第二のOSO18出現か 命がけでクマと対峙 ハンター報酬“安すぎ” 自治体と衝突も 北海道
北海道別海町の牧場で子牛4頭が死んでいるのが見つかり、クマに襲われたとみられています。
一方、奈井江町では地元の猟友会が、報酬の低さなどを理由にクマの出没時に対応できないと町に伝えたことがわかりました。
クマへの警戒が強まる中、地元に不安が広がっています。
(武田記者)「クマに襲われたとみられる牛は、あちらの牛舎で引っかかれたり食いちぎられたような跡がある状態で見つかりました」
(なかしゅんべつ未来牧場 友貞義照専務)「4頭が即死で4頭が瀕死状態だったので、了解を得て殺処分しました」
北海道東部の別海町・中春別の牧場で21日、牛舎飼育されていた子牛あわせて8頭がクマに襲われる被害がありました。
付近には17センチほどのクマの足跡が複数残っていたといいます。
(なかしゅんべつ未来牧場 友貞義照専務)「噛んで柔らかいところをえぐった痕跡があった。初めての経験で衝撃的。まさかと思った。牛をハッチから引きずっているので大きいクマなのかなと」
別海町の隣町・標茶町と厚岸町では、去年まで1頭のクマによる牛の被害が相次いでいました。
それは、OSO18です。
去年までに少なくとも66頭の乳牛を襲い、道東を震撼させたオスのクマです。
去年7月に駆除されましたが、OSOが襲った牛の残がいを別のクマが食べに来ていたことなどから、地元では「第二のOSO18」の出現が懸念されていました。
「OSOは氷山の一角」牛の味をしめたクマ
OSOの追跡を続けていた標茶町のハンター・後藤勲さんです。
(ハンター 後藤勲さん)「牛の味を覚えているクマがいれば、そういうところに(再び)入って来る確率は高いと思う」
今回、その懸念が現実のものとなりました。
(武田記者)「関係者によりますと、子牛が襲われる9日ほど前、別海町の防風林のあたりでシカのような動物を食べるクマが目撃されています」
別海町では4月以降、クマの目撃が12件と相次いでいます。
子牛が襲われた翌日も、牧場から3キロほど離れた場所でクマ1頭が目撃されました。
別海町の酪農家は警戒を強めています。
(別海町の酪農家)「ショックですよね。今までもクマがその辺に出ていることは聞いていたが、実際牛が襲われるとなると、建物の中に入ってきたっていうのは。実際に牛を襲うとなると、今後も味をしめると危ないから、早く駆除しないと」
ハンターの後藤さんは、今回の襲撃にはOSOと異なる点があるといいます。
(ハンター 後藤勲さん)「1頭のクマで何頭もやるとは限らないが、2~3頭の群れで来て、若いクマが襲ったと考える。(OSOは)氷山の一角で、それ以上のクマはまだいる。そろそろ放牧をする時期なので、私はいつまた襲われるのかと思っていた。今までは5月頃までにウロウロ巣から出るが、ことしは暖かかったので早く巣から出たのだろうと。そうすると行動範囲が広くなり、今回のような形になったのでは」
OSO18の駆除からわずか10か月…。
牛を襲う新たなクマの出現かと不安が広がっています。
クマへの警戒が続くなか、新たな問題が発生しました。
空知の奈井江町では、地元の猟友会が報酬の低さなどを理由に、クマの出没時に対応できないと町に伝えたことがわかりました。
(北海道猟友会砂川支部 奈井江部会 山岸辰人部会長)「突然呼ばれて契約書出して、これでやってくれ、サインしてって。おかしくないですかって。それでは無理だよと、中途半端でいい加減ならできないと、クマとなれば命がけでやるんだから」
奈井江町の猟友会のトップ・山岸辰人さんです。
町の駆除対策チームに参加しない方針を示しました。
事前のすり合わせなどなく、チームへの参加を呼びかけられたと話します。
関係者などによりますと、奈井江町は4月、猟友会に対し、クマが目撃された時に現場に駆け付け対応する「鳥獣被害対策実施隊」への参加を要請しました。
町が提示した報酬は日当8500円、発砲した場合は1800円を増額するというものでした。
これに対し、猟友会は値上げを要望するなど交渉しましたが、その後、人員体制の問題で対策チームへの参加を辞退すると決めたのです。
(北海道猟友会砂川支部 奈井江部会 山岸辰人部会長)「報酬安すぎない?と。この報酬を見て町の姿勢がわかるよねと。山の中はクマの縄張り。極端な話、その中で命のやりとりをするわけ。実情はもっと過酷」
こうした状況に町民は…
(町民男性)「大変不安に思います。家か50メートルの範囲内でクマが何回も出ていますので、いざとなったときに猟友会の方が出動されないというのは大変不安ですね」
その中、27日朝、奈井江町の三本英司町長は取材に応じ、報酬額について再検討する考えを示しました。
(三本英司町長)「協議してそれにふさわしい値段というか料金、それを決めていきたい」
三本町長はクマの駆除で出動した場合の報酬について、増額を見据えて猟友会砂川支部の奈井江部会と協議すると話しました。
しかし猟友会は「報酬以前の問題であり、互いの信頼関係が築けない。そんなところで命は張れない」と、断る意向を示しました。
道内ではこれまでにもハンターへの報酬を巡り、自治体と猟友会が衝突したケースがありました。
(礒貝記者)「午後11時40分。あそこの住宅の前、クマが右に向かって動いています」
後志の島牧村では2018年7月から9月にかけ、住宅街へのクマの出没が相次ぎました。
民家の庭に設置された生ごみ用のコンポストを狙い、連日のようにクマが現れたのです。
猟友会のハンターが爆竹を鳴らし、追い払おうとしますが…
(猟友会)「鳴らしても逃げるふりないわ」
住宅街のため発砲することが出来ず、猟友会のハンターの出動は長期に渡りました。
積み重なった報酬は1000万円を超え、村議会は高額すぎると上限を設ける条例を可決しました。
これに反発した猟友会は村への協力をやめたのです。
(島牧猟友会事務局 花田雄二さん)「金額的には低すぎます。私たちの命もかかっていますし、その中で出動していくわけですから。単価としてはちょっと低すぎます」
その後、クマ対策について村への苦情などが相次ぎ、上限は撤廃されることに。
猟友会は協力を再開し、報酬は毎年見直しをかけて設定されることとなりました。
今年度は8時間の出動で26900円が支払われます。
(島牧猟友会事務局 花田雄二さん)「各市町村ごとじゃなくて、国だとか道だとかそういうところが主導して基準を作っていかないと地域格差が広がる。それは住民に対してはマイナスでしかない」
北海道民にとって他人事ではないクマ対策。
住んでいる自治体によっていざというときの対応が異なっているのが現状です。
今回、問題となっている奈井江町では日当8500円、発砲した際は手当として1800円が加算され最大1万300円。
札幌市は、出没情報を受けて出動した場合、半日で2万5300円、発砲・捕獲を伴う場合は3万6300円と設定。
島牧村では、一般的なクマ出動の場合、8時間で2万6900円、捕獲した場合1頭10万円の手当がつきます。
そして去年、朱鞠内湖でクマによる人身事故が起きた幌加内町では、今年から日当1万5000円に増額しました。
全国的にハンターの成り手不足が叫ばれる中、奈井江町の猟友会が自治体の姿勢に一石を投じました。
ただ、人間側の事情を野生動物は考慮してはくれません。
一刻も早い対策が求められます。