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【独自解説】最悪白紙の可能性も…2030年秋の開業を目指す大阪・夢洲の統合型リゾート「IR」の計画に暗雲?問題の背景にある「万博」と「解除権」

2024年8月12日 14:00
【独自解説】最悪白紙の可能性も…2030年秋の開業を目指す大阪・夢洲の統合型リゾート「IR」の計画に暗雲?問題の背景にある「万博」と「解除権」
カジノを含む統合型リゾート「IR」計画が白紙に?

 2025年に開かれる大阪・関西万博の会場のすぐ北側では、2030年秋の開業を目指す、カジノを含む統合型リゾート・IRの整備が進められていますが、今、このIRをめぐって、雲行きが怪しくなる事態となっています。しかも最悪の場合IRが白紙になるかもしれないという話も…大阪・夢洲の巨大プロジェクトは予定通り開業できるのでしょうか?読売テレビ・平田博一記者が徹底解説します。

■経済波及効果は1年で約1兆1400億円―「IR」計画に今何が…?

 大阪の夢洲というところで、2025年に万博が開幕しますが、これまで建設費の増額が続いていたり、またメタンガスの問題があったりと様々な課題が指摘されています。そして、会場となるこの夢洲では、万博だけではなく、IRの建設が計画されているのですが、そちらにも暗雲が垂れ込めています。

 実は今、このIRを巡って、最悪の場合“白紙”になり得る事態になっているというのです。このIRは、年間の経済波及効果が1年で約1兆1400億円にもなると言われています。またこれを目指して周辺のインフラ整備なども進められてきた中で、一体いま何が起きているのか解説します。

■国が認可済みの工事スケジュールに、万博トップが「待った!」対立する大阪側と万博

 まず場所から確認したいんですが、IRの会場は大阪の人工島「夢洲」です。万博会場のすぐ北側で整備が進んでおり、2030年の秋ごろに開業する予定で現在計画が進められています。

 ここでは、カジノや国際会議場、そしてホテルなどが統合したリゾート施設というものができる予定なんですが、ここに来て急遽、万博の国際的な機関のトップであるケルケンツェス事務局長が、「万博の期間中は工事の中断を」と発言して、少し事態が危うくなっているということなんです。

 スケジュールなんですが、2023年の12月に工事は始まりました。大阪市が既に約255億円の費用負担をして、液状化対策の工事が進められています。

 さらに今後の予定としましては、2024年の夏ごろに準備工事が着手される予定で、その後万博が開幕する2025年4月ごろには建設工事が本格的に着手されます。そして、2030年夏ごろに工事が完了して2030年の秋ごろに開業する予定ということです。このスケジュールというのは、既に国が認可をしているというものなんです。

 国際機関のトップや万博協会側が、「万博の期間中はIRの工事を止めてください」と言っているんですが、一方でIRを進める大阪府・市側は「IRの工事を止めろというのはおかしい」と言っているんです。

■納得できない大阪府・市…工事スケジュールの許可をした国は、“だんまり”

 この件について、大阪府の幹部に取材したんですが、「なんで今さら」という声が聞かれました。2024年6月に万博の参加する国々が一堂に会する国際会議があったんですが、どうもこちらで日本の万博協会側が国際機関のトップに対して、「万博期間中も横でこのような形でIRの工事が行われる予定だ」というのを伝えたらしいんです。その時に、この国際機関のトップは、「私はこんな話は聞いていない」と発言し、今回の事態に陥ったそうです。

 これを受けて万博協会側も、景観の悪化であったり騒音の問題など、参加する国々から苦情が来たときに、「これは外交問題になりかねない」と懸念を抱いて、大阪府や大阪市に対して「万博期間中にIRの工事は中断してくれませんか」という話をしに行ったということなんです。

 ただ、大阪府・市側からは、「万博期間中にIRの工事をするということ自体、そもそも国が認可していること」、「工事の騒音もある程度で抑えられるというのは検証が済んでいるし、そもそも開幕中は万博会場の方がうるさいぐらい」といった声も聞こえてきています。7月25日には万博協会のトップである十倉会長と、大阪府のトップである吉村知事が協議をしたんですが、こちらでは結論は出なかったということです。

 では、認可を出した国は、今どういう立場なんのかというと、“だんまり”しているということなんです。これには大阪府の幹部も「本来、これは国が認可しているものなので、国がもうちょっと調整してほしい」といったような、嘆きの声も聞かれました。

工事中断で数百億円規模の追加負担、開業は1年程度先送りか…最悪“白紙撤回”のおそれも

 この後の流れですが、関係者に取材をしたところ、仮に万博が行われる半年間工事を止めたとすると、数百億円規模の追加の費用負担が必要になってくるだろうということです。さらに、開業も半年では済まず1年強ぐらい先延ばしにしないといけないような状況になり得ると話していました。そしてこれが最悪の場合、先ほど申し上げた“白紙”になるということもあり得るということなんですが、その背景にあるのが、事業者と大阪府・市の間で結ばれている『解除権』というものです。

 2023年9月に、「実施協定」という、今後の進め方に関する契約が、大阪府・市とIR事業者の間に結ばれたんですが、その際に、7つの要件が整わなかった場合は、事業者側が違約金なしで撤退できる、という権利が規定されているんです。

この中には、『開発への影響』や『資金調達』、『新型コロナの収束』などの要件が挙げられているんですが、万博期間中に工事が中断されることになれば、『開発に大きな影響を与える』可能性があります。事業者側は「解除権」を持っていますので、最悪の場合、ここに行き着く可能性というのがまだ残されている状況です。

 実は、過去にもこの「解除権」というのが大きな話題になったことがありました。京阪・中之島線は、「中之島駅」から、万博会場のすぐ近くにできる夢洲駅へと繋がる大阪メトロの「九条駅」まで延伸させる動きがあったのですが、これもやはり先ほどの「解除権」というのが残されていたために、「IRが本当に開業できるのかが不透明だ」ということで、京阪電鉄は2030年秋までの開業というのを断念しています。

 実は、関係者によると、開業への大きなカギとなるこの「解除権」を7月中には放棄しようとする動きがあったということなんです。解除権を放棄して、具体的に建設を進めようとしていた中で、「万博期間中の工事中断」要請という話が突如出てきたので、「解除権の放棄」は先延ばしになったということです。

大阪の成長戦略の柱でもある「IR」、今後のポイント

 先ほどから話に出ている、「万博期間中にIRの工事が中断されることになった場合」の追加の費用負担に関して、8月5日、大阪府の吉村知事は、「これは大阪府・市が税金で担うものではない」と話しているのですが、一方で事業者側にとっても、予期せぬ費用負担ですので、そんなにたやすく受け入れられるのかという問題もあると思います。

 事業者側と大阪府・市側は万博期間中の工事について、対策を検討しており、まとまり次第、万博協会側にも伝えるということなんです。

 万博期間中に、計画通り工事を続けられるのか、それとも工事が全くできずに中断せざるを得ないのかが、今後のIRの大きなポイントになりそうです。


(『読売テレビ』平田博一記者)

(かんさい情報ネットten. 「キシャ目線」2024年8月5日放送)