"バズり"成功で自社をPR 指先一つで自社と世界をつなぐ SNSの『中の人』に密着
SNSで多くの反響を得る「バズる」。山陰から企業情報を発信し、見事バズらせることに成功したSNSの担当者、いわゆる「中の人」を取材しました。
SNSに投稿された愛らしいアヒル。そして、びっしり文字が詰められたハンコ。「いいね」の数はどれも10万超えです。これらは全て山陰にある企業のSNS投稿です。全世界から注目を集めた投稿の仕掛け人、通称『SNSの中の人』の想いに迫ります。
■「やすもと醤油」
まず訪れたのは島根県松江市にある「やすもと醤油」。創業は明治18年の老舗醤油店です。現れたのは、何やら怪しい「や」のパネルを掲げた男性。受け取った名刺には、「1日でフォロワー1000倍」の文字が。この男性が「やすもと醤油」の公式X担当の中の人です。
4年前にアカウントを開設した当初、5人しかフォロワーがいなかった、やすもと醤油。そこから何とか40人にまでフォロワーを増やし上司に褒められたことを投稿しました。するとー。
公式X 投稿文
「うちのアカウントを見た上司と同僚がフォロワーが40人もいて、いいねもたくさんついててめっちゃバズってるじゃん!と言っていました」
そのポジティブでゆるい内容が見事にバズり、フォロワー数が激増、日付が変わるころにはなんと1000倍の4万人に!いいねも16万を超えました。
公式X担当者
「注文数がとんでもないことになってしまって。いつもは一日1、2件ぐらいのオンラインの注文なんですけどそれが一日に500件以上の注文が来ていて、何が起きてるんだ!?という風に(社内が)ざわざわし始めて。社長からよくやったな!という感じで肩をたたかれたのは覚えていますね」
販売も大きくバズりましたが、ここで気になるのが現在の状況です。
公式X担当者
「バズってから3年経っているんですけど、バズった時よりも注文数はたくさんいただいている状況で。バズろうと思ってやったものではないので、周りの皆さまのお力のおかげかなと思っています。ただ始めなければ、こういうことは起きなかったなと思っているので、思い切ってSNSを始めたというところは本当によかったなと思っています」
■花と鳥の楽園「松江フォーゲルパーク」
続いて訪れたのは島根県松江市にある花と鳥の楽園「松江フォーゲルパーク」。
「動かない鳥」として知られる「ハシビロコウ」の前で写真を撮り続けている人が。
SNS担当 山田篤さん
「数分で取れる時もあれば結構粘って1時間近くとか粘ることもあります」
こちらが「松江フォーゲルパーク」公式Xの中の人、山田篤さん。かわいらしい鳥たちの写真をおちゃめな文章と共にアップ。多い時では16万いいねがつくなど多くのファンを獲得し、定期的にバズっているんです。この日もSNSを見て訪れたお客さんの姿が。
客
「フォロー中です!いつもフドウくん(ハシビロコウ)の画像を見て癒されています。いつも楽しくリツイート(リポスト)もして、めちゃめちゃ見てます。毎日の活力ですね。いつも素敵な情報ありがとうございます」
山田さんがSNSに投稿するまでを密着することに。この日、投稿する写真のお目当てはー。
山田さん
「ネタを言っちゃうと、“ハッピーバレンタインコ”というやつを撮りたいかなと」
取材日は2月14日。バレンタインデーにちなんだ投稿をするため、ピンク色のインコの前でシャッターを切ります。
山田さん
「欲を言えばもうちょっと伸びをしたり表情とか・・・」
そして粘ること30分。事務所に戻ると、写真の選別が始まります。100枚以上撮った写真から選ばれるのは1枚だけです。
Q.ネタ帳があるんですね
山田さん
「一応ひらめいたワードは記録しておいて何かに使えないかなととっていますね」
悩んだ末に投稿されたのがこちら。
投稿文
『ハッピーバレンタインコ!・・いや、オウムですけど』
いいねの数は2月14日の夜の時点で1300件。まずまずの反響です。松江フォーゲルパークが公式SNSを毎日更新し始めたのは6年前。その後、コロナ禍で休園していた時にも毎日投稿を続けたといいます。
山田さん
「コロナ禍の時は、余計に見ていただいている『いいね』の数とか見ると反応がありました。お客さまが来て見ていただくことができないので、その時期にいろいろ発信していこうかなと思って結構楽しんでいただけたのかなと思います」
かわいい鳥たちを見て元気になってほしい、そんな思いで投稿を続けた山田さん。コロナ禍が明けて施設を再開した時、SNSを見て訪れたお客さんが多くいたといいます。
Q.かわいい投稿を思いつくのはなぜですか?
山田さん
「そうですね、たぶん僕の中身がかわいいからだと思います」
かわいい鳥たちと、かわいい中の人。そのふたつが起こす“化学反応”に今後も注目です。
■ハンコ製造販売「永江印祥堂」
~永江印祥堂の公式Xの投稿~
「すごいの彫れた」
この一言とともに投稿されたのは、直径12ミリの円の中に87文字が掘られたハンコ。1文字の大きさは1ミリ以下という精密さです。この技術が反響を呼び、ついた「いいね」は21万。ほかにも落語「寿限無」の名前がすべて彫られたハンコや、円周率160桁が彫られたハンコなど。定期的にあっと驚くハンコを投稿しバズっているのは、島根県松江市にあるハンコの製造販売業「永江印祥堂」。
投稿したのはこちらの女性社員、公式アカウントの中の人です。脱ハンコの影響とコロナ禍により、売り上げが伸び悩んでいた永江印祥堂。そんな状況を打破し、ネットショップへ誘導するために始めたのがSNSの投稿でした。
中の人
「職人の技術にすごく自信があったのである程度は注目してもらえるだろうなとは思っていたんですけど、本当にすごい反応でバズり過ぎててびっくりして『いいね』の数が増えていくごとに私の手の震えが止まらない、みたいな・・・」
この投稿がバズったことで、オンラインショップの売り上げは3.5倍になりました。
中の人
「職人も私も褒められましたしちゃんと金一封いただきました」
このハンコを作ったのは職人歴、約20年の村尾直樹さん。中の人のアイデアを村尾さんが形にします。しかし、2人の意見が割れることもあるといいます。
中の人
「意味が分からないって言われます。私のアイデアが突拍子もなさ過ぎてまるで意味が分からないって」
村尾さん
「"絶対押せないハンコ"を作ってくれとか言われる」
中の人
「面白いじゃないですか」
村尾さん
「意味が分からない」
こうした2人の価値観が一致した末に生まれたのが、前代未聞のバズりをもたらしたハンコたちだといいます。
記者
「名コンビですね」
中の人
「迷う方の『迷コンビ』かもしれない」
「意味のないものこそが面白いものじゃないかなと思っていて。寿限無のハンコにしても、円周率のハンコにしても、やっぱりそういう無駄なもの、意味のわからないものこそエンタメだと思っていて」
エンタメ要素の強いハンコの売れ行きは、まずまず。しかし、そこで示した技術力は、意味のないものではありませんでした。
中の人
「『あのハンコを見たからこそ自分の大切なハンコはここで絶対お願いしようと思って今回やっと作ります』という声もあったりするので」
全世界に情報を発信できるSNS。山陰の企業から世界中の人に自社の魅力を伝えるため、きょうも「中の人」は指先一つで縁をつないでいきます。