子どもの命を守る“最後の砦” 小児集中治療室「PICU」に密着 広い北海道に唯一の施設
北海道にたったひとつしかない医療施設「PICU」
子どものための集中治療室です。
命の危機にある子どもが北海道各地から運ばれてきますが、搬送が長距離に及ぶなど課題も抱えています。
北海道の子どもの命を救う“最後の砦”に密着しました。
広い北海道に唯一の「PICU」小児集中治療室
「バイタル落ち着いているのでCTを撮ってから来ます」
「いけそうですか、いけます?じゃあ呼吸器一回外します」
「出血は(病院に)来たときからあったんですけど、どのタイミングから出ていたかははっきりしなくて明らかな外傷はなし」
札幌にある北海道立子ども総合医療・療育センターのPICU・小児集中治療室です。
この日の子どもは、道内の地方都市から札幌まで救急搬送されてきました。
PICUは道内でここだけだからです。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「全身管理が必要な状況なので、集中治療をと依頼を受けました。小児の事案なので大人のICUよりは子どものPICUでという選択をしていただいた」
子ども用の医療器具 将来の成育も見据えて治療
小児集中治療の専門医・市坂有基さんです。
全国のPICUを渡り歩き、3年前に札幌へやってきました。
PICUで使用する医療設備は、大人の集中治療と同じもの。
ただし、患者の体の大きさが全く違います。
(小児集中治療科 若林知宏医師)「では抜管しますか」
生後6か月の女の子から取り外されたチューブ。
人工呼吸器につながっていました。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「挿管チューブという口から気管を通して肺まで届くチューブですけど、大人用のものと(子ども用は)このくらい差があります」
PICU以外の集中治療の施設では、子ども用の医療器具の準備がないというケースもあるといいます。
点滴ひとつとっても、細心の注意を払いながらの治療です。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「重症の治療をするということではICUと大きく変わりはないけども、相手が子どもということで、いま重症な部分を抜け出すだけではなくて、今後の将来の成育も見据えて治療を進めていくことができる場所がPICUなのかなと感じています」
命の危機にある患者を24時間体制で治療する「集中治療」。
PICU全国に36か所 北海道は札幌に1か所のみ
代表的なのはICU、新生児のためのNICUなど、患者の年齢によって区分されています。
PICUは新生児から子どもが対象の「小児集中治療室」。
ただ、全国に36か所しかなく、北海道には札幌の1か所のみ。
歴史も浅く、その整備は十分とは言えません。
函館からヘリコプターで緊急搬送 心臓の一部が小さい難病
坂見優歌ちゃんも函館から札幌のPICUに運ばれてきた男の子です。
4人兄弟の末っ子として生まれましたが、心臓の一部が小さい左心低形成症候群という指定難病が見つかりました。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「生まれてから心臓の生まれつきの病気が見つかって、地元の近隣の病院では手術をする施設がないということで、ヘリコプターで緊急搬送になっています。検査でどのような心臓の病気なのか正確な判断を付けたうえで翌日手術をしています。ちょっと起きていますね」
手術から15日。
(看護師)「見えますか?顔」
(優歌ちゃんの両親)「見えます」
(看護師)「声しっかり聞こえているみたいで反応しますね。話しかけてあげたら目を開けるかも。優歌くん」
画面越しでもわかる優歌ちゃんの成長。
両親もひと安心です。
札幌のPICUは3人の小児集中治療の専門医を中心に、24時間体制で患者を見守り続けています。
つかの間の休憩時間に、同僚の心臓の専門医がこんな本音をー
(小児心臓血管外科 浅井英嗣医師)「市坂はバランスがいいですね。例えば1人の患者さんがいて、心臓が悪くてかつ呼吸の気道が悪いとなると、俺たち(心臓血管外科医)は心臓のことしか考えていないから耳鼻科と調整してくれて。患者さんに一番いいマネジメントをトータルで見れるのが集中治療医」
子ども60万人に対しわずか6床 “かなり異常な状態”
年間250人が札幌のPICUで治療を受けますが、同時に受け入れられる子どもは、たった6人です。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「一般の病棟と比べると看護師さんの人数が多いと思うけど、いまの状況だとギリギリで回っている状況」
これまで全国のPICUで子どもの命と向き合ってきた市坂さんは、北海道ならではの課題を訴えます。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「北海道という土地がものすごく広い敷地を持っていて、国土の22%、8万4000平方キロメートルを1つの施設でカバーするという、他から見るとかなり異常な状態ではあります」
子どもの人口60万人に対して、PICUのベッド数はわずか6床。
これが、いまの北海道の小児集中治療、最大の課題です。
広大なエリアの小児医療 子どもの命を守る“最後の砦”
函館から搬送された坂見優歌ちゃんのお父さんと二人のお兄ちゃんが見舞いに訪れました。
今回はおばあちゃんの政美さんも一緒。
政美さんは初めての面会です。
(祖母・政美さん)「ちっちゃかったですね。子どもたちの医療を守ってくれる、そういう人たちがいることに感謝したいと思っています」
(父・慶明さん)「目は開いたり手が動いたりしていたので少し安心しました。函館で手術できないということだったので、札幌に(PICUが)なかったら本州ってことになる。札幌に病院があるだけですごく心強い」
すでに2回の手術を乗り越え、少しずつ体力をつけている優歌ちゃん。
次の手術に向けて体重を増やすため、いまも頑張っています。
(小児集中治療科 市坂有基医師)「PICUの中で手術をすることは基本的にはなくて、手術をして繋いでもらった命を元気にお家に帰るまでの間の期間過ごす場所。ここのPICUで治療したことが嫌な記憶じゃなくていい記憶として、本人だけじゃなくてご家族にとってもいい記憶として残るような医療看護を提供できればいいなと思っています」
広大なエリアの小児医療。
さまざまなな課題を抱えながらも子どもの命を守る「最後の砦」は、きょうもフル稼働です。