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【独自解説】“健康不安説”が囁かれる金総書記、軍事偵察衛星打ち上げの成功を、おそろいの「NATA」Tシャツでお祝い!? 「さまざまなハードルを越えてきていることは、紛れもない事実」

2023年11月29日 17:30
【独自解説】“健康不安説”が囁かれる金総書記、軍事偵察衛星打ち上げの成功を、おそろいの「NATA」Tシャツでお祝い!? 「さまざまなハードルを越えてきていることは、紛れもない事実」
“偵察衛星”打ち上げ成功か

 「軍事偵察衛星」打ち上げの成功を主張する北朝鮮ですが、その裏にはロシアの影が…。金正恩総書記が親子そろって出席した“NATA”関係者との大宴会とは?そんな中、頭髪を巡り“健康不安説”も浮上。「コリア・レポート」編集長・辺真一(ピョンジンイル)氏の解説です。

“白髪”巡り飛び交う憶測も、「人民のために苦労した」アピール?

 11月21日に偵察衛星を打ち上げた北朝鮮。その翌日に北朝鮮国営メディアが、10月に行われたロシア・ラブロフ外相との会談を巡る報道以来33日ぶりに、金正恩総書記の動静を伝えました。韓国「中央日報」によると、「写真の角度によるが、正面から見ると白髪が所々に出ている」と伝えていて、健康状態に変化かと憶測が飛んでいます。

 一方で、他の韓国メディアは「金日成主席の肖像画を模倣したのではないか」「ストレスによる不眠症などの健康不安説か」「一説には、発射体開発と人民のために不眠不休で働く指導者のイメージを植え付けようとする意図か」など、さまざまな見解を出しています。

Q.金正恩総書記は髪を染めていたということですか?
(辺氏)
「黒く染めている可能性が高いと思います。北朝鮮の党・軍幹部で、白髪の人を見たことがないです。3年前にリタイアした元ナンバー2・金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員会委員長の髪は、当時91歳でしたが真っ黒でした。ところが、リタイアした後は真っ白になったんです。ですから、金総書記も恐らく所々に白髪があって、それを黒く染めている可能性があり、それが今回テレビの角度などによって映ってしまったということだと思います」

Q.金総書記だけではなく、トップの人は「いかに健康か」「若々しく見せるか」ということが、非常に大事なのですか?
(辺氏)
「そうです。金日成主席も晩年白髪が目立ち始めましたが、朝鮮半島では髪が白いのはそれだけ苦労していることの表れなので、『人民の為に一生懸命頑張って、苦労した結果こうなっている』というようなことも言えます」

 そんな金総書記ですが、宇宙当局の技術者らと大宴会を開催し、妻・李雪主(リソルジュ)氏、“娘”・ジュエ氏と共に親子で登場しました。金総書記以外の出席者は皆、「おそろいのTシャツ」を着ていました。

Q.李雪主氏やジュエ氏も「おそろいのTシャツ」を着ていたというのは、それだけ特別な宴会だったのでしょうか?
(辺氏)
「こういうような場面は、初めてです。また、金総書記はタバコを手にしているのですが、奥さんや娘さんの前でもタバコを手放さないというのは、ストレスが半端ではないのだと、写真一枚見るだけでもわかります」

Q.ジュエ氏の露出があまりにも多いですが、彼女が後継者なのですか?
(辺氏)
「すでに情報機関を含めて韓国国内では、『第一子男子説』が消えています。ということは、ジュエ氏が第一子ということになれば、上にお兄ちゃんがいないわけですから、彼女が4代目の可能性は非常に高いです」

 ジュエ氏も着ていた「おそろいのTシャツ」をよく見ると、「NATA」とプリントされています。2013年に北朝鮮は「NADA(国家宇宙開発局)」を設立し、人工衛星の開発・発射などの宇宙開発を担ってきましたが、2023年9月に「NATA(国家航空宇宙技術総局)」に名称変更、ロゴも変更されました。

Q.なぜ名称変更したのですか?
(辺氏)
「かなり『NASA』を意識しているところもあります。自分たちの力・技術でロケットを作って上げたと。ところが、アメリカの『NASA』を真似したと言われてカチンと来て、変えたのは良いのですが、Development(開発)のDからTechnology(技術)のTへ、そこだけ変えました。自分たちの技術力を強調したいんだと思います」

打ち上げ成功を主張する“偵察衛星”、その性能は「自動車と戦車を区別できないレベル」?

 そんな北朝鮮が打ち上げ成功を主張する「偵察衛星」。11月21日、北朝鮮西部・西海(ソヘ)衛星発射場から、弾道ミサイル技術を用いた“偵察衛星”を打ち上げました。2023年に入ってから3度目、衛星としては7度目です。北朝鮮側は、「打ち上げから約12分後に軌道に正確に進入した」と報じていて、23日には打ち上げ映像も公開しました。打ち上げた“偵察衛星”は、12月1日から正式に偵察任務を始めるとしています。北朝鮮メディアによると、「正式運用に向けた工程は1日から2日ほど繰り上げて進行している」ということで、早まる可能性もあります。

 打ち上げ後、金総書記は平壌管制所を4回視察していて、“偵察衛星”の写真などを確認したということです。撮影したと主張する場所は、「韓国・ソウル」「在韓米軍司令部が置かれた地域」「グアム・米軍基地」「ハワイ・真珠湾の海軍基地」「韓国・釜山に寄港する米軍空母『カールビンソン』」などですが、画像の公表はされていません(2023年11月28日15時現在)。

 11月28日朝、北朝鮮メディアは「金正恩総書記が、27日午前と28日未明の2回、“偵察衛星”の運用準備状況について報告を受けた」と報じました。27日夜遅くに“偵察衛星”から撮影されたホワイトハウスや国防総省などの写真を確認し、さらにアメリカ海軍基地にいる米英の空母などを捕捉したと主張しています。韓国メディアは、「撮影時間が、韓国軍などが捕捉していた軌道データと一致している」と、その信憑性について報じています。

Q.“偵察衛星”は、北朝鮮が目指した軌道には乗っているということですか?
(辺氏)
「その通りで、実際に写真を撮っている可能性も高いです。ただ一点、韓国国内の軍事施設も、グアム・ハワイ・ホワイトハウス・ペンタゴンなど全てが、明るいうちに撮った写真です。夜間に撮った写真が一枚も含まれていませんので、そういう意味では偵察衛星としての機能に合格点は与えられないという見方も、韓国国内にはあります」

 米・宇宙軍の分析によると“偵察衛星”の性能は、地球を1周するのに約94分、赤道との角度は約97度、高度492~512kmで、軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏は「衛星として一般的な軌道」だといいます。また、解像度は「3~5m級」で、具体的には「自動車と戦車を区別できないレベル」だといいます。

Q.韓国より先に偵察衛星を打ち上げて、もう西側諸国のいろいろな所が見れますよという、一種のアピールなのでしょうか?
(辺氏)
「その通りだと思います。しかし、撮った写真全てが基地や停泊中の船など“動かない”ものでした。これからは戦車やイージス艦など動くものをキャッチできないと、偵察衛星としての機能が果たせないということになります。例えば、B-1戦略爆撃機はグアムから平壌まで約2時間で飛んでいきますから、夜中に発射されたら動いた瞬間にキャッチできないと、北朝鮮は手遅れになります。そういう意味では、どの程度“偵察衛星”としての機能を持っているのか、北朝鮮が写真を公開しない限りは、今の段階では何とも言えません」

“成功”の裏にはロシアが?高まる緊張状態「露朝の軍事的タイアップは日米韓にとって忌々しき問題」

 9月にロシア・ボストーチヌイ宇宙基地で、金総書記とプーチン大統領が対面し、ロシアは人工衛星開発の支援を表明していました。韓国・国家情報院の情報によると、「ロシアの支援があったと判断」「9月の露朝首脳会談後、北朝鮮からロシアに設計図や1回目と2回目の打ち上げのデータが送られ、ロシアはその分析結果を送っていた」ということです。韓国・申国防相は、「ロシアの助けを借りて、問題点をほぼ解消したと判断している」と話しています。

Q.ロシアは実績があるので、北朝鮮のデータを見て不具合などを改善したのですか?
(辺氏)
「本来は、10月に発射する予定でした。北朝鮮は有言実行で、予告してきた通りやってきたのですが、10月の発射だけは見送られて11月になりました。ということは、まだ技術的に問題があったということです。それで最終的に、ロシアのチェックを受けたということだと思います」

 11月22日に放送された番組内で小野寺五典元防衛相は、「核を搭載したミサイルの大気圏再突入技術は、北朝鮮独自の技術だけでは難しい。もし今後、ロシアから“技術の提供”あるいは実際の“モノの提供”があった場合、一気に北朝鮮が“最後のハードル”としている『(大気圏)再突入技術』を手にすることになる。仮に、これを手にすることになれば、本当の脅威になってしまう」と発言しました。

Q.「大気圏再突入技術」はハードルが高いので、まだ北朝鮮は持っていないだろうということですか?
(辺氏)
「推測の段階ですが、北朝鮮がさまざまなハードルを越えてきているということは、紛れもない事実です。さらにロシアが協力するということであれば、それだけ完成度は高まるということですから、露朝の軍事的タイアップは日米韓にとって忌々しき問題だと思います」

Q.金正恩総書記は以前、新年の挨拶で「私が国民の皆さんを豊かにできなくて、すみません」と泣いていたことがありましたよね。その人が今、ミサイル一辺倒になってしまった理由は何でしょうか?
(辺氏)
「個人的には、2019年2月のハノイ会談の決裂が大きかったと思います。あの時はまだ非核化交渉にそれなりに前向きで、アメリカとの対話にも前向きでしたが、あれがダメになった結果、『もう二度とアメリカとは対話しない』と。それで再び、核・ミサイル開発に舵を切ったので、あのダメージは本当に大きいです」

 北朝鮮はアメリカだけではなく、韓国とも緊張状態です。2018年に合意した「南北軍事合意」ですが、11月22日に韓国側が「北朝鮮との軍事合意の一部の効力停止」を発表。それに対し北朝鮮側は「事実上破棄する」姿勢を示し、韓国側が公開した写真によると、軍事境界線付近に監視所の再設置や無反動砲と推定される重火器を配備しました。

 11月27日には国連・安全保障理事会では緊急会合が開かれ、北朝鮮による弾道ミサイル技術を使った発射は安保理決議違反だとの非難が各国から相次ぎました。

 しかし、北朝鮮の金星(キムソン)国連大使は米韓の軍事演習を批判し、「“偵察衛星”を打ち上げたのは、この状況を断固として制御・処理し、この地域での新たな戦争の勃発を防ぐためである。これは、必然的な行いであり、自衛権の最低限の行使である」としました。ロシアと中国は、アメリカと同盟国の軍事演習が緊張を高めていると、北朝鮮を擁護。

 一方で、米・トーマスグリーンフィールド国連大使は、「米韓の軍事演習は日常的なもので、防衛のためだ」と反発しました。

Q.安保理で違反決議を出されても大きな報道にならず、北朝鮮の軍事衛星が軌道に乗ったというほうが大きなニュースになるのは、国連にとって大問題ですよね?
(辺氏)
「この議論も今に始まったことではなく、北朝鮮が1998年8月に日本列島を飛び越えてきた人工衛星と称する『テポドン1号』からの議論です。今回も、国連安保理でこういった議論で北朝鮮を非難しても、逆に北朝鮮に『基本的に“衛星”は、弾道技術を使って打ち上げるものだ』と言われたら、返す言葉がないんです」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年11月28日放送)