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【祝う】斎藤實(まこと)も訪れた老舗料亭 創業100周年 記念の宴 岩手県奥州市

2024年8月7日 18:52
【祝う】斎藤實(まこと)も訪れた老舗料亭 創業100周年 記念の宴 岩手県奥州市

 岩手県奥州市水沢にある老舗の料亭でこのほど、創業100周年を祝う記念の宴が開かれました。

 なじみ客への感謝、亡き父母と先代の女将(おかみ)の思いを胸に「一日女将」を務めた女性を北上支局・熊谷記者が取材しました。

 「偉人のまち」奥州市水沢で1924年、大正13年に、もともとはそば屋として開業し、ことし100周年を迎えた料亭「丸松」。

 水沢出身の総理大臣で、二・二六事件の凶弾に倒れたあの斎藤實(まこと)も何度か訪れたという老舗です。

 記念の宴が開かれる2日前、料亭を訪ねました。

 松川玲子さん
「昔は水沢にも政治家がたくさんいて、名だたる人たちもここで『どどいつ』を歌ったりとか…」

 家業の節目を祝う宴を企画した松川玲子さん63歳。

 料亭の2代目あるじの長女です。

 宴の当日は「一日女将」を務めます。

 松川さんが子どもの頃、「丸松」では毎晩のようににぎやかな宴会が開かれていて、15人ほどいた専属の芸者たちと家族同様の暮らしをしていたといいます。

 先代亭主の長女松川玲子さん
「運動会のときは芸者さんが弁当をもってやってきた。色足袋を履いて、頭にネットをかぶって。母が来られなかったときには、芸者さんが10人くらいゴールのところに並んで…。もう私は何が何でも1位を取らなければならない雰囲気で…。いい時代だったと思う」

 松川さんの父で、2代目亭主の伊藤忠夫さんは10年前、「丸松」の90周年を見届けたあと、この世を去りました。

 2代目の女将で、常連客から「お母ちゃん」と呼ばれ親しまれていた母・美志さんは、32年前に他界しています。

 「丸松」は現在、松川さんの兄・博さんが3代目のあるじを務めています。

 しかし、14年前、先代の女将だった妻、松川さんにとって義理の姉・恵子さんを亡くしてから、店は女将はもちろん、後継者もいません。

 家族と生まれ育った実家を思うとき、松川さんには記念の宴をどうしても成功させたい強い思いがあります。

 記念の宴を企画 松川玲子さん
「10年前に父が亡くなって、その年が90周年だった。その時に軽い催しはしたけれど、亡くなるときに『100周年までがんばって生きたい。(記念の催しを)ぜひやりたいし、その時はお前が踊ったりしてお客様をもてなしてほしい』と言っていた。なんとかひと肌脱いで力になって100周年を祝いたいなと思っていた」

 松川さんは宴会の案内状や看板を手づくりしたほか、夫や息子にも手伝ってもらって障子の張替えをするなど、本番を迎える準備を整えてきました。

 松川玲子さん
「自分は素人に毛が生えたようなものなので、飾らずにそのままで感謝の気持ちを表せたらと思っている」

 そして、迎えた100周年を祝う記念の宴。

 この日、松川さんは母の形見の着物を身にまとって臨みました。

 会場にはなじみの客や知り合いなどおよそ80人が集まり、酒と料理に加えて、東京・浅草から駆け付けた芸者のお座敷芸を堪能。

 知り合いが給仕を手伝ったほか、松川さんの長男の嫁、美咲さんも「一日若女将」として、宴を盛り上げました。

 丸松3代目亭主 伊藤博さん
「『(90周年のとき)あと残り10年がんばって100周年までやります』とあいさつをしましたが、その間に考えてもみなかった新型コロナのパンデミックがありまして、厳しい思いがあったけれど、きょう、お越しのみなさまのおかげで、なんとか100年を迎えることができました。なかなか4代目が育ちませんので、『110年』という訳にはいきませんけれど、もしかしたら中途半端な『105年』あたりでやるかもしれませんので、その時はまた、よろしくお願いします」

 父親の代からの常連客
「飲んだくれた親父を介抱したり、店に迎えに行ったりしていたね」
(Q、松川さんの一日女将ぶりは?)
「いいんじゃない」

 金ケ崎町からの常連客
「『丸松』と言えば結婚式場・宴会場という歴史がある。これくらいの人が集まるのは当然だと思うし、みんなでお祝いしたいということ」

 松川さんと40年来の付き合い
「これからも続けてほしいなといのが一番。新しいホテルもいいけれど、やっぱりこういう老舗には重みがあるといういうことをわかってもらいたい」

(松川さん踊り)

 日本舞踊若柳流の一級師範・若柳衣富美という顔を持つ松川さんは、宴の最後に父の十八番だったという踊り、「かっぽれ」を披露しました。

 (松川さん踊り)

 松川玲子さん
「お客様がよろこんでワイワイ騒いでくれているのを見るのがすごく楽しいし、よろこんでもらえて本当によかった。たぶん母も父も、父の友人たちと一緒に『うえ』で宴会しているんじゃないかなと、よろこんでくれているだろうと思う」

 店に通うひとの縁と家族のつながりが紡いできた料亭「丸松」の100年…。

 にぎやかさの中に、人情があふれていました。