22日に判決へ 背景に不倫相手への恋愛感情…「身勝手極まりない」 妻子殺害の男に対する求刑は“無期懲役” 裁判員の判断は ≪新潟≫
背景にあったのは不倫相手への恋愛感情……。「身勝手極まりない」と検察が妻子殺害の男に対し求刑したのは“無期懲役”だった。11月22日、新潟地方裁判所で判決を迎える。
ことし10月、2021年に新潟市南区の自宅で妻と当時1歳の娘を殺害したなどの罪で起訴された男の裁判員裁判が新潟地方裁判所で始まった。
裁判で明らかになったのは、男の“身勝手すぎる動機”。そして、殺害の背景にあった“不倫相手との恋愛感情”。11月12日の論告弁論では、検察側が無期懲役を求刑する一方、弁護側は有期刑を求めた。
最終陳述で渡辺被告は声を詰まらせながら「自分のしたことと一生向き合い、数々の後悔と過ちを一生振り返り見つめながらお詫びし続けたい」と謝罪した。
22日に判決が言い渡されるが、裁判員の判断は……。
殺人、殺人未遂、殺人予備、窃盗の4つの罪に問われている新潟市南区の元看護師・渡辺健被告(31)。起訴状によると、渡辺被告は2021年11月、妻と当時1歳だった娘の首をロープで絞め、殺害した罪のほか、妻を殺害しようと、勤務先の病院から塩化カリウム10本を盗んだなどの罪に問われている。
10月29日に行われた初公判。
渡辺被告は、殺人の罪について「間違いありません」と起訴内容を認めた。その後、検察が明らかにしたのは殺害の動機だった。
「不倫相手との関係を続けるにあたり、障害となる妻と娘を排除するためだった」
11月5日に行われた証人尋問。検察側が殺害の動機になったと指摘する、元不倫相手の女性が証言台に立った。女性は時折、言葉を詰まらせながら、渡辺被告との出会いなどについて、か細い声で語った。
2019年4月、女性は当時、渡辺被告が勤めていた病院に就職。半年後に2人の交際が始まったという。渡辺被告は5か月前、妻と婚姻関係を結んだばかりだった。
その後、不倫関係が発覚した。被告の妻は女性に対して慰謝料を請求し、2020年1月、女性は慰謝料50万円を支払うとともに「被告と今後プライベートで会わない。連絡も取らない」などと約束を記した合意書を作成し、不倫関係は終了した。しかし、2人の関係は終わっていなかったのだ。
その後、2020年10月、渡辺被告と妻との間に長女が誕生した。不倫相手の女性も2人の間に子どもが生まれたことを知った。
<証人尋問の主なやりとり>
【検察側】
「子どもが生まれることを知ってどう思った?」
【元不倫相手の女性】
「妻との関係もあるのに、なぜ自分と会い続けるのかと思った」
「やめた方がいいと思ったが、私としては気持ちが続いていた」
その後、2021年2月、元不倫相手の女性が渡辺被告に別れ話を切り出し、2人の不倫関係は再び終了した。しかし3月末、女性の誕生日をきっかけに、三度関係が始まった。8月には渡辺被告と妻、娘で新居での生活がスタート。入居日前日、不倫相手の女性は渡辺被告にこう伝えた。
【元不倫相手の女性】
「年内に離婚の動きがなければ、あきらめる」
その1か月後、渡辺被告は勤務先だった病院から塩化カリウム10本を盗んでいたという。渡辺被告のスマートフォンには「塩化カリウム 注射」「塩化カリウム 死ぬ」などの検索履歴が残されていた。
妻子をロープで殺害後、不倫相手に送ったメッセージ「大好き大好き」
そして、11月7日。
妻に離婚を切り出したが、強い口調で拒否されたという渡辺被告。クローゼットにしまってあったロープを持ち出し、後ろから妻の首を絞めたという。
【渡辺被告】
「背負い投げのような形で2~3分絞めた」
「(まだ妻の)手も震えているように見えた。また2分前後、首を絞めた」
さらに、娘を殺害した理由については。
【渡辺被告】
「妻を殺すところを見ていたし、娘の顔が妻に見えてしまった。娘の存在が怖く思いました」
その後、渡辺被告は自殺にみせかけようと妻の遺体を階段に移動させ、ロープを手すりに結んだ上、妻のスマホから偽装した遺書を自分宛てに送信していたという。
渡辺被告が妻子を殺害した後に不倫相手に送っていたメッセージの内容も明らかにされた。
「大好き大好き」
11月12日。論告求刑公判。
【検察側】
「人命を守るべき医療従事者の被告が、「不倫相手との関係を続けるにあたり、障害となる妻と娘を排除するための身勝手極まりない動機で犯行態様も重大で悪質。高い計画性と強固な殺意があった」
検察側は、過去の同種事案と比較した上で、“無期懲役”を求刑した。
殺人、殺人未遂、殺人予備、窃盗の4つの罪に問われている渡辺被告。最終弁論で弁護側は、窃盗罪、殺人の罪は認める一方、殺人未遂罪、殺人予備罪は成立しないと改めて主張した。
殺人予備罪に問われている、勤務先の病院から塩化カリウム10本を持ち出した目的は、妻との生活における精神的安定を図るためだったと主張。持っていることで精神的な安定、励みにつながる、言わばお守りのようなものだったと説明した。
実際に塩化カリウムを使用するつもりであれば、静脈注射ができるよう、勤務先の病院から入手が容易であったシリンジ(注射筒)を準備したはずだとし、殺人予備罪は成立しないと主張した。
検察側が無期懲役を求刑する中、弁護側は情状酌量を求めた。
【弁護側】
「確かに健さんは、身勝手にも、一方的に不満や怒りを増大させ、奥さんを殺害しました。経緯や動機に同情するようなものはありません。しかし、例えば、保険金を得る目的で殺害したなど、いわゆる利欲目的での殺人と異なるものです。お子さんに対する殺害も、経緯・動機に同情すべき点はありません。ただ、一方的な不満や怒りを増大させていたこととは異なり、その場でとっさに恐怖を感じて殺害に及んだものでした」
「(逮捕されてから)この3年間でさえ、健さんの反省が深まっているところを見ることができますから、これから長時間かけて、その反省をさらに深め、贖罪の気持ちを持ち続けさせることが必要です。それが今の健さんにとって必要なことであり、何といっても、それが亡くなってしまった、奥さん、お子さんへの償いに繋がることと言えます。健さんに更生可能性がないとは言えません」
弁護側は、渡辺被告が遺族に対して、償いを支払うなど反省の気持ちを深めているなどとして、有期刑を求めた。
最終陳述で証言台に立った渡辺被告。声を詰まらせながら、謝罪の言葉を述べた。
【渡辺被告】
「この先もずっと妻と娘に対して謝り続けたいと思います。妻と娘が私に向けてくれた家族としての思いに私は応えられなかった、自分のしたことと一生向き合い、妻と娘にしてあげられなかったこと、数々の後悔と過ちを一生振り返り、見つめながら、お詫びし続けたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」
不倫相手との関係を続けるため、妻と1歳の娘を殺害するという残忍な事件。裁判員はどんな判断を下すのか。判決は11月22日に言い渡される。