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「深層NEWS」宇宙飛行士野口聡一さん生出演SP〈前編〉~26年間の宇宙開発 日進月歩~

2022年6月6日 21:27
「深層NEWS」宇宙飛行士野口聡一さん生出演SP〈前編〉~26年間の宇宙開発 日進月歩~
2022年6月2日「深層NEWS」より

ISS=国際宇宙ステーション長期滞在や4度の船外活動など、日本の宇宙開発の中心人物の一人として活躍してきた宇宙飛行士・野口聡一さんが6月1日、26年つとめたJAXAを退職しました。翌2日にBS日テレ「深層NEWS」に生出演。

東京大学公共政策大学院教授、鈴木一人さんをまじえ、26年間の、そしてこれからの宇宙人生を伺いました。前編は、NASAスペースシャトル「ディスカバリー」、ロシア宇宙船「ソユーズ」、スペースX社 「クルードラゴン」と3つの機体で宇宙飛行し、見えてきた宇宙船の進化とは。

■宇宙体験の本質は「8分30秒後」

右松健太キャスター
「野口さんは26年間で3回の宇宙飛行をしています。ISSの滞在期間は通算335日17時間56分。日本人では最長の滞在です。宇宙滞在の原点とも言える2005年7月の初飛行で見た光景や実感はどのように焼き付いていますか?」

野口聡一さん
「おそらく宇宙体験の本質は無重力になった一瞬に凝縮されていると思います。私は初飛行のとき40歳でしたが、スペースシャトルで打ち上がって8分30秒で無重力になるのです」

「無重力になった瞬間に自分の周りのものが一斉にバッと浮き始める。自分の血液も浮いているのですが、目の前に広がる地球、まさに漆黒の闇に浮かんでいる地球を見た瞬間に『僕はこのために40年間待っていたんだな』っていうのをすごく覚えていますね。ですから最初のその一瞬で宇宙に来た意味というのは体に刻まれると思いました」

右松キャスター
「宇宙への興味を深めた高校3年生のときにイメージしていた宇宙と、2005年7月に感じた8分30秒後の宇宙はどのような差がありましたか?」

野口聡一さん
「年表に書いていただいていますが、2003年のコロンビア事故。今日、コロンビア号のピンバッヂつけているのですが、やはりこれが大きいです」

野口聡一さん
「私の仲間、クラスメイトが3名ほど犠牲になり、宇宙に行き帰ってこなかった。彼らが見た景色を僕も見たい、彼らができなかったことは無事の帰還だったので、それを果たしたい。宇宙でどういう景色を見てそれをどういうふうにその後生かしていくか。コロンビアの仲間ができなかったことをしたいというのが、ここまで3回宇宙に行ったこと以上に『3回帰ってきた』というところが僕の中では大事かなと思います」

■“おうちに帰るまで”が宇宙飛行

右松キャスター
「宇宙に『行く』というところに私たちはどうしても焦点を置きがちなのですが、『無事に帰ってくる』ということが大きなミッションということなのでしょうか?」

野口聡一さん「『おうちに帰るまでが遠足だから』『おうちに帰るまで気を抜かないでね』と話をしますけれども、やはり宇宙に行くのは危険な挑戦であるのは間違いありません。宇宙に行く、無重力に到達する、外から地球を見る、それで目的としては達成しているのですが、そういう稀有な経験をしたことを地上に帰って皆さんにお伝えしないとミッションとしては完遂しないのです」

■「夢を」「世界を」「宇宙開発の未来を」見た3つの宇宙船

右松キャスター
「初飛行がアメリカのスペースシャトル(ディスカバリー)、2回目の飛行はロシアのソユーズ。3回目はアメリカの民間宇宙船クルードラゴン。訓練を含めて20年以上にわたり3種類の宇宙船の進化をみてこられました。この間の宇宙開発の進歩をどうとらえていますか?」

野口氏
「本当に私は幸運で、3種類の違う宇宙船は、時代の申し子のような宇宙船たちばかりなんですよね。スペースシャトルは、70年代、80年代のテクノロジーを象徴する『夢』ですよね。子供の頃なんとなく宇宙船というとスペースシャトルというイメージがあると思いますが、その意味では『夢を見ることができた』機体です」

野口氏
「一方、ロシア(ソユーズ)はもちろん、ガガーリンさん以来長い歴史があるんですが、実は非常に野心的にどんどん組み替えている、新しいテクノロジーを入れている、ロシアの力を結集してできている、安全性が非常に高い宇宙船なんです。そういう意味では『世界を見た』という感じです。世界の宇宙開発の最前線をソユーズで体験できた」

野口氏
「スペースXはもう間違いなく『宇宙開発の未来』です。これから2020年代、30年代はスペースXをはじめとする民間企業を中心に回ると言って過言ではない。その第一歩になっているのはクルードラゴンです」

「宇宙飛行士を育成する、ロケットも造る、打ち上げに関わる色々なサポート体制をスペースX1社でやっているっていうのは本当にすごいことです。それまでは国が全面的に後押ししないとできない作業なわけです。例えば、何か異常事態があれば医療班が行く、海に不時着したらボートを出して助けに行く、そういうことを全部スペースXが自前でやろうとしているので、そういう意味では『宇宙開発の未来を見た』というのがこの3回目のフライトかなと思いますね」

■失敗から立ち上がるのが早い

右松キャスター
「去年は『宇宙旅行元年』と言われ民間企業の宇宙進出が非常に盛んになった1年でした。これまで宇宙船の開発は、国家事業として巨額の予算をつぎ込み、多数の部品メーカーと共に作り上げるプロジェクトですが、一方で、宇宙ベンチャー企業による開発の強みは、どの点に見いだせますか?」

野口聡一さん
「まさしくこれは時代の大きな変わり目で、(宇宙飛行は)国単位でなければできないとずっと思っていたのです。私もそう思っていたのですが、例えば、2021年はプロの宇宙飛行士よりも民間宇宙客が多かった年なのです。そんなことは人類の歴史上ありませんでした」

野口聡一さん
「その意味では私は3回、国の事業として宇宙飛行をしましたが、退職を決意する大きな潮流というのは、宇宙に行くこと自体はもう国の事業でなくても行けると。実際、NASAの退役した飛行士も民間宇宙客の方たちのガイド役として宇宙に行くような例が出てきています」

「国家政策としての宇宙飛行はもちろんこれからも大事ですが、そこはもう後進に任せようと。優秀な後輩がいっぱいいますし、宇宙飛行士候補者を選んでいますしね」

鈴木一人さん
「国は税金を使っている以上、失敗できない。とにかく失敗のないように繰り返し色々なテストや何度もチェックをする。言ってしまえば効率は悪いのです。色々な技術が積み上がってきて安全性というのは大分確立されているから、もっと試験を少なくして効率よく、より安く宇宙に行けるようにする、こういう発想や思想が違うのだと思います。これからは安全性を担保しながら効率性を重視し、どんどん安くしていき『みんなが乗れるようにする』という方向に進んでいくと思います」

野口聡一さん
「スペースXは『失敗するために会社をやっているんじゃないの?』というほど失敗を重ねた時期もありました。逆に失敗することから立ち上がるスピードが速いのです。失敗ギリギリのところを狙っていく中でうまくいかなかったらそこから次の新しい対案をすぐに出してすぐに立ち上がってやり直す。結果としてすごくサイクルが回るのが早い」

「これからもしかしたら失敗をものともしない企業や民間の力というのがこの宇宙開発の世界を引っ張っていくのかなと思います」

飯塚恵子 読売新聞編集委員
「初期の頃、いわゆる『第一世代』の毛利衛さんや向井千秋さんは科学者として宇宙に行き、実験することがミッションでした。それが変わったのが1996年。宇宙飛行をした若田光一さんは学者でなくJALのエンジニアでした」

「野口さんはもともとIHI(石川島播磨重工業)のエンジニア。ISSの、言ってみれば学者というより建設作業員のような組み立て作業も船外活動でしてきた。宇宙の現場で、さらに現場に近いところで泥臭くやったというイメージがあって親近感があるといいますか、宇宙が今後さらに身近になると思いますが、その先鞭をつけたのが野口さんだと感じています」

野口聡一さん
「ありがとうございます。パイオニアである毛利(衛)さん、向井(千秋)さん、土井(隆雄)さんを私もリスペクトしています。学者の方々が環境利用のため、学術目的のために宇宙へ行くのはこれからも続くと思いますが、もう少し大勢の人が行くようになるためには、やはりインフラ整備やもの作りの場面というのが増えてきます」

「我々の場合には国際宇宙ステーションを作り上げるというのは大きな使命だったので『船外活動』というとかっこいいですが、やっていることはケーブルをつないだりネジを締めたり、物を動かしたり、まさしく現場仕事なわけです。ですから、その意味では『宇宙を我が手に』ということですね。宇宙でも普段僕たちがやるような手仕事が必要なんだというのを感じてもらえたのは、たぶん私の世代からなのかなと思います」

深層NEWSはBS日テレで月~金 夜10時より生放送