「稼げるお仕事興味ないですか?」闇バイト“受け子”の男(49歳)が裁判で語った心境と反省
11月27日、松山地方裁判所の法廷に立った49歳の男。男が手を染めたのは、犯罪行為を通じて報酬を受け取るアルバイト、いわゆる‟闇バイト”だった―。
■犯した過ち
ことし9月、男は証券会社の社員を装い松山市内の70代の女性に電話をかけるなどし、共犯者らとともに現金800万円をだまし取った疑いで警視庁の特殊詐欺連合捜査班(通称TAIT)と愛媛県警の合同捜査によって逮捕(その後不起訴)された。
さらにその20日後には、岐阜県内に住む78歳の女性からも同様の手口で現金300万円をだまし取ったとして再逮捕される。
男はこの再逮捕された事件で10月に詐欺の罪で起訴され、この日初公判を迎えた。裁判では‟闇バイト”のリアルな実態、さらにそれに手を染めた男の心境がつぶさに語られた。
■迎えた初公判
「間違いありません」
裁判の冒頭、検察官が起訴状を読み上げたあと、裁判官にその内容が正しいかどうかを尋ねられた男は淡々とした口調でこう答えた。
その後の冒頭陳述では検察側、弁護側双方の主張が述べられる。
■きっかけは「インスタグラム」
ことし2月中旬。男はインスタグラムで知り合ったAから「稼げるお仕事興味ないですか?」などというメッセージを受け取った。興味を持った男。やり取りは途中から、Aが使用している匿名性の高いメッセージアプリ「シグナル」を通じて行うようになる。
そして7月上旬、報酬3万円の約束でAからの誘いに乗ったのであった。内容は、宅配業者から届いた荷物を自宅で受け取り車で運搬、道路脇のガードレールに取り付けられた黒色のごみ袋の中に入れるというものだった。
荷物の受け渡し方法から男は、‟特殊詐欺のような仕事ではないのか”。薄々勘づいてはいたものの、‟闇バイト”から抜け出せなくなっていく…
■逮捕された事件
男が逮捕されたのも似たような手口の事件だった。7月下旬、男は自身のインスタグラムのプロフィール欄に記載していた「即日即金で稼げる案件紹介しております」などという内容を見て連絡をしてきたBとメッセージをやり取りするようになり、男はBに荷物を受け取る仕事を紹介した。男自らリクルーター役も務めたのだ。
そして、8月1日、指示役のAから男に依頼が届く。内容は「Bの自宅に荷物を回収に行き別の場所に運ぶ仕事」というものだった。男はこれを引き受けた。
2日後の8月3日、車でBの自宅マンションに向かい、配達員からBが荷物を受け取ったことを確認してから玄関の外に置かれた荷物を回収した。
Aから指示を受け確認すると、中身は現金だった。男はこの時点で、かねてから「特殊詐欺ではないか…」と疑っていた自身の考えに確証を持ったという。後に引けなくなった男はそのまま公園まで現金を運び、Bの報酬である2万円と自身への報酬である3万円のあわせて5万円を受け取った。
■やめられなかった理由
「闇金への返済に必死になっていた。お金に困っていた」
夫でもあり、父でもあった男が‟闇バイト”に手を染めた動機である。
もともと東京で建設作業員として働いていた男の歯車が狂い始めたのは25歳の頃。仕事を退職したことにより、子育てにかかる養育費や自身の手術費用などがかさみ、借金が増えていったという。
自己破産も経験し、とうとう消費者金融からの借り入れが難しくなった男が手を出したのが、‟闇金”だった。男は生活費や借金返済に充てるお金欲しさから、闇バイトに手を染めることになるのである。
男は被告人質問で「被害者に大変申し訳なく思っています。今後は二度とこのような犯罪行為を行いません。二度と借金をしないように仕事をしていきたい」と反省の弁を述べた。
■「刑事責任は重い」
12月18日、迎えた判決。
「被告人を懲役2年に処する」
落ち着いた様子で裁判官の話を聞く男に科せられたのは実刑判決だった。これまでの公判で、検察側は「犯行態様は卑劣で悪質」として懲役3年6か月を求刑。弁護側は被害弁償の意欲があるなどとして執行猶予付きの判決を求めていた。
主文を読み上げたあと、松山地裁の高場理恵裁判官は、
・本件犯行に必要不可欠で主体的な立場にあった
・過去に罰金刑を受けていて犯罪に対する自身の考え方を改める機会を与えられながら、懲りることなく本件犯行に及んだなどと指摘した。
そして「被告人の刑事責任は重い」とした。
■闇バイト応募者らの保護 警察も動く
「勇気を持って抜け出してすぐに警察に相談をしてください。警察は相談を受けたあなたやあなたのご家族を確実に保護します」
今年10月、警察庁の阿波拓洋生活安全企画課長が、脅されて犯罪に加担しようとする人に向けた異例の呼びかけ動画をSNSで配信。同時に全国の警察に対し、相談してきた人や家族を保護するよう指示した。
これを受け、愛媛県警でも県内16警察署と本部の全所属に対し、再度、“闇バイト”応募に関する相談者の警察保護の周知徹底を指示した。
県警生活安全企画課によると、相談を受けた際には、犯罪グループから危害を加えられないための対策を助言・指示するとしていて、「闇バイトに応募してしまった場合は家族を含めて安全対策を講じるため犯罪に関わる前に早く警察に相談してほしい」と強く呼びかけている。
うまい話には裏がある。金に目がくらみ、知らぬうちに犯罪に加担してしまわないようひとりひとりの注意が必要だ。