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「ヒバクシャを知っていますか?」長崎の被爆者らが核大国アメリカで 2週間の証言ツアー

2023年11月24日 20:57
「ヒバクシャを知っていますか?」長崎の被爆者らが核大国アメリカで 2週間の証言ツアー

特集は、長崎の被爆者たちがアメリカの都市を巡った証言ツアーです。市民に直接訴える旅の先に、「核なき未来」への希望は見えたのでしょうか。密着取材しました。

□ヒバクシャを知っていますか

朝長 万左男さん(80)「長崎を最後の被爆地としなければいけない」

三田村 静子さん(81)「人類滅亡の証しを目撃した人間として今後何があろうと核兵器を使用させてはいけない」

「ヒバクシャを知っていますか」ー。長崎の被爆者や被爆2世らが今月、アメリカで核兵器に頼らない平和の実現に向け、対話を重ねました。

聴講者「初めて被爆者の話を聞いた。とても素晴らしかった。世界中が多くの紛争や対立に直面するなか、対話はとても重要」

核兵器の使用が脅かされ、世界で平和が揺らぐ中、メンバーの被爆者3人は全員80代、“最後”かもしれないとの覚悟で臨んだ旅でした。

□核抑止論を肯定

11月6日、長崎を出発した代表団のメンバー。向かった地・アメリカは78年前、広島と長崎に原爆を投下した国です。

アメリカ人「(核抑止の考え方は)75年間機能してきた。ある意味では必要悪だ」
アメリカ人学生「自分たちを核攻撃から守るには核兵器が必要だと教わってきた」

世界には今なおおよそ1万2000発の核兵器が存在。このうち、およそ4割にあたる5000発あまりを持ち続けるロシアに継ぐ“核大国”でもあります。

□「最後の力を振り絞って」

証言ツアーの団長を務める医師で被爆者の朝長 万左男さん(80)。これまでに多くの国際会議で、政府代表らを前に核兵器廃絶を訴えてきました。

しかし、朝長さんは「取材は9割方日本の マスコミ。 現実を見ると世界の市民、 核 兵器国の市民には十分伝わっていないのでは」と考え、政府の考え方を変えるには市民に直接、思いを届ける必要があると立ち上がりました。「我々はもう80歳以上。あと5 年、10年でいなくなるから。 もう一回被爆者が最後の力を振 り絞ってやらないといけない」

□知るのはいいこと

現地で活動したのは被爆者3人と、被爆2世・3世らあわせて10人。アメリカの知人の協力も得て、一つ屋根の下で寝泊りしながら、▽ノースカロライナ州のローリー、▽イリノイ州のシカゴ、▽西海岸、オレゴン州のポートランドの3つの都市を2週間かけて訪問。講演や集会はおよそ20回にのぼりました。

朝長さんが訴えのは、原爆の後遺症について。自身の研究の成果を交えながら、白血病、がんの発症など原爆放射線による人体への影響、そして、心の傷が生涯にわたって続くことを訴えました。

朝長 万左男さん「多くの被爆者は生涯続くおそろしい原爆の影響を経験してきた」

聴衆のほとんどは、初めて、被爆者から直接話を聞きました。

「アメリカの教育では、被爆の影 響はあまり強調されない。だから話を聞けて本当に良かった」
(学生)
「最初は悲しくなりたくなかったので来ることに慎重だった。でも、知ることはいいこと。見て見ぬふりをして、なかったことにしてはいけない。現実に起きていることだから」(学生)

□紙芝居で伝える

メンバーの1人、被爆者の三田村 静子さん(81)が披露したのはスクリーンによる紙芝居です。

「『世界にこれを訴えたらいいよ』と言われて。紙芝居は知らない人でも伝わる」。去年8月、広島市を訪れた際、国連のグテーレス事務総長から後押しされ、アメリカ行きを決意しました。

「もうこれが最後の機会じゃないかと。長崎の被爆者の1人として伝えなくちゃと思った」
各地で伝えたのは、自身の被爆体験やがんとの闘病、娘の美和さんを39歳という若さで失った悲しみ。
そして戦争も核兵器もない世界の実現への願いです。

「私たちが受けた苦しみだけはどこの国にも絶対に味わせたくない。私は世界中から戦争と核兵器がなくなるまで諦めない」

語りかけたのは日本語ですが、思いは確かに届いていました。

□5度目の飛行機移動

2都市目のシカゴをたつ朝。

朝長万左男さん「(シカゴは)計画通りに終わった。ほっとした。今全体の3分の2が終わったところ」

この旅5回目の飛行機移動。着いた最後の都市はポートランドです。

□「アメリカは核廃絶の責任」

「私たちの子どもや孫たちのため に核兵器のない世界の実現を願 う」
立ち見も出た大学のホールでの講演。最年長メンバーの被爆者、宮田 隆さん(84)は、英語で訴えました。

そして、朝長さんはあるメッセージを伝えました。
「核兵器に頼らない世界平和が実現できるかは、アメリカに大きくかかっている。核時代の扉を開け、長く維持してきた責任として、アメリカは核兵器を放棄しなければいけない。若いアメリカの人たちへの私からの問いかけです」

「核兵器廃絶を現実のものに」被爆者の悲願を実現するために避けては通れない課題を核大国アメリカの若者たちに示しました。

学生「アメリカは非核化を進める大きな責任があると思う。それはとても困難で複雑なこと かもしれないが、私たちは実現 できることを心から願っている。 アメリカが立ち向かうことがで きれば、世界は変わる」