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【独自解説】法律や憲法の上に存在する“十大原則”とされる「掟」…内部協力者が告発する北朝鮮の“リアル”…大量の公開処刑や餓死者続出でも「北朝鮮に人権侵害はない」!?

2024年1月8日 14:00
【独自解説】法律や憲法の上に存在する“十大原則”とされる「掟」…内部協力者が告発する北朝鮮の“リアル”…大量の公開処刑や餓死者続出でも「北朝鮮に人権侵害はない」!?
北朝鮮で何より重い「掟」とは…?

 2023年は、北朝鮮にとって建国75年、そして朝鮮戦争の休戦70年という節目の年でした。華々しく行われる数々の式典。しかし、頻発する公開処刑や続出する餓死者など、北朝鮮国内から見た“リアル”はそれとはまったく異なっていました…。北朝鮮の内部情勢を現地の協力者と共に取材している「アジアプレス」の石丸次郎氏が、北朝鮮のイマを徹底解説します。

党の方針は「法として至上の命」「無条件に徹底して貫徹」…北朝鮮に人権侵害は「ない」と言われる理由

 2023年12月27日、2024年の方針などを決める朝鮮労働党の重要会議の2日目が行われました。金正恩総書記は、「アメリカなどによって朝鮮半島の軍事情勢は極限に至った」とした上で、軍や軍需工業部門、核兵器部門などが戦争準備を加速させるための課題を示したということです。また、「戦略的な協力関係を拡大し国際規模で共同闘争を展開する」と、ロシアなどとの協力をさらに強化する方針を示しました。

Q.金総書記は、以前は農業問題などの話をしていたのが、最近は軍事の話ばかりの様な気がしますが?
(「アジアプレス」大阪事務所代表 石丸次郎氏)
「この数年、毎年末に一年を総括して翌年の展望を提示する、労働党の『中央委員会全員会議』というものを開いています。その中身は“さわり”しか発表しないので、具体的な内容は分からないのですが、この1年間の課題について、できたのか、できていないのか、ということがおそらく討議されていると思います。一方で、朝鮮半島が軍事的に緊張する中、イスラエル・ガザの問題やウクライナの問題、ロシアとの接近など、国際的な情勢は北朝鮮にとって追い風になっていますので、アメリカに対抗姿勢をしっかりうち出していこうとしているのだと思います」

 2023年8月、国連安保理は、「北朝鮮は国民が飢えや必需品の不足に直面しているにもかかわらず核兵器開発計画に多額の資金を費やしている」と北朝鮮の責任を追及しました。また、脱北者が証言して、「政府は我々の血と汗を指導者の裕福な生活とミサイルに変えている」と発言しました。さらに11月の国連総会でも、中国などにいる脱北者の強制送還が本格化している状況を指摘する決議案を採択されました。そんな中、北朝鮮のキム・ソン国連大使は「“人間ゴミ”の虚偽証言が盛り込まれている。彼らは祖国で罪を犯した後、家族を捨てて逃走した者たち」と脱北者を非難しました。

 石丸氏によると、「北朝鮮に人権侵害はない」と主張しているとのことです。どういうことかというと、北朝鮮の統治システムに特徴があり、「各法律」や「憲法」のさらに上に「掟」=党の唯一的領導確立の“十大原則”があるということです。「十大原則」とは、労働党の最高指導者に対する国民の行動規範だということで、「北朝鮮国民は最高指導者に対し絶対的に忠誠すべきだ」といい、従わない者は政治犯と見なされるそうです。石丸氏によると「“十大原則”に照らせば人権侵害はないという理屈」だということです。また、“十大原則”は、金正恩総書記になって改訂され「党の路線と方針、指示をまさに法として至上の命令として捉え、無条件に徹底して貫徹しなければならない」としています。さらに人の評価については、「党と首領に対する忠実性を尺度にすべての人を評価」とあります。

Q.“十大原則”は金正恩総書記以前からあったのですか?
(石丸氏)
「元々は、1967年、金日成時代にソ連や中国の影響を嫌って、“金日成主義”でやらなければならない、と初めて打ち出したものです。その後、70年代に金正日氏が定めたこの“十大原則”の前身である『党の唯一思想体系確立の十大原則』がありますが、これは3代目を想定していなかったので、2013年6月に、金正恩時代に合わせて改訂しました。これには、『唯一、たった一人のリーダーに絶対忠誠しなさい、命がけでそれをしなさい』という条項が事細かく明記されています。そして恐ろしいところは、北朝鮮の国民は、学校・職場などすべての組織で、毎週1回必ず反省会をしなければだめで、そこで『先週1週間私は“十大原則”のこの部分を守れませんでした』と死語批判しなければいけません。それと、相互批判というものをしなければなりません。それは同じ組織の人に、『あの人は何ができていなかった』と批判しなければいけないのです。この十大原則に基づいて、忠誠心・服従の程度がどうであったか毎週チェックされます」

現地協力者が実際に見た、“公開処刑”の恐怖

 韓国メディアは、2023年8月に北朝鮮の恵山で男女9人が公開処刑されたと報じました。「アジアプレス」は9月1日、10月7日・12月24日と公開処刑を報道していて、いずれも場所は恵山だということです。8月30日(9月1日報道)に、国家保有の役牛を殺して密かに流通させた罪で9人が銃殺されました。そして、9月25日(10月7日報道)には、医薬品を個人の薬商人に横流しした罪で1人が銃殺。12月19日(12月24日報道)は、穀物を運ぶ商人を襲った強盗殺人の罪で1人が銃殺されたということです。8月の公開処刑は、近隣住民などが多数動員される中で行われました。動員され目撃した取材協力者は、「裁判官は『党が農業第一主義を掲げて食糧問題を解決しようとしているのを阻害した罪は、死んでもそそげない』と罪状を読み上げたあとすぐ射殺した」「動員された人たちは衝撃を受けていた。私も恐ろしくて今も震えている」と話したということです。石丸氏は、公開処刑執行のワケを「社会秩序の乱れが深刻なことの表れではないか」と言います。恵山以外でも執行されているのか?という疑問に対して、「現状は恵山以外の協力者から公開処刑の報告は入って来ていない。立地的なことが背景にあると考えている」としています。

Q.「立地的なことが背景」とは?
(石丸氏)
「パートナー(取材協力者)とは中国の携帯電話・スマートフォンを北朝鮮国内に入れて意思疎通をしています。中国の携帯の電波が繋がるのは中朝国境から2~3キロまでなんです。北朝鮮は“コロナ禍”以降徹底的に閉鎖していますから、3年以上郵便物も、はがき1枚届きません。恵山は中国との国境沿いの都市なのですが、国境沿いで公開銃殺をすると、情報が私たちのような取材をしている者に漏れてきます。そして、わたしたちのパートナーが実際に『公開裁判をするから来い』と言われて動員され現場に行かされてしまいました。それで、具体的に『何時・誰が・どのような罪で殺されたのか』という情報が伝わってきました。これは私たち『アジアプレス』だけではなくアメリカの『R.F.A(ラジオフリーアジア)』というメディアも北朝鮮内部に連絡網を持っているので、すぐに報道しました」

Q.北朝鮮としてはこういう公開銃殺の情報が海外に漏れても良いと考えているのですか?
(石丸氏)
「海外に漏れるリスクを覚悟してでも、恵山の住民に見せしめとして公開処刑をしなければならないと決定したのだと思います」

「一人で歩く兵士がいたら、警察に通報せよ」豊作なのに解決しない食糧難 …餓死者続出、その背景

 10月24日 韓国に入った脱北者は、脱北した理由として「食糧難」を挙げていました。石丸氏の現地協力者の居る地域では、2023年は洪水も干ばつもなく農作物の作況は良好な年だったとのことです。しかし、収穫量は前年より増えたものの、協力者は「本当はもっと収穫量が増えていたはずだ」といいます。石丸氏によるとその原因のひとつは、収穫直前の盗難だということです。「腹を空かせた都市住民が収穫前に農地に入り作物を盗む事案が続発した」そうです。さらに、資材の不足が挙げられます。「資金難により必要な資材購入ができず、生産効率を上げられなかった」、また「ガソリン不足から輸送できないまま腐らせたケースも出た」ということで、収穫量が増えたといっても、広く国民に行き渡らない状況だったということです。

(石丸氏)
「大事なポイントなんですが、北朝鮮で誰がなぜ空腹なのかというと、“コロナ禍”が始まって間もなく4年になりますが、その間一番深刻だったのは、都市住民なんです。都市住民は、統制が厳しくなって貿易も(当局が)止めてしまって、現金収入を失ってしまい、市場で物を買えなくなってしまったのです。仕事もなくなってしまいました。この人たちの様な都市住民の中でも脆弱層の人たちが、農村に行って盗みをはたらいたり、物乞いをしたりする事例がすごく広がっていました。そして2023年の1月から市場での食糧販売が禁止されました。食糧は専売制にして、『国指定の専売所で買いなさい』となりましたが、量が足りない状態です。国が確保しなければいけない食糧が足りていないので、販売量も配給も足りない状態です」

Q.平壌でも一般庶民には食糧がまわってきていないのですか?
「高位層にはちゃんと特別な配給があります。しかし、人口200万人といわれる平壌ですが、大半は庶民なんです」

 収穫期前は、兵士による窃盗が深刻化しているため、「一人で歩く兵士がいたら、警察に通報せよ」と言われているそうです。石丸氏によると「“新型コロナ”による一般人との接触禁止が緩和された途端、食べ物を求め犯罪に走る兵士が増え、監視対象になった」ということです。

(石丸氏)
「兵士は空腹に加えストレスも多いので、外出を許可されると“タカリ”をしたり強盗に入ったりという犯罪が2023年の7月~8月に非常に増えたので、本来兵士の取り締まりは憲兵がするのですが、それでは間に合わないので警察にも兵士の取り締まりの任務を与えるという例外的な措置に入っています」

(「情報ライブミヤネ屋」2023年12月28日放送)