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【特集】コンセプトは「音を必要としないカフェ」 マスターは耳が不自由な38歳の男性 “やりたいことを諦めない” 幼少時から抱えていた“生きづらさ”乗り越え #令和に働く  

2024年12月28日 11:15
【特集】コンセプトは「音を必要としないカフェ」 マスターは耳が不自由な38歳の男性 “やりたいことを諦めない” 幼少時から抱えていた“生きづらさ”乗り越え #令和に働く  

新潟県長岡市に耳の聞こえないマスターが営むカフェがあります。

コンセプトは音を必要としないカフェ。
どのようなカフェで、そして店に込められた思いとは……。

音のない世界で生きる 「音で判断する世界、それは聞こえる人の世界」

信号機の音や救急車のサイレン……
夏を知らせる祭りばやしのかけ声……

街中にあふれる日常生活になくてはならない音……音のない世界で生きる人たちがいます。

長岡市に住む倉又司さん38歳。
生まれた時から聴覚に障害があり耳が聞こえません。

倉又司さん
「音で判断する世界、それは聞こえる人の世界だと思います。私は生まれた時から、耳が聞こえないため、聞こえることがどういうことなのか私は分かりません」

幼いころから抱えていた"生きづらさ" 生まれた時から聴覚に障害 

小さい時から生きづらさを感じていたといいます。
地元の公立小学校に進学するも、周りにいるのは耳が聞こえる同級生でした。

倉又司さん
「友達との会話もできない、担任の先生の話も分かりませんでした。勉強もついていけず小学5、6年生から家に引きこもっていました」

『なんで自分は聞こえないんだ』『どうして聞こえない子どもに生まれたのか』

子どもの時、そう考え孤独を感じることもありました。

注文は指さし、もしくは手話で

長岡市にあるカフェ「NOBI by SUZUKICOFFEE」。
自慢は苦みと酸味のバランスの良い香り豊かなブレンドコーヒー。

訪れた客
「後味、香りが全然いつものコーヒーと違います。おいしいね」

カフェを営むのは、あの倉又さん。店に入ると手話と優しい笑顔で出迎えてくれます。倉又さんはジェスチャーを交え、支払い方法を確認します。

倉又司さん(手話で) 
「会計は別々?」

グループで訪れた客
「別々!(ジェスチャーをしながら)」
    
カウンターには多くの写真を使ったメニュー表と注文票。
注文は指さし、もしくは手話で行います。ドアが開く音、人の足音、そしてお客さんの声を倉又さんは聞くことができません。そのため……

鈴木コーヒー  伊丹あき子さん
「お客様が来店したとき、座っている方が用があるとき、耳が聞こえない倉又さんはどうしても気付くことはできません。店内に大きく全体に鏡を貼ることで、作業に集中していても視覚的に気付けるようにしています」

そして、もう一つの特徴。店内に音楽は流れていません。そのためゆったりとした時間が流れます。

訪れた客
「このカフェは音がなく、それが私にはすごく良い空間で、また来たいなと思って。普通のカフェは、しゃべり声とか音楽があるじゃないですか。それがなくていいなと思って」

コンセプトは“音を必要としないカフェ”。

オープンを決めたのは自分のような聴覚障害者が抱く生きづらさがきっかけでした。

聴覚障害者が抱く生きづらさ

地元の小学校を卒業後、ろう学校に入った倉又さん。そこで手話と出会い、ろう学校卒業後は半導体メーカーや、ろう学校の指導員として働いてきました。

しかし耳が聞こえない自分と、聞こえる周りの人。この環境で働くことは苦労の連続でした。

倉又司さん
「コミュニケーションがなかなか取れなくてやはり苦しい思いをしました。心を豊かにするはずのコミュニケーションが私の場合は苦しいばかりでした」

倉又さんが抱えていたのは、「聞こえることが前提に成り立つ社会での生きづらさ」。

見たい映画があっても、字幕がないと見られない。店員に話しかけられても、何を話しているか分からない。耳が聞こえないことで、やりたいことを諦める毎日でした。

その悩みは多くの聴覚障害者が抱えています。
生まれつき聴覚に障害がある大島智美さんです。

大島智美さん
「今までの職場では聞こえる人とのコミュニケーションが難しい部分が多かった」

3人に1人が仕事を辞める

障害者の働き方について調査したデータによると入社から1年以内に仕事を辞めた聴覚障害者の割合は3人に1人。
聞こえる人とのコミュニケーションが大きな課題となっています。

「聴覚障害者・ろう者がホッとできるカフェを作りたい」

そこで倉又さんは2022年、コーヒー専門店を営む会社へ一通のメールを送りました。

「聴覚障害者・ろう者がホッとできるカフェを作りたい」

耳が聞こえる人も聞こえない人も居心地よく、障害の有無にかかわらず誰もがくつろげる「サードプレイス」を作りたい。
その思いに賛同したのが県内で10店舗を展開しカフェ開業のノウハウなどを教える講座を開いていたコーヒー専門店・鈴木コーヒーでした。

鈴木コーヒー 佐藤俊輔 社長
「耳が聞こえない中でひたむきに頑張っている彼の姿を見て絶対いろいろなことを感じるはずなんですよ。そんな彼と触れ合って何か感じ取ってくれるだけでも僕は大きな収穫があるんだって思っていますし」

倉又さんの熱意に感銘を受け、佐藤社長は倉又さんと出会った当日にカフェ開業を支援することを決断。
店舗の改装や運営の研修など全面的に支援を受けカフェをオープンしました。

倉又司さん
「”聞こえないから”とあきらめるのではなく聞こえない聞こえる関係なく、誰でものんびりといられる場所を作りました」

耳が聞こえないことを理由にやりたいことを諦めてきた倉又さんが踏み出した一歩でした。

カフェのオープンから半年。大島さんも一緒に働くようになりました。

大島智美さん
「聞こえる人の中で生活するときは、やはりコミュニケーションが取りにくいというのはあったんですけど、ここではそういった悩みを持つこともなく過ごせるのでいいところです」

“手話”という言語で広がる交流と笑顔

カフェのオープンから半年が過ぎ、倉又さんの活動をSNSで知って韓国や台湾など海外から客が来ることも。

この日も次々とお客さんが訪れます。中には手話を勉強する人も……。

訪れた客
「私も手話を勉強し始めてから、手話教室の先生や周りのろうの方と話す機会があったんですけど。それまでは、聴覚障害を持つ方と接する機会がなかったので、こういう場がたくさん増えるといいなと思います」

訪れた客
「手話で会話をしようとすると、手話で返してくれるのでそれがすごく刺激になっています。毎回新しい手話を動画サイトで見て勉強し、このカフェに来て手話が伝わるか挑戦しています。手話が通じたときは喜びを感じます」

Q)きょうはどんな手話を覚えました?
「きょうは”アイス”が寒い(両手を握り脇を締めて立て、ブルブル振るわせ凍える様子を表現)というジェスチャーで、コーヒーは回すジェスチャーなので『アイスコーヒー1つください』と。手話に挑戦して、無事通じてよかったです」

倉又さんが生きる音のない世界。
しかし、そこには手話という言語があり人々を笑顔でつなぎます。

お客さんが帰ろうとしたその時……
 
グループ客
「こうやるのかな(手話を練習)」
「そうだね」
「おいしい!また来ます。ありがとう(手話で)」

声は聞こえなくても、つながることができました。

倉又司さん
「せっかく聞こえない自分なのでその人生を楽しんだ方がいいと思います。手話と日本語2つの言語を私は持っています。手話で多くの人と交流でき、とても楽しいことです。以前は、聞こえない自分を恨むことがありましたが、今は良い人生を送っているなと思っています」

聴覚障害者が抱える社会の生きづらさ。

「誰もがのびのびと暮らせる社会に」

ハンデを乗り越えカフェを開いた倉又さんの願いです。

この記事は、TeNYテレビ新潟とYahoo!ニュースの共同連携企画です。

最終更新日:2024年12月28日 11:16