止め一刻も早く多くの人が救済される道を探ってほしいと感じました」