芥川賞作家・九段理江 世界で報じられた受賞会見 “生成AI活用”「言葉の本質を考えるきっかけに」
先月、芥川賞を受賞した「東京都同情塔」。実は作家の九段理江さん(33)の受賞会見が、世界中で報じられるという異例の広がりを見せています。
舞台は、犯罪者が快適に暮らすための高層タワー建設が計画される架空の日本。建築家の牧名が、過度に寛容を求める社会の風潮に違和感を覚えながらも力強く生きていく物語です。
受賞の記者会見、九段さんの発言が大きな話題となりました。
九段さん
「全体の5%ぐらいかな…生成AIの文章をそのまま使っているところがある」
作品で生成AIを使ったことを明かしたのです。この会見は海外でも取り上げられ、「彼女の本の執筆にAIが協力したことを認めた」など、世界中で様々な声が上がったのです。
中島芽生キャスター
「こうした反響の大きさは、予想していましたか?」
九段さん
「本当に予想外で、こんなに反応があるものだとは思っていなかったです。特に海外のメディアから多数の取材依頼が今、来ていて、芥川賞がこんなにも海外で報道されるものかと自分でもびっくりしています」
中島キャスター
「まわりで何か、変化というのはありましたか?」
九段さん
「まだ翻訳の出版がされていないんですけど、海外のウィキペディアで『リエ クダン』のページがすでに作られていたり…見るととても戸惑いを感じます」
中島キャスター
「自身でも戸惑ってしまうくらい、色々な反響が色々なところであるんですね」
それほど話題となった今回の作品ですが、実はこのような形で生成AIを使っていました。
作品では、登場人物たちが度々、辞書がわりに生成AIを利用する様が描かれています。
「東京都同情塔」より
「ふと気になって、枕元のスマートフォンに『スポーツの語源』と入力する」
生成AI
「ラテン語のdeportareデポルターレが語源です。『運び去る』、『運搬する』を意味します」
時には生成AIの文章に苛立ち、問いかけをする場面もあります。
「東京都同情塔」より
「君は、自分が文盲であると知ってる?」
生成AI
「いいえ、私はテキストベースの情報処理を行うAIモデルですので、文盲ではありません」
この文章、どう執筆したのでしょうか。九段さんが執筆の際に使用していたパソコンで、生成AI「Chat GPT」と実際にやりとりしていた記録を見せてくれました。
九段さん
「『君は自分が文盲であると知ってる?』っていうふうに質問して、それに対して、その答えをそのまま使っている」
九段さんは主人公の言葉を投げかけ、生成AIが作った文章を活用したのです。
執筆する上である印象を受けていました。
九段さん
「その場、その場の表面的なことを言っているなっていうことは思いますね」
作品で主人公は生成AIに対して、次のような感情をぶつけています。
「東京都同情塔」より
「いくら学習能力が高かろうと、AIには己の弱さに向き合う強さがない。無傷で言葉を盗むことに慣れきって、その無知を疑いもせず恥じもしない」
■「言葉の本質を考えるきっかけに」
中島キャスター
「色々はっとさせられる言葉がたくさんありました。そもそも、どうして生成AIを使って小説を書こうと思ったのですか?」
九段さん
「生成AIを使うことは、この作品の重要な位置付けを占めていたからです。私は普段から生成AIを全く使わない人間なので、想像だけで書くよりも実際に自分で使用した実感が小説のリアリティーのために役立つのではないかなと思ったことがきっかけでした」
中島キャスター
「なぜ『AI』をテーマの一つにしようと思ったのですか」
九段さん
「都内に刑務所を建てるという話なんですが、どんな名前が良いのか試しにChat GPTのような生成AIを使って聞いてみたら、例えば『セカンドチャンスセンター』や『リカバリーセンター』などカタカナばかりで回答が返ってきました」
「そういったことに違和感があり、どうしてそういう言葉を提案するのか、またAIはなぜそれが正しいと思っているのか…色々なことが頭に引っかかったんです。そして、AIの文章は全部敬語で返ってきたりとか、平均的な回答しかなかったり、そういった違和感と人間の血が通った言葉を対比させることで言葉の本質を考えるきっかけにしたかったんです」
「例えば、作中のある登場人物の言葉をあえてつたなく、文法的にも間違ったものにしたりとか…そういうことを行いました。それは結構難しかったです」
中島キャスター
「私も読みましたが、自分が使う言葉を本当にもう一度見直して、大切にしていこうと感じました」
(2月9日放送『news zero』より)