【特集】上半期で既に1000件弱が倒産した近畿地区、コロナが収束した今なぜ!?倒産防止の救世主だった『ゼロゼロ融資』の返済開始本格化で中小企業が悲鳴…その背景とは

新型コロナウイルスが5類に移行してから、初めてとなった2023年の夏。 街に活気が戻りつつあるにもかかわらず、企業の倒産が相次いでいます。その背景にあるのが、『ゼロゼロ融資』の存在。さらに物価高や円安など、地域経済を取り巻く厳しい状況も…。今、中小企業に一体何が起こっているのか?生き残りに奔走する企業と、支援する人々を取材しました。
「ここまでくるのか、と驚き」活気を取り戻しつつあるのに、相次ぐ倒産…背景は?
祭りなどの大型イベントも4年ぶりに開かれ、街には外国人の姿も見られた、2023年の夏。日常は、コロナ前の姿を取り戻しました。
しかし、民間の調査会社が、驚きの事実を明かしました。
(民間の調査会社・職員)
「近畿地区での6月の倒産件数は、帝国データバンクの集計で、204件。2年11か月ぶりに、200件を超えました。私どもとしては、驚きです。ここまでくるのか、と」
近畿地区で倒産した企業の数は6月だけで200件を超え、2023年の上半期で、すでに977件に。一体なぜ、今になって倒産が相次いでいるのでしょうか―。
そのキーワードが、『ゼロゼロ融資』です。
(民間の調査会社・職員)
「『ゼロゼロ融資』の返済を一つのトリガーとして、倒産に至ってしまいます」
(帝国データバンク大阪支社・情報部情報課 白濵雄介副課長)
「コロナ禍が終わっても、業績が全く回復していない、もしくは、もっと悪くなっている企業が淘汰されていくのが、現状です」
長いコロナ禍を抜けた先に、垂れ込める暗雲。今、地域経済に何が起こっているのでしょうか―。
「全ての画が壊れました」倒産の恐れある会社は大阪だけで800社…“連鎖倒産”の危機
大阪市中央区で紳士服店を経営する加藤効社長は、ヨーロッパから仕入れた服や靴の販売の他、オーダースーツを手掛けています。コロナ以前の売り上げは右肩上がりで、新しい事業を展開しようとしていた矢先に、未曾有のコロナショックが襲いました。
(チェント・トレンタ 加藤効社長)
「服を買って靴も見て、靴磨きもできて、散髪もできて、クリーニングを預かってという、一気通貫できる“街の百貨店化”を目指していました。でも、突然コロナが来て、全ての画が壊れました。これって、もしかしたら会社の資金も溶けていくのではないか、と…本当に“動かない世界”を初めて体験しました」
売上は減り、仕入れ先の海外へも行けなくなり、会社の将来に危機感を覚える中で、ある制度を活用して金融機関から2000万円を借りました。それが、通称『ゼロゼロ融資』です。
この制度は2020年3月、大量の企業がコロナの影響で倒産することを防ぐため、政府が設けました。その仕組みは、国から財政支援を受けた信用保証協会が、金融機関に返済を保証し、都道府県が利子を負担することで、中小企業は「担保ゼロ、利子ゼロ」で融資を受けられるというもの。貸し倒れのリスクがない金融機関は積極的に融資し、融資額は合計で43兆円にのぼり、コロナ禍での倒産を抑え込んできました。
(加藤社長)
「『ゼロゼロ融資』があったからこそ、少しだけ気持ちにゆとりができました。融資を受けていて、あの時は良かったと思います」
では、なぜ今になって、救世主となったはずの『ゼロゼロ融資』が、企業を苦しめているのでしょうか。
(帝国データバンク大阪支社・情報部情報課 白濵雄介副課長)
「2023年は、企業の『ゼロゼロ融資』の返済が始まる時期が重なっていて、この返済資金を捻出できない企業があります。その中で、事業を諦める企業も一定数出てきています」
実は、金利負担ゼロの期間は3年間。多くの企業が2023年の夏に期限を迎え、返済が始まります。利子も自己負担で返していかなければならず、多くの企業で資金繰りが厳しくなっています。もし返済が滞り企業が倒産した場合は、信用保証協会が肩代わりしますが、その一部は実質的に税金で穴埋めすることになります。企業を取り巻く状況は、他人事ではいられないのです。
タイヤのインターネット販売をしていたある企業は、2023年8月末、12億7800万円の負債を抱えたまま、倒産しました。
(帝国データバンク大阪支社・情報部情報課 三好暁久副係長)
「最初に問題になったのがコンテナ不足です。そこで物が入ってこず、さらに円安で採算が悪化し、『ゼロゼロ融資』の返済がだんだんきつくなって、最後は倒産してしまいました」
物価の高騰や歴史的な円安など、今の経済環境が、『ゼロゼロ融資』の返済が始まる企業に追い打ちをかけています。
(白濵副課長)
「企業にアンケートを取ったところ、返済に不安を抱えている企業は9.9%。さらに、現時点で返済の目途が立たず、事業が継続できなくなる恐れがある、つまり倒産・廃業する企業が、大阪府だけで約800社あります」
Q.地域経済への影響は?
「“連鎖倒産”といって、倒産した会社と取引していることで、企業からお金を回収できなくなり、大きな損失を出してしまうと、健全な会社まで倒産する可能性があります」
保証協会と二人三脚、厳しい中で奮闘する企業…正念場迎える日本経済
紳士服店を営む加藤社長が今、力を入れているのが、SNSを使った販路拡大です。自らモデルとなり、商品を国の内外に発信しています。『ゼロゼロ融資』で借りた2000万円は今、別の融資で借り換えていますが、2年半後には返済が始まります。売り上げの回復は、待ったなしです。
そして、その挑戦を後押しする存在が、大阪信用保証協会です。
(大阪信用保証協会・企画課 玉城健司課長)
「中小企業が日本の経済を支えている部分は非常に大きいので、そこは支えていかないといけないと思っています」
2023年7月末時点で、保証する中小企業は約8万社、保証総額は約1兆6000億円以上。公的機関の保証協会は今、コロナで傷ついた企業を支援することに、力を入れています。
この日も職員が、打ち合わせのため、加藤社長のもとを訪れました。
(大阪信用保証協会・担当者)
「先日お伺いしたときに今期の目標を頂いて、それを勝手ながらシミュレーションさせていただきました」
(加藤社長)
「ありがとうございます」
中小企業診断士の資格を持つ職員が、財務診断を行い、業績を分析。事業者と向き合い、経営者と一緒に、今後の経営計画や返済の予定を考えます。
(加藤社長)
「協会の方は皆さん、すごく親身になって相談を受けてくれて、『ここは強み、ここは弱いですね。では、変えていくには、どうしましょう』と、弊社っぽくどうやっていくか、というアドバイスを頂けるので、ありがたいです」
『ゼロゼロ融資』の返済は今、正にピークを迎えています。日本が、本当の意味でコロナ禍から抜け出すことができるのか―今、正念場を迎えています。
(「かんさい情報ネットten.」2023年9月5日放送)
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