【独自取材】知られざる北朝鮮の作家事情 “洗脳文学”書いていた脱北作家語る“超エリート”だけが書ける『1号形像物』金一族を神のような存在に祀り上げるため…当局が流す“ジュエ氏に関する噂”
韓国在住の作家・金柱聖さんが以前、北朝鮮で書いていたという“洗脳文学”。超エリート作家だけが書くことを許されたジャンルとは?当局が“あえて”流すジュエ氏に関する噂とは?北朝鮮の内部情勢を取材している「アジアプレス」のジャーナリスト・石丸次郎氏の解説です。
韓国・仁川市に住む、金柱聖(キム・ジュソン)さん(60)。かつて北朝鮮で「朝鮮労働党の作家」として活動していましたが、実は日本で生まれ育ち、「帰国事業」で北朝鮮へと渡った元在日三世です。2007年に脱北を試みるも失敗し、2008年、2度目の脱北に成功。現在住んでいる韓国でも“北朝鮮の実情”を伝えるため執筆活動を続けていて、さらに日本でも「北朝鮮『洗脳文学』の実体」という本を出版しました。
柱聖さんは北朝鮮で、「国民の思想教育」を行うための小説、いわゆる“洗脳文学”に携わっていました。柱聖さんによると、「作家は、何か物を書いて人々を扇動する重要な職業で、金日成(キムイルソン)が『職業的革命家です』という言葉も残している」といいます。また、国内旅行すら党に通行手形を発行してもらわなければならない北朝鮮で、作家には「取材名目」での国内移動の自由が許されていました。こうした優遇と引き換えに求められたのは、国民を洗脳する作品の執筆でした。
当時、柱聖さんが主に執筆していたのは日本を舞台にした“在日朝鮮人の物語”で、在日二世の女の子(総連系/北朝鮮支持団体)と男の子(民団系/韓国支持団体)が恋愛に陥るという内容でした。金日成主席は北朝鮮建国当時から「祖国統一」を第一に掲げていたため、柱聖さんは「祖国統一のためには、総連も民団も仲良くせよ」というプロパガンダが含まれた小説を書いたのだといいます。
物語のジャンルは7つあり、柱聖さんが書いていたような日本を舞台にした物語は「海外物」と呼ばれていました。この中で最も権威ある作品とされているのが、金一族を題材にした「1号形像物」。これは、“一号作家”と名付けられた超エリート作家だけが書くことを許されたジャンルで、金一族の歴史を“偉業”として輝かせ、“神のような存在”に祀り上げるための作品だといいます。
北朝鮮でベストセラーかといわれているのが、金親子に実際に会った人たちが書いた体験記とされる「徳性実記」です。柱聖さんが考えた「徳性実記」の例が、平壌に住む家族の体験です。金正日総書記が深夜に灯りが灯る一室を目撃し、その部屋に「金正日です、夜更けに何を?」と訪れると、幼い子どもが「明日、父親が労働党に入党しますが、首領さまのために『つつじの花』しか用意できない」と泣いていました。このことに金正日総書記は感動し、父親の出世と最高級家電などを贈ったというものです。
Q.こういう所に娘とされているジュエ氏の話が出てくると、後継者の可能性は高まりますよね?
(「アジアプレス」ジャーナリスト・石丸次郎氏)
「もし出てきたら、後継者の可能性はぐっと高まります。ジュエ氏が後継者候補だという確定的なものは何もありませんが、今、ジュエ氏の露出がすごく増えていますよね。ジュエ氏について、当局がさまざまな情報を流しているようです。例えば、『まだ幼いけれど、ものすごく頭の回転が速くて、一度会った人の顔は忘れない』とか『幼いのに、すでに金総書記の補佐をしている』とか、そういう情報を当局があえて流しているような兆候があります。そういうことを積み重ねていって、数年後、十数年後に『幼い頃から立派だった』という逸話作りの材料を、早くも流しているように感じています」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年12月19日放送)