【リニア】着工の目途が立たない静岡工区…現場の “今” に迫る~南アルプスの工事現場をカメラ取材(静岡県)
当初予定していた2027年の東京~名古屋間開業が遅れる見通しのリニア中央新幹線。その要因は大井川の水問題や南アルプスの環境問題で、静岡工区の着工の目途が立っていないことにあります。10月28日、JR東海の案内のもと、静岡市北部にある工事現場にカメラが入りました。
28日の午前4時、取材班は静岡市内を出発して、リニア新幹線の工事現場へ。ひたすら山道を進み続けます。出発から4時間後、JR東海が用意したバスに乗り換え一般車の立ち入りが制限されるゲートをくぐり、ようやく工事現場の中へ。品川-名古屋間の全長286㎞の内、約9割をトンネルが占めるリニア新幹線。
そのうち、着工の目途が立たない静岡工区の区間は、約8.9㎞で、静岡市北部の南アルプスにある標高1500mほどの山の中でトンネル工事が行われます。まず、案内されたのは「ツバクロ」とよばれるトンネル工事で出た土を置く発生土置き場です。
(記者)
「こちらがツバクロ発生土置き場です。この広大な土地に工事で出た土の大半を置く計画です」
JR東海は、この土地に人工林を伐採した上で、東京ドーム3個分とも言われる発生土の大半を置く計画です。
しかし県は、ツバクロの上流にある千枚岳で、深層崩壊の恐れがあり、土石流が発生すると、ツバクロの盛り土を侵食し、下流域に影響を及ぼすリスクがあるとして、難色を示しています。
一方、JR東海は、その安全性を強調します。
(JR担当者)
「排水溝を設置することによって水を適切に排水する。それにより盛り土が健全に維持される。JR東海が将来にわたって責任を持って維持管理を行う」
この他にもJR東海は、工事で出た土について、自然由来の重金属を含む「要対策土」を置く「藤島」など、6か所に置き場を分けて盛り土する計画です。
報道陣を乗せたバスは、さらに大井川の上流部へ。すると、その道中で気付いたことが…。
(記者)
「次の目的地に向かっているのですが、山奥にも関わらず、道は綺麗に整備されています」
JR東海は、トンネル工事のため、ほとんどが砂利道だった林道東俣線の27㎞を約80億円かけて整備。その8割で舗装工事が終了しています。また工事に向けた準備は、これ以外にも。
(記者)
「こちらはヤードと呼ばれる、いわゆる工事の拠点となる場所です。こちらには工事関係者の宿舎が8棟建てられていますが、現在は使われていないということです」
こちらの宿舎は、2018年に建てられましたが、これまでほとんど使われたことがないといいます。
そして取材班は、着工に向けて、大きなカギを握る2つの場所へ。その1つが、希少生物が生息するこちらの沢です。
(記者)
「こちらがスリバチ沢。環境を守る上で重要な沢とされていて、ここに住む動植物を守ることも重要な課題となっています」
工事をめぐり、大きな懸念の1つが環境への影響です。JR東海は沢に生息する水生生物を守るため、重要な沢を11か所選んでいて、スリバチ沢もその1つとなっています。また工事現場一帯は、南アルプスユネスコエコパークに認定されるなど、希少な動植物が多く生息する場所で、この豊かな環境を守る方策を示すことができるのかが、大きな焦点になっているのです。
そして、最後に訪れたのはJR静岡駅から約100キロ。今回の取材では最上流部にあるこの施設…。
(記者)
「こちらが田代ダム。大井川の水問題解決に向けて、重要なカギを握っています」
(JR担当者)
「この田代ダムは、大井川の水をそのまま流下させるのと、こちらの田代調整池に分ける役割がある」
大井川の水量減少が懸念されている問題で、JR東海が解決策として提示しているのが、トンネル工事の一定期間「田代ダム」の取水を抑制して、大井川の水量を確保する案です。
この田代ダム案をめぐっては、先日、JR東海はダムを管理する東京電力との協議で実施可能な案がまとまったと発表。現在は、県や利水関係者に了解を求めている段階です。水問題解決に向け、道筋が見えたかたちとなりましたが、JR東海は…。
(JR東海 静岡工事事務所 永長 隆昭 所長)
「早く県や利水関係者が考えていることをまとめていただいて、それをもとに東京電力と話がまとまる環境を整えることができたら」
国や県で議論されている南アルプスの現状を間近で見ることができた今回の取材。様々な問題が解決し、この工事現場が動き始めるのは、いつになるのでしょうか。