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中村莟玉「歌舞伎に救われた」

2021年1月15日 11:09
中村莟玉「歌舞伎に救われた」

「自分が出ていない月の公演が無事に終わるようにこんなに祈ることはなかった」。そう2020年を振り返った歌舞伎俳優・中村莟玉さんは、21年最初の歌舞伎座の公演に臨んでいます。19年に中村梅丸から名を改め、新しい名前で舞台に立ってから一年。立役・女方ともにこなす若手花形です。歌舞伎への愛、パンダへの愛、そして新年の抱負などを語りました。聞き手は日本テレビの市來玲奈アナウンサーです。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み/第4回・中村莟玉さん】

■「本当に歌舞伎に救われたと思う」

――2020年9月から4か月連続出演した公演を振り返っていかがですか。

「あっという間の4か月でしたが、ひと月ひと月千穐楽までできるのかなと毎日ドキドキしていました。8月に出演されていた先輩方からのバトンを受け取って自分たちは舞台に立っているので『これを次につなぐんだ』というリレーのような面があったかなと。自分が出ていない月の公演が無事に終わるようにこんなに祈ることはなかったですよね」

――自粛期間中はどのようなお気持ちでしたか。

「歌舞伎が休演することがあるんだと驚きました。むなしい、さみしいという気持ち、それがどんどん焦りに変わりました。歌舞伎にこんなに触れないことがないので。でも考えたいときに考えるようにして、『やっぱり自分は歌舞伎が好きなんだな』というところを(公演などが)できない分、自分の頼りにしていました」

――歌舞伎の特にどのようなところが好きですか。

「夢の世界というか、心が救われます。活力になりますね。役者になる前の(お客として劇場に来ていた時の)記憶が自分の中ですごく大事な部分になっていて。劇場に行くというのは、ものすごく能動的な行動で、ワクワク、楽しみにするというところからエンターテインメントは始まっているし、まさに遊園地に来たような世界観が好きで、この世界に入ってきました。本当に歌舞伎に救われたと思いますね。今、思えばこのコロナの時も結局そうで。夢を忘れずにいさせてくれるのがやっぱり歌舞伎かなと思います」

――中村莟玉を名乗って一年の心境は。

「2019年11月に毎日、緊張状態で舞台に立っていた時にはまさかこんなことになるとは思っていなかった。その時はコロナなど関係なく、千穐楽までとにかく無事に勤めなきゃと思っていたけれど、本来そうであるべきで。だからこそ千穐楽がおめでたいもので、その重み、ありがたみを強く感じる一年でしたね」

■「長いスパンで考えていくためにそろそろスタートを」

――パンダが大好きだとお聞きしています。シャンシャンの返還が5月まで延期されましたね!

「上野動物園も休園期間があったので、そこを鑑みてくれるのではと思っていました。淡い期待をしていたけれど(20年)12月になっても発表がなくて、シャンシャンの(返還に向けた)イベントが始まり、諦めていて……いや本当に良かったなと思いましたね。何事にもとらわれずに、自由気ままに生きているのにあんなに平和。オーラがあるんですよね(笑)」

――若い世代に歌舞伎の魅力を伝えていくには・・・

「アピールポイントって山ほどあるんです。独特な世界観、劇場に行く楽しさ、好きな役者さんを追いかけるなど。僕の友達に衣装が好きという人もいます。あとは生演奏の贅沢さなども。入り口はどこにでもあるので、どれだけネットワークを広げられるか、どこからでも入ってきていただける状況を作っていけるのかが大事だと思いますね。」

――YouTube配信やインスタライブをされていますよね。

「僕にも何かできないかと思い、幕の向こう側についてのことにも興味を持ってくださっている方もいらっしゃると思ったので、小道具さんの取材をさせて頂きました。歌舞伎にまつわる役者以外のお仕事にも興味を持ってくださる方が増えていったら、それが歌舞伎の発展に繋がると思います。小道具さんたちの思いを伺っているうちに、やっぱり本当に歌舞伎って総合芸術だなと、改めて勉強することができたので凄く良い機会でしたね。」

――2021年の抱負を教えてください。

「先輩方から、自分がお芝居を学ぶことに一生懸命になっていいという環境を作って頂いて舞台に立ってきたけれど、そこが本当にありがたい環境だったと感じた2020年でした。どうやってお返ししていけるのか、また自分たちもその先で作り続けていかなければいけないと思った時に、長いスパンで考えていくためにそろそろスタートを切らなければいけない。責任を考えないといけないと思うと、具体的に何かを始めたい1年です。プライベートでは山登りをしてみたいですね!」

――1月の公演「壽 初春大歌舞伎 壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)」が始まります。

「お正月の歌舞伎座は大先輩たちがお出になる公演なので、その中で一幕を若手だけで設けて頂けたということが凄くありがたいです。浅草歌舞伎を楽しみにしてくださっているファンの方々たちへの、『今年はこれで楽しもう』と思っていただける要素になればと思っています。演目は“曽我物”というジャンルです。お正月は必ず“曽我物”が出るというくらい、顔合わせ狂言で、華やかに一幕をお見せするもの。今回の『柱建』は珍しく、今までの『対面』のお芝居というよりは舞踊でお見せする作品になっているので、肩の力を抜いて楽しんでいただければと思う演目ですね」

◇◇◇

文章で短くまとめてしまうのがもったいないほど、本当に熱く歌舞伎への想いをたくさん語ってくださった莟玉さん。最近始めたことは料理とのこと。

偶然同じ日に取材をさせていただいた、歌舞伎俳優・中村隼人さんから「パンダ好きは好感度アップのためなの?(笑)」と突っ込まれた際には、「どう思っていただいても良い!シャンシャンを見てもらえれば納得してもらえると思う。そこには自信がある!」と笑顔で答えられていて、先輩方から愛されている姿が印象的でした。

演目は違うけれど、8年前に初めて新春浅草歌舞伎に出演した時のお役に臨んでいらっしゃいます。名前も変わり、“リスタート”と意気込む莟玉さんのお芝居に注目したいと思います!

次回は中村隼人さんのお話をお届けします。

【中村莟玉(なかむら・かんぎょく)】
2006年に中村梅玉の部屋子となり、中村梅丸を名乗る。2017年に名題適任証を取得。2019年10月に梅玉の養子となり、11月に中村莟玉の名を改める。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。

◇◇◇

「日本テレビアナウンサーの市來玲奈です。大学時代に学んだことがきっかけで、歌舞伎の魅力にとりつかれました。そんな歌舞伎初心者の私自身が、これから、さまざまな方から歌舞伎の面白さを学びながら、若い人たちへも、思わず笑顔になるような歌舞伎の魅力をお伝えしていきたいと思います」