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【東日本大震災14年】岐路に立つ民間語り部 震災教訓伝える活動機会が減る 存続の課題は?

2025年3月12日 18:52
【東日本大震災14年】岐路に立つ民間語り部 震災教訓伝える活動機会が減る 存続の課題は?
震災の教訓を伝える語り部の活動は、発生直後と比べて徐々に機会が減り、難しい局面を迎えています。語り部が伝えられることとは何か。その存続に向けた課題とは。岩手県陸前高田市の1人の語り部を通して考えます。

陸前高田市に住む釘子明さん、66歳。東日本大震災の津波で、自宅が全壊しました。震災から2年後の2013年3月、一般社団法人「陸前高田被災地語り部くぎこ屋」を設立し、被災地の様子を伝える「語り部」として活動しています。

釘子さんは震災当時、陸前高田市の中学校で避難所の設立や運営に携わったことから、その時の出来事を通じて考えたことや苦悩、教訓を後世に伝えています。

研修生
「暖房器具はだるまストーブが2つだけです・・・」

釘子さん
「ここには約1000人が避難していて、2000リットルの水しかないんです」「皆さんにきょうお配りできるのはたった一杯の水だけです」

大学生参加者
「細かくリアルなことをその当時どう感じていたのか」「どう生かすべきなのか、得るものが大きかった」

釘子さんの語り部活動の参加人数は、多い年で年間1万人以上に及びました。

しかし、ここ数年は2か月に1回、講演会や研修が入る程度で、9割以上減少したといいます。災害の語り部は、多くがボランティアで活動しています。なりわいとして難しくなりつつある今も、釘子さんは語り部を続ける意義があると考えています。

釘子さん
「私たち語り部は実際あったことをきちんと伝える」「いいことも悪いことも含めて伝えることができるのは行政では難しい」

伝承に大きな役割を果たす語り部。しかし、国からの直接的な支援はありません。
例えば、宮城県は2023年度に復興支援・伝承課がまとめた伝承に関する当初予算はおよそ12億6000万円ありましたが、語り部団体などへ直接、支給したのは8つの団体に対し、あわせて900万円ほどにとどまりました。また、岩手県や福島県には昨年度、伝承団体を直接支援するような補助金制度がありませんでした。

復興庁に、語り部に国からの直接支援を検討しているかと尋ねたところ…。

「震災関連で営利事業を行うことに躊躇される人もいると承知している」「復興庁では、語り部を職業化すべきという方針は特にない」「行政への批判を含めた発信をする観点からも、独立した発信媒体としての意義もある」

<311ネットワーク>
活動を支援する宮城県の公益社団法人「311メモリアルネットワーク」の中川政治さんは、「各地に作られた震災伝承施設では伝えられない内容が多い」と指摘します。

中川さん
「(展示は)今は事例の紹介が9割で、教訓やこうすべきという展示がすごく少ない」「(語り部には)人の気持ちや意識を変える力がある」

<陸前高田シンポ>
3月1日。陸前高田市で開かれた語り部の今後のあり方について考えるシンポジウム。地元の釘子さんも会場を訪れました。シンポジウムには、復興庁の参事官も登壇しました。

後藤さん
「行政がどこまでこういう(語り部)活動を金銭的に支援するというのは非常に難しい」「本来あるべき形は、民間の中で資金を含めて自立してもらうというのは継続していくためには大事なんだろうと思う」

資金援助のあり方は、復興庁が書面で出した回答と同じでした。

ただ、ここから語り部は必死に訴えます。

「やはり活動を継続させていく時に物理的な支えは絶対必要です」「行政は伝承活動に対して支えていくべきだと思っている」

「伝承活動の大事な局面は多分これから」「行政がやるのは金を出すことよりも、(語り部の)意義をしっかり認識してもらうような啓発を含めて応援してもらえたら」

陸前高田
「やはり発信し続けることがすごく大事ですし」「(国・行政に)東北、岩手宮城福島に来てもらえるような取り組みを増やしてほしいと思う」

訴えを聞くうち、参事官の発言にも少し変化が・・・

後藤さん
「行政の立場として★自立支援する必要があると感じている」「震災伝承ということに、社会の合意としてもっと盛り上げていくべきという仕掛けがいるんだと思う」

客席でやりとりを聞いていた釘子さんも、ひときわ大きくうなづいていました。

釘子さん
「資金面も、素直に必要だとみなさんから意見があり、そういった面では非常によかった」

<気仙沼>
翌日。宮城県気仙沼市で開かれたフォーラムの分科会で経験を語る釘子さんの姿がありました。避難所での実体験を語る姿に、来場者はくぎ付けに。

震災伝承に欠かせない「語り部」をどう支えるか。支援のあり方が改めて問われています。
最終更新日:2025年3月12日 18:52