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「深層NEWS」宇宙飛行士野口聡一さん生出演SP〈中編〉~ISSを取り巻くウクライナ情勢~

2022年6月14日 10:02
「深層NEWS」宇宙飛行士野口聡一さん生出演SP〈中編〉~ISSを取り巻くウクライナ情勢~
2022年6月2日「深層NEWS」より

日本の宇宙開発を牽引してきた宇宙飛行士・野口聡一さんが6月1日、26年勤めたJAXAを退職し、翌2日にBS日テレ『深層NEWS』に生出演。東京大学公共政策大学院教授、鈴木一人さんをまじえ、26年間の宇宙人生を伺いました。中編は、長期滞在したISS(=国際宇宙ステーション)の過ごし方や船外活動について生解説。また「運命共同体」であるISSもウクライナ情勢の暗い影 が…。

■ISS船外活動 移動に100mを30分

郡司恭子アナウンサー
「ISSは、日本、アメリカ、ロシア、カナダ、ヨーロッパ各国など計15か国が協力して建設。地上およそ400km上空にある、人類史上最大の有人実験施設です。大きさはおよそ縦108.5m、横72.8mと、サッカー場とほぼ同じ大きさで、質量はおよそ420トンです」

野口聡一さん
「この模型は実物の100分の1なんです。そうすると、人間の大きさはちょうど私が持っているこの指し棒の(先端部の)オレンジのところがだいたい人の大きさだと思ってください。これが宇宙服を着た僕ですね」

野口聡一さん
「JAXAの日本実験棟はこちらです。進行方向の一番前です。僕が行った(2021年3月の)船外活動では、出口から出てグーっと上り、この橋げたのようなところ(トラス)を、一番端までずーっと手で進んでいって。(先端に)行くだけで30分ぐらいかかるのです」

郡司アナ
「50mの距離を30分かけて、手で進んでいくということですか?」

野口聡一さん
「なぜかと言うと一つは宇宙では1つ1つ手すりを持ちながら動いていかないといけない。もう1つは、何かあったときに宇宙に飛んでいかないように命綱がついているのですが、命綱が端まで届かないという問題がありまして、命綱を1度、慎重に付け替えなければいけないんです」

「太陽電池パネルの完成から20年ぐらい経っていますので、今回は一番端まで行き、これから新しく性能の良いものに付け替えていくための土台を組み上げてあげるため、7時間程度の船外活動でした」

■ISSの住環境 一番の変化は…

右松健太キャスター
「野口聡一さんが初めてISSに滞在してから15年。住環境はどのような進化があったのでしょうか?」

野口聡一さん
「基本的にはどのモジュールに行ってもだいたい同じようにしてあるのですが、大きな変化は実はネット環境です。私たちより前の毛利(衛)さん、向井(千秋)さんの時代はFAXしかなくて、我々の時にやっとカラープリンターとEメールが通じました。そして2009年に初めてネットがつながって宇宙から初めてツイッターを配信したのは僕たちなのです」

「そこからもどんどん通信環境が良くなって。宇宙でいろいろな映画などのストリーミングサービスを見たり、あとYouTubeをそのまま流せたりするのも大きいです。そのように通信環境は良くなったなと思います」

右松キャスター
「ISSの中の住環境を地球とだんだん近づけていくということも大きな目的なのでしょうか?」

野口聡一さん
「どこまでいってもISSは高級ホテルにはならないと僕は思います。基本的には仕事のための空間なので、生活環境を最低限整えつつ、そこで実験をするための仮の宿です」

「そうは言っても半年間この閉鎖環境で暮らす宇宙飛行士たちの心身のケア、特に心のケアというのはすごく大事なので、おそらくいちばんお金をかけず"クオリティ・オブ・ライフ"を上げるのがネット環境の改善だと思います。住居を広くしたり宇宙食を劇的に美味しくしたりというのは、すごくお金がかかるのですが、家族との通信や、映画、自分が作った映像を配信など、ネット環境さえあればかなり幸せに暮らせる。宇宙飛行士もだんだんそのようになってきてると思います」

右松キャスター
「ISSの中からネットショッピングも?」

野口氏
「僕は、母の日のプレゼントはISSから送りました」

■ISS内のおすすめスポット

右松キャスター
「去年、実業家の前澤友作さんが日本の民間人として初めてISSに滞在しました。今後宇宙旅行としてISSに滞在する方も増えるかもしれません。その場合にISSから望む景色のおすすめポイントなどありますか?」

野口聡一さん
「前澤さんもたくさん写真撮っていましたが、やはりISSでの娯楽の大きな部分は地球を見ることだと思います。なんといってもタダですしね。スタジオのパネルにもあるように、ISSには宇宙から地球を見下ろす巨大な円形の窓がありますが、すごく景色がいいところです」

「自分がいまどこを飛んでいるか、あるいは90分後にどこを通ってるか、全てアプリでわかるようになっているんですよ。ですから私の場合ですと富士山や、生まれ故郷の東京湾のあたりを、あらかじめアプリで予約をして、そこを通る時間を教えてもらえるようにしておく。その時間になったら窓に行って写真を撮る。やはり自分が知っている人たちがいる場所を上から見るっていうのは、宇宙飛行の醍醐味だと思いますね」

■宇宙開発の重要技術は再生利用と3Dプリンター

郡司アナ
「最近では持続可能な社会の実現が叫ばれてますが、その視点から見る宇宙というのはどうなのでしょうか?」

野口氏
「すごく大事なポイントだと思います。ISSに限っていうと、まず水資源はほぼ100%リサイクルしています。エネルギーは太陽光発電ですね。あと人間が住む以上、二酸化炭素を吐き出しますが、二酸化炭素を再生利用して酸素に戻してあげる『サバティエ』というような仕組みがありますが、ISSで試験的に運用しています」

「将来、人類が月や火星に長期間行くとなったときに、自分たちが持っているリソースをいかに長く使うか、持続可能なシステムにしていくかという意味では、水も空気も循環利用していくというところが宇宙開発でもキーの技術開発になるかなと思います」

鈴木一人さん
「持続可能性という点でいうと、もう1つこれからの宇宙開発で鍵になってくるのは3Dプリンターだと思います。ISSは地球から400キロのところにあり、補給を受けられるので部品もなくなったら地球から持っていけばいいということなるんですが、月とか火星に行くとそうはいきません。これからは3Dプリンターがあると、よりこの持続性が高まっていくと思います」

「また、宇宙は人間にとって非常に厳しい環境ですから、共に協力しないと死んでしまう世界です。いまウクライナ情勢で非常に殺伐とした国際関係になっていく中で、ISSはそれでもやはり一緒に協力しないと生き残れない、ということを伝えてくれる場所なのだろうと思います」

■ISS運用にもウクライナ情勢の影響

右松キャスター
「ロシアはISSの運用に重要な役割を果たしてきましたが、その事情が変わりつつあります」

郡司アナ
「ISSで高度を制御するという重要な役割を担っているのは『ロスコスモス』というロシアの宇宙機関です。CNNによりますと今年2月、ウクライナ侵攻後にアメリカ・バイデン大統領がロシアへの制裁を発表すると、『ロスコスモス』のロゴジン総裁はSNSに『我々との協力関係を断ち切れば、ISSが制御不能になって軌道を外れ、アメリカあるいはヨーロッパに落下する事態を誰が救うのか』と脅しともとれる書き込みをしました」

飯塚恵子 読売新聞編集委員
「ウクライナ侵攻は国際関係の様々な分野に影響を与えていますが、宇宙世界にもはっきりと影響を与えています。ISSは米欧日露などが参加し、まさに冷戦後の国際協調のシンボルだったわけです。仮に本当にISSからロシアが外れた場合、もうロシアは既に代わりを考えてるのです。ロゴジン氏は4月、今年中に完成すると言われている「天宮」という中国の宇宙ステーションの方に参加すると言ったと中国メディアがすでに伝えているのです。まさに地上での政治が宇宙世界に本当に直接波及するかもしれないという局面です。これを残念ととるか、あるいは純粋に宇宙学的にこちらの方に新しい進歩があるというふうにとるべきなのか」

■宇宙開発の第三極は企業

右松キャスター
「ISSは多国籍で協力してきたというところを考えると、いまの喧噪は届かないで欲しいと思います」

野口聡一さん
「まさに飯塚さんの図表がいまの状況をよく表していて、このような地政学的リスクからフリーなのが宇宙開発だと我々もずっと思っていたわけです。ISSにいる宇宙飛行士はまさに『運命共同体』ですから、背負っている国旗は何であれ、生き延びるためにはみんなが協力する、これは変わらないと思います。一方で、地上の皆さんはそれを支える体制をどうするのか。いま2大体制になりつつありますが、もし2年前にこの状況(ウクライナ情勢)が起きていたらISSはおしまいです」

野口聡一さん
「なぜかというと、ロシアのソユーズでしか宇宙には人が行けなかった訳です。それを救っているのがスペースX社です。欧米側の陣営と、中露のような色分けをしていますが、そこに平衡感覚を与えているのが、『スペースX社』や『ブルーオリジン社』という勢力が、その気になったら自分で宇宙船を上げて宇宙ステーション作るよ、と言うことができる勢力がいま動き出しているというのが、単純な2極にならない最大の理由だと思います。昔は第3極とは別の国でしたが、いまはまさに民間企業が国陣営に相当するぐらいの(宇宙開発の)影響力を持っている。そういう時代にこの2022年はあるのだということですね」

深層NEWSはBS日テレで月~金 夜10時より生放送

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